危機の経済 識者は語る③ 世界かく乱する米政権
龍谷大学名誉教授 夏目啓二さん
5Gで世界をリードする中国のファーウェイの技術開発力と世界的な影響力に対してトランプ政権は、2018年8月、政府機関がファーウェイ製品などを使用することを禁じる国防権限法を制定しました。さらに、同盟国に対してもファーウェイの5Gの不使用を呼び掛けました。5Gの次世代通信技術の重要性と安全保障上の理由から、米国のファーウェイに対する排除網は、「新しい経済冷戦」の始まりといわれました。
しかし、19年3月の段階では、欧州の同盟国に対する米国の対ファーウェイ排除網の構築は、成功していません。米国に追従したのは、オーストラリアと日本だけでした。
しかし、20年6月、英国政府内でも、次世代通信規格の5Gからファーウェイを排除すべきだとの声が高まりました。新型コロナウイルスの感染拡大で、中国への不信感を急速に増しているからです。さらに中国が香港への統制を強める「香港国家安全法」の制定を決めたこともあり、香港の旧宗主国である英国は中国に対して寛容な態度を取りづらくなったからです。
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北京のファーウェイ店内=7月14日(ロイター)
米が輸出禁止
ファーウェイは従来、半導体を外部から調達していましたが、04年に半導体の設計・開発を手掛ける海思半導体(ハイシリコン)を設立し、内製化を進めてきました。
ハイシリコンは現在、スマホの中央演算処理装置(CPU)や5G用基地局で使う半導体などの開発で世界トップクラスの技術を持ちます。ファーウェイがスマホ事業で使うCPUの自社設計比率は16年の45%から、19年には75%まで上昇しました。(「日経」5月23日付)
ただ、生産については外部委託に頼り、ハイシリコンが設計・開発した半導体は主に台湾積体電路製造(TSMC)に生産を委託する体制を続けてきました。特にファーウェイの旗艦スマホのCPUや5G用基地局に使うCPUはTSMC製です。
ところが、米国政府は20年5月15日、米国製の製造装置を使った半導体についてファーウェイ向けの輸出を事実上禁じると発表しました。TSMCは米国政府の規制に応じ、すでに受注済みの半導体はファーウェイに出荷するが、新規受注は止めました。
このためファーウェイは、台湾の聯発科技(メディアテック)と中国国有の紫光展鋭(UNISOC)との連携を深め、半導体を確保する方針です。ファーウェイはすでに、中国の半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)にも半導体チップの生産を一部委託しています。
日本にも影響
19年末までは、英国政府は米国からファーウェイ完全排除の圧力があっても応じませんでした。しかし、英国政府が、コロナ禍を期にファーウェイ排除に転ずれば、自動運転など次世代技術の基盤となる5G整備が遅れる可能性もあります。さらに、ファーウェイを採用する欧州各国の判断にも影響しかねません。
また、ファーウェイから半導体を製造受託してきた世界最大の台湾のTSMCの受注停止は、その受注規模の大きさから考えてTSMCの雇用問題を生じる可能性があります。
最後に、米国のファーウェイ排除は、日本の半導体装置メーカーに影響を及ぼします。日本の半導体製造装置の中国向け輸出はここ数年急増しています。米国からの禁輸で窮地に立つ中国が半導体を国産化するカギを握るのは日本企業であるからです。
また、米国のファーウェイ排除は、日本のスマホ部品メーカーにも影響を及ぼします。米国商務省によるファーウェイ向け部品の禁輸により、ファーウェイのスマホから米国製部品が減少し(約1%)、中国製部品(約42%)、日本製部品(約35%)への依存度(約77%)が高まっているからです。
米中対立に突き進むトランプ政権は、世界経済をかく乱します。米国民の選択が問われる20年11月の大統領選挙。世界は、注視しています。日本企業と政府もまた、自主的な判断を求められています。
(この項おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年7月23日付掲載
アメリカが中国のスマホメーカー・ファーウェイを排除をする。一方のファーウェイは、部品の内需化を進める。
日本の部品メーカーも密接に関わっている。自主性が求められます。
龍谷大学名誉教授 夏目啓二さん
