乳がん ~命を守るために~
自己検診とマンモグラフィの勧め
乳がんにかかる女性、年間約5万人。予想を超えて急増中です。命を失う女性も多く、年間約1万2千人。人生半ば、悔しいじゃないか。
上野敏行記者
16人に1人が発症
5月9日は、母の日。乳がん体験者の会「あけぼの会」の会員たちがいっせいに街頭で訴えます。「お母さん、乳がんで死なないで!」
1985年から毎年実施し、26回目の今年は、会員のほか千人が36都道府県の53カ所で。
会長のワット隆子さんはいいます。「お母さんが死んで、子どもたちに悲しい思いをさせてはいけないのです」
乳がんにかかる女性、生涯で16人に1人。
「乳がんから命を守る確実な“手”がある」というのは、聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニックの福田護院長。日本乳癌検診学会理事長です。
「早期発見すること。ほぼ完全に治るだけでなく、乳房をきれいな形で守れます。進行がんと比べ、治療の期間は短く、体への負担も経済的負担も軽くすみます」
具体的には?
「月1回の自分自身でやる自己検診と、定期的に乳房専門のエックス線撮影マンモグラフィ検診を受けることです」
早期発見の大事さ。よくいわれることです。
「確かに。けれども、外来を受診する女性たちを診ていて、“もう少し早い段階で見つけていたら”と思うことがよくあります。早期発見が進んでいるとは思えません」
母の日キャンペーンであけぼの会の会員たちが配布するポケットティッシュ。こう書き込まれていました。“決して手おくれにならないように”
死亡率減らすには
自己検診の基本は、乳房を“見る”“つまむ”“触る”。乳房の形、くぽみ、しこり、乳頭からの分泌物などを見ます。
その意義を福田院長はいいます。「乳房は月経周期で変化します。ふだんから自分の乳房をよく知って、気にかけてほしいのです。大切なのは、触れたときの、“いつもと違う”感じです」
「注意したいのは自己検診だけに頼らないこと。自覚症状がなくてもマンモグラフィ検診の受診が重要になります」
早期発見の目安は、乳がんの最大直径が2聾以下。腋窩(えきか)(腋(わき)の下)リンパ節への転移も少なく、再発の危険性も低い。
乳がん患者2万510例の発見状況の調査があります。(06年、全国乳がん患者登録調査報告)自覚症状に気付いて発見した乳がんの半数は直径2センチ以上。一方、自覚症状がなく、マンモグラフィ検診で発見した7割は直径2センチ以下でした。
検診の第一の目的である“死亡率を減らす”効果はどれほどか。
欧米の臨床試験を中心に検討しています。(『乳癌診療ガイドライン4検診・診断』08年版)
以下、マンモグラフィ検診を受診した群と受診しない群を比べて。
*50歳以上で受診後伯年追跡:受診者の死亡率は17~30%減少。
*受診後20年以上の長期追跡:受診者の生存率が優れていました。
*乳腺密度が高く、見つけにくさのある40代の受診後:受診者の死亡率は15~17%減少。
「マンモグラフィ検診で発見される乳がんは早期が多い。死亡率を減少させる確かな証拠があるということです」
日本の検診率20%
最近、乳がん検診について、衝撃的な勧告が米国から発表されました。(米医学誌『内科学紀要』09年11月17日)
前回02年の勧告では、40歳以上の全年齢の女性にマンモグラフィ検診を“推奨する”。それが今回、40代は“勧められない”。(50~74歳は“推奨”)
どうしてか。日本の検診への影響も大きい。
福田院長はいいます。
「臨床試験の結果から、40代では不利益が利益を上回ったと判断したから。マンモグラフィ検診の死亡率減少効果を否定したのではありません」
不利益とは本来がんがないのに、“異常あり”と判定され、必要のない精密検査を受けるなど。
「米国で乳がんにかかる女性が最も多いのは50代。発見の効率を考えたこともあります」
「日本はというと、最も多いのは40代後半です。マンモグラフィ検診は有用で勧められます」
米国の勧告はまだあって、自己検診に死亡率減少効果がない、と。つまり、やらなくていい?
「受診率が70%前後と高い米国だからいえること。日本は20%ほどと低い。まだまだ自己検診は必要です。実際、乳がんの約70%を自分で見つけています」
「月1回の自己検診+2年に1回のマンモグラフィ検診。家族に乳がんの人がいる女性、30代の希望者は、人間ドックなどで超音波検査やMRI検査を追加。これが乳がんによる死を防ぐ現在の到達点です」
現代女性へ、ワット隆子さんのメッセージです。「乳がんに関する知識と勇気と決断をもち、“乳がんで死なない”と自分に誓ってほしい」
【月1回の自己検診のやり方】
「の」の字を書くように
4本の指をそろえ、指の腹と肋骨ではさむようにして触れます。しこりや硬いところがないか。腋の下から乳首まで触れていきます。乳首をつまんで分泌物が出ないかも調べます。入浴時に石けんのついた手で触れると、乳房の凹凸がよくわかります。
鏡の前に立って腕を高く上げて、乳房を見ます。左右違うところ、ひきつれ、くぼみなど変化はどうか。次に腕を腰に当て、しこりやくぼみなどを見ます。
「しんぶん赤旗」日曜版(2010年5月9日号)に掲載。
【マンモグラフィ検査(乳房レントゲン撮影)】
乳房を圧迫版ではさみ、撮影します。しこりとして感じないごく早期の乳がんも発見できます。人によっては痛みを感じる方もいるそうですが、早期発見のためにはガマン、ガマンですね。
職場の定期健診の受診項目にもここ数年の間に加わったようです。
男性の場合は前立腺の検査をするように、40代以降の女性は毎年かすくなくとも2年ごとには受けるようにしたいものですね。
自己検診とマンモグラフィの勧め
乳がんにかかる女性、年間約5万人。予想を超えて急増中です。命を失う女性も多く、年間約1万2千人。人生半ば、悔しいじゃないか。
上野敏行記者
16人に1人が発症
5月9日は、母の日。乳がん体験者の会「あけぼの会」の会員たちがいっせいに街頭で訴えます。「お母さん、乳がんで死なないで!」
1985年から毎年実施し、26回目の今年は、会員のほか千人が36都道府県の53カ所で。
会長のワット隆子さんはいいます。「お母さんが死んで、子どもたちに悲しい思いをさせてはいけないのです」
乳がんにかかる女性、生涯で16人に1人。
「乳がんから命を守る確実な“手”がある」というのは、聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージング先端医療センター附属クリニックの福田護院長。日本乳癌検診学会理事長です。
「早期発見すること。ほぼ完全に治るだけでなく、乳房をきれいな形で守れます。進行がんと比べ、治療の期間は短く、体への負担も経済的負担も軽くすみます」
具体的には?
