課税新時代① 投機抑える金融取引税
国際課税研究者 津田久美子さんに聞く
つだ・くみこ 1986年東京都生まれ。中央大学総合政策学部卒。民間企業に勤務後、2013年から北海道大学法学研究科修士課程、15年から同研究科博士課程在籍(国際政治)。現在、北海道科学大学で非常勤講師。グローバル連帯税フォーラム理事。共著に上村雄彦編『グローバル・タックスの理論と実践』。
新型コロナウイルス危機の中、地球規模の課題に対処するために地球規模で新しい税を制度化するグローバル・タックス(国際連帯税)への関心が高まっています。その一つが金融取引税です。同税の歴史を研究する津田久美子さんに聞きました。(杉本恒如)
―金融取引税とは何でしょうか。
金融市場で取引されるあらゆる金融商品の売買に対して低率の税金を課す政策が金融取引税です。代表的な課税対象は、株式、債券、デリバティブ(金融派生商品)、為替の四つです。この中の一部、例えば株式だけに課税する構想も金融取引税と呼ばれます。
―金融取引税の目的は何でしょうか。
税制には主に二つの役割があります。一つは財源調達手段としての役割。もう一つは政策手段としての役割です。単純に税収を集めること以外に政策上の目的があるのです。歴史的に変化も見られますが、金融取引税の政策上の目的にはもともと投機的な金融取引の抑制があります。
東京証券取引所のマーケットセンター=東京都中央区
低率で多額の税
1970年代以降、グローバルな金融市場が急速に成長しました。国境を越える資本移動があまりに過剰で流動的になり、通貨危機、金融危機を頻繁に引き起こしました。「経済の金融化」とも呼ばれる現象です。
過剰な流動性の背景には投機があります。利ざやを稼ぐことのみを目的にした投機的な金融取引は短期間に何往復も売買を繰り返します。その取引一つ一つに税を課すならば、低率でも累積的に多額の税が蓄積されます。こうして投機的取引の抑制を狙うのが金融取引税です。低率なので長期的な取引にはさほど影響を与えません。むしろ市場の安定は長期的な投資に好影響をもたらすでしょう。
―金融取引の規模が大きいので財源調達手段としても優れているといわれます。
金融市場は実体経済の何倍もの大きさですから、低率であっても巨額の税収が見込まれます。当然、課税対象が広ければ広いほど税収額も増えます。
欧州連合(EU)は株式と債券に0・1%、デリバティブに0・01%の税を課す金融取引税のプランを2011年に提案しました。EU加盟国のうち11カ国がこれを実施することで13年にいったん合意しました。11カ国で見込まれる税収は300億~350億ユーロ(約3兆9000億~4兆5500億円)と試算されました。11カ国のGDPの0・4~0・5%を占めるといいます。
仏伊で単独導入
―金融取引税をめぐる議論と実践の現状はどうですか。
金融取引税導入で合意したEU有志連合は具体化の交渉を続けてきましたが、なかなか進展せず、15年にエストニアが離脱して10力国になりました。
他方でフランスとイタリアは単独での導入に踏み切り、スペインも導入予定です。フランスは時価総額10億ユーロ以上の国内株式の購入に0・2%を課税する金融取引税を12年に導入しました。その後、税率を0・3%に引き上げています。
現在EUではコロナ禍のもとで財源の議論が活発化し、一つの選択肢として金融取引税があがっています。1月にEUの議長国になったポルトガルは有志連合の中でも積極的な役割を果たしてきた国で、改めてEU全体での金融取引税導入の検討を提案しています。
日本では超党派の「国際連帯税の創設を求める議員連盟」が3月9日に総会を開き、議員立法で金融取引税などを候補とする国際連帯税の実現をめざすことを確認しました。市民団体や専門家が集まる「グローバル連帯税フォーラム」は長年、国際連帯税の実現に向け、外務省や議員連盟に働きかけてきました。それが実り、大きな一歩を踏み出したといえます。
コロナ禍で世界経済が苦しい状況なのに株価が上がって富裕層の資産が膨らんでいる現状を考えれば、金融取引税は現実的な選択肢になるはずです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月23日付掲載
現在の金融取引は、この企業の成長が見込めるから株を購入して支援しようってことより、短期的な株の乱高下の中でいかに利ざやを稼ぐかの方が大きい。
ということなので、同じ会社の株を買ったり売ったりするごとに、ごくごく低率の税金を課税することに税収を得る。
金融取引をする会社にとってみれば、課税される税金は、金融取引にかかる手数料に比べれば微々たるものなので負担には感じない。
でも、それぞれの国にとってみれば、数(回数)が莫大なので、塵も積もれば山となるで、確かな税収に。
国際課税研究者 津田久美子さんに聞く