5Gで世界をリードする中国のファーウェイの技術開発力と世界的な影響力に対してトランプ政権は、2018年8月、政府機関がファーウェイ製品などを使用することを禁じる国防権限法を制定しました。さらに、同盟国に対してもファーウェイの5Gの不使用を呼び掛けました。5Gの次世代通信技術の重要性と安全保障上の理由から、米国のファーウェイに対する排除網は、「新しい経済冷戦」の始まりといわれました。
しかし、19年3月の段階では、欧州の同盟国に対する米国の対ファーウェイ排除網の構築は、成功していません。米国に追従したのは、オーストラリアと日本だけでした。
しかし、20年6月、英国政府内でも、次世代通信規格の5Gからファーウェイを排除すべきだとの声が高まりました。新型コロナウイルスの感染拡大で、中国への不信感を急速に増しているからです。さらに中国が香港への統制を強める「香港国家安全法」の制定を決めたこともあり、香港の旧宗主国である英国は中国に対して寛容な態度を取りづらくなったからです。
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北京のファーウェイ店内=7月14日(ロイター)
米が輸出禁止
ファーウェイは従来、半導体を外部から調達していましたが、04年に半導体の設計・開発を手掛ける海思半導体(ハイシリコン)を設立し、内製化を進めてきました。
ハイシリコンは現在、スマホの中央演算処理装置(CPU)や5G用基地局で使う半導体などの開発で世界トップクラスの技術を持ちます。ファーウェイがスマホ事業で使うCPUの自社設計比率は16年の45%から、19年には75%まで上昇しました。(「日経」5月23日付)
ただ、生産については外部委託に頼り、ハイシリコンが設計・開発した半導体は主に台湾積体電路製造(TSMC)に生産を委託する体制を続けてきました。特にファーウェイの旗艦スマホのCPUや5G用基地局に使うCPUはTSMC製です。
ところが、米国政府は20年5月15日、米国製の製造装置を使った半導体についてファーウェイ向けの輸出を事実上禁じると発表しました。TSMCは米国政府の規制に応じ、すでに受注済みの半導体はファーウェイに出荷するが、新規受注は止めました。
このためファーウェイは、台湾の聯発科技(メディアテック)と中国国有の紫光展鋭(UNISOC)との連携を深め、半導体を確保する方針です。ファーウェイはすでに、中国の半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)にも半導体チップの生産を一部委託しています。
日本にも影響
19年末までは、英国政府は米国からファーウェイ完全排除の圧力があっても応じませんでした。しかし、英国政府が、コロナ禍を期にファーウェイ排除に転ずれば、自動運転など次世代技術の基盤となる5G整備が遅れる可能性もあります。さらに、ファーウェイを採用する欧州各国の判断にも影響しかねません。
また、ファーウェイから半導体を製造受託してきた世界最大の台湾のTSMCの受注停止は、その受注規模の大きさから考えてTSMCの雇用問題を生じる可能性があります。
最後に、米国のファーウェイ排除は、日本の半導体装置メーカーに影響を及ぼします。日本の半導体製造装置の中国向け輸出はここ数年急増しています。米国からの禁輸で窮地に立つ中国が半導体を国産化するカギを握るのは日本企業であるからです。
また、米国のファーウェイ排除は、日本のスマホ部品メーカーにも影響を及ぼします。米国商務省によるファーウェイ向け部品の禁輸により、ファーウェイのスマホから米国製部品が減少し(約1%)、中国製部品(約42%)、日本製部品(約35%)への依存度(約77%)が高まっているからです。
米中対立に突き進むトランプ政権は、世界経済をかく乱します。米国民の選択が問われる20年11月の大統領選挙。世界は、注視しています。日本企業と政府もまた、自主的な判断を求められています。
(この項おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年7月23日付掲載
アメリカが中国のスマホメーカー・ファーウェイを排除をする。一方のファーウェイは、部品の内需化を進める。
日本の部品メーカーも密接に関わっている。自主性が求められます。
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