「月1回の自分自身でやる自己検診と、定期的に乳房専門のエックス線撮影マンモグラフィ検診を受けることです」
早期発見の大事さ。よくいわれることです。
「確かに。けれども、外来を受診する女性たちを診ていて、“もう少し早い段階で見つけていたら”と思うことがよくあります。早期発見が進んでいるとは思えません」
母の日キャンペーンであけぼの会の会員たちが配布するポケットティッシュ。こう書き込まれていました。“決して手おくれにならないように”
死亡率減らすには
自己検診の基本は、乳房を“見る”“つまむ”“触る”。乳房の形、くぽみ、しこり、乳頭からの分泌物などを見ます。
その意義を福田院長はいいます。「乳房は月経周期で変化します。ふだんから自分の乳房をよく知って、気にかけてほしいのです。大切なのは、触れたときの、“いつもと違う”感じです」
「注意したいのは自己検診だけに頼らないこと。自覚症状がなくてもマンモグラフィ検診の受診が重要になります」
早期発見の目安は、乳がんの最大直径が2聾以下。腋窩(えきか)(腋(わき)の下)リンパ節への転移も少なく、再発の危険性も低い。
乳がん患者2万510例の発見状況の調査があります。(06年、全国乳がん患者登録調査報告)自覚症状に気付いて発見した乳がんの半数は直径2センチ以上。一方、自覚症状がなく、マンモグラフィ検診で発見した7割は直径2センチ以下でした。
検診の第一の目的である“死亡率を減らす”効果はどれほどか。
欧米の臨床試験を中心に検討しています。(『乳癌診療ガイドライン4検診・診断』08年版)
以下、マンモグラフィ検診を受診した群と受診しない群を比べて。
*50歳以上で受診後伯年追跡:受診者の死亡率は17~30%減少。
*受診後20年以上の長期追跡:受診者の生存率が優れていました。
*乳腺密度が高く、見つけにくさのある40代の受診後:受診者の死亡率は15~17%減少。
「マンモグラフィ検診で発見される乳がんは早期が多い。死亡率を減少させる確かな証拠があるということです」
日本の検診率20%
最近、乳がん検診について、衝撃的な勧告が米国から発表されました。(米医学誌『内科学紀要』09年11月17日)
前回02年の勧告では、40歳以上の全年齢の女性にマンモグラフィ検診を“推奨する”。それが今回、40代は“勧められない”。(50~74歳は“推奨”)
どうしてか。日本の検診への影響も大きい。
福田院長はいいます。
「臨床試験の結果から、40代では不利益が利益を上回ったと判断したから。マンモグラフィ検診の死亡率減少効果を否定したのではありません」
不利益とは本来がんがないのに、“異常あり”と判定され、必要のない精密検査を受けるなど。
「米国で乳がんにかかる女性が最も多いのは50代。発見の効率を考えたこともあります」
「日本はというと、最も多いのは40代後半です。マンモグラフィ検診は有用で勧められます」
米国の勧告はまだあって、自己検診に死亡率減少効果がない、と。つまり、やらなくていい?
「受診率が70%前後と高い米国だからいえること。日本は20%ほどと低い。まだまだ自己検診は必要です。実際、乳がんの約70%を自分で見つけています」
「月1回の自己検診+2年に1回のマンモグラフィ検診。家族に乳がんの人がいる女性、30代の希望者は、人間ドックなどで超音波検査やMRI検査を追加。これが乳がんによる死を防ぐ現在の到達点です」
現代女性へ、ワット隆子さんのメッセージです。「乳がんに関する知識と勇気と決断をもち、“乳がんで死なない”と自分に誓ってほしい」
【月1回の自己検診のやり方】
「の」の字を書くように
4本の指をそろえ、指の腹と肋骨ではさむようにして触れます。しこりや硬いところがないか。腋の下から乳首まで触れていきます。乳首をつまんで分泌物が出ないかも調べます。入浴時に石けんのついた手で触れると、乳房の凹凸がよくわかります。
鏡の前に立って腕を高く上げて、乳房を見ます。左右違うところ、ひきつれ、くぼみなど変化はどうか。次に腕を腰に当て、しこりやくぼみなどを見ます。
「しんぶん赤旗」日曜版(2010年5月9日号)に掲載。
【マンモグラフィ検査(乳房レントゲン撮影)】
乳房を圧迫版ではさみ、撮影します。しこりとして感じないごく早期の乳がんも発見できます。人によっては痛みを感じる方もいるそうですが、早期発見のためにはガマン、ガマンですね。
職場の定期健診の受診項目にもここ数年の間に加わったようです。
男性の場合は前立腺の検査をするように、40代以降の女性は毎年かすくなくとも2年ごとには受けるようにしたいものですね。