つだ・くみこ 1986年東京都生まれ。中央大学総合政策学部卒。民間企業に勤務後、2013年から北海道大学法学研究科修士課程、15年から同研究科博士課程在籍(国際政治)。現在、北海道科学大学で非常勤講師。グローバル連帯税フォーラム理事。共著に上村雄彦編『グローバル・タックスの理論と実践』。
新型コロナウイルス危機の中、地球規模の課題に対処するために地球規模で新しい税を制度化するグローバル・タックス(国際連帯税)への関心が高まっています。その一つが金融取引税です。同税の歴史を研究する津田久美子さんに聞きました。(杉本恒如)
―金融取引税とは何でしょうか。
金融市場で取引されるあらゆる金融商品の売買に対して低率の税金を課す政策が金融取引税です。代表的な課税対象は、株式、債券、デリバティブ(金融派生商品)、為替の四つです。この中の一部、例えば株式だけに課税する構想も金融取引税と呼ばれます。
―金融取引税の目的は何でしょうか。
税制には主に二つの役割があります。一つは財源調達手段としての役割。もう一つは政策手段としての役割です。単純に税収を集めること以外に政策上の目的があるのです。歴史的に変化も見られますが、金融取引税の政策上の目的にはもともと投機的な金融取引の抑制があります。
東京証券取引所のマーケットセンター=東京都中央区
低率で多額の税
1970年代以降、グローバルな金融市場が急速に成長しました。国境を越える資本移動があまりに過剰で流動的になり、通貨危機、金融危機を頻繁に引き起こしました。「経済の金融化」とも呼ばれる現象です。
過剰な流動性の背景には投機があります。利ざやを稼ぐことのみを目的にした投機的な金融取引は短期間に何往復も売買を繰り返します。その取引一つ一つに税を課すならば、低率でも累積的に多額の税が蓄積されます。こうして投機的取引の抑制を狙うのが金融取引税です。低率なので長期的な取引にはさほど影響を与えません。むしろ市場の安定は長期的な投資に好影響をもたらすでしょう。
―金融取引の規模が大きいので財源調達手段としても優れているといわれます。
金融市場は実体経済の何倍もの大きさですから、低率であっても巨額の税収が見込まれます。当然、課税対象が広ければ広いほど税収額も増えます。
欧州連合(EU)は株式と債券に0・1%、デリバティブに0・01%の税を課す金融取引税のプランを2011年に提案しました。EU加盟国のうち11カ国がこれを実施することで13年にいったん合意しました。11カ国で見込まれる税収は300億~350億ユーロ(約3兆9000億~4兆5500億円)と試算されました。11カ国のGDPの0・4~0・5%を占めるといいます。
仏伊で単独導入
―金融取引税をめぐる議論と実践の現状はどうですか。
金融取引税導入で合意したEU有志連合は具体化の交渉を続けてきましたが、なかなか進展せず、15年にエストニアが離脱して10力国になりました。
他方でフランスとイタリアは単独での導入に踏み切り、スペインも導入予定です。フランスは時価総額10億ユーロ以上の国内株式の購入に0・2%を課税する金融取引税を12年に導入しました。その後、税率を0・3%に引き上げています。
現在EUではコロナ禍のもとで財源の議論が活発化し、一つの選択肢として金融取引税があがっています。1月にEUの議長国になったポルトガルは有志連合の中でも積極的な役割を果たしてきた国で、改めてEU全体での金融取引税導入の検討を提案しています。
日本では超党派の「国際連帯税の創設を求める議員連盟」が3月9日に総会を開き、議員立法で金融取引税などを候補とする国際連帯税の実現をめざすことを確認しました。市民団体や専門家が集まる「グローバル連帯税フォーラム」は長年、国際連帯税の実現に向け、外務省や議員連盟に働きかけてきました。それが実り、大きな一歩を踏み出したといえます。
コロナ禍で世界経済が苦しい状況なのに株価が上がって富裕層の資産が膨らんでいる現状を考えれば、金融取引税は現実的な選択肢になるはずです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月23日付掲載
現在の金融取引は、この企業の成長が見込めるから株を購入して支援しようってことより、短期的な株の乱高下の中でいかに利ざやを稼ぐかの方が大きい。
ということなので、同じ会社の株を買ったり売ったりするごとに、ごくごく低率の税金を課税することに税収を得る。
金融取引をする会社にとってみれば、課税される税金は、金融取引にかかる手数料に比べれば微々たるものなので負担には感じない。
でも、それぞれの国にとってみれば、数(回数)が莫大なので、塵も積もれば山となるで、確かな税収に。
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