資本主義の現在と未来 日本の金融化④ 搾取求める年金基金
日本共産党元衆院議員 佐々木憲昭さんに聞く
―財政投融資解体で公的年金はどんな影響を受けましたか。
厚生年金と国民年金の積立金は2000年度末まですべて財政投融資資金への預託金とされていました。
しかし財政投融資の解体に伴い、01年から年金資金の自主運用が進められました。そのために政府は年金福祉事業団を解散し、年金資金運用基金に改組しました。財政投融資への預託金は次第に減り、市場運用が増えていきました。この背後にも米国の要求がありました(連載第2回参照)。日本政府は市場運用を増やしつつ、米国の運用会社に運用を委ねていきました。
年金基金の保有資産割合は、01年時点で①国内債券68%②国内株式12%③外国債券7%④短期資産5%1でした。その後、株式の割合を次々に引き上げたのが、12年末に成立した安倍晋三政権でした。現在、①国内債券25%②国内株式25%③外国債券25%④外国株式25%1となり、株式と外国債券が7・5割も占めています。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の事務所が入る虎ノ門ヒルズ森タワー=東京都港区
企業経営に影響
―年金資金の株式への投入はどんな意味を持ちますか。
国民の財産を株価変動リスクにさらしたことです。そのうえ大企業の経営にも影響を及ぼしました。年金基金が企業の大株主になることは、機関投資家として経営に影響を及ぼすことを意味します。
一般に個々の投資家などから集めた資金を運用して利益を出し、それを分配するのが機関投資家です。そのなかで銀行、保険会社とともに年金基金が比重を高めています。
06年に年金資金運用基金の事業を引き継いだ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は「世界最大級の機関投資家」と呼ばれ、その資金運用は外部の運用会社に委ねられています。22年度の運用総額199兆8321億円のうち、125兆2825億円を日系運用会社が、74兆5496億円を外資系運用会社が運用しています。
GPIFは企業との「建設的な対話」を進めて「企業価値」を向上させ、「投資リターンの改善」をめざすと表明しています。つまり企業に利益を上げさせ、配分をもとめるというのです。これは「利益至上主義」「株主至上主義」の方向へ大企業の経営を駆り立てる役割を果たします。
人件費をカット
―政府も「株主至上主義」を推進しました。
安倍政権が設置した有識者検討会で14年に「責任ある機関投資家」の原則として「日本版スチュワードシップ・コード」が策定されました。「投資先企業の企業価値の向上に寄与すること」が最重要だと強調し、機関投資家に企業との「対話」を求めました。
17年に経産省が策定(22年改訂)した企業統治(コーポレートガバナンス)に関する「実務指針」では、「(利害関係者のうち)株主を意識することが重要である」と断言し、「社外取締役には、特に株主と直接対話し、株主の声を取締役会に届ける役割も期待される」とも強調しました。
安倍政権は、大企業の株式を大量に保有する機関投資家へと年金基金を変質させ、株主への利益配分を促す「株主至上主義」を企業経営に押しつける役割を果たしたのです。その結果、事業売却や人件費カットで短期的利益をあげ、配当の増額や自社株買いで株主に利益を還元する手法がまん延しました。
こうして、労働者の納めた保険料を積み立てている年金基金が、投資先企業の経営に大株主として圧力をかけ、労働者への搾取強化をもとめるという、かつて経験したことのない転倒した関係が発生しているのです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年5月9日付掲載
年金基金の保有資産割合は、01年時点で①国内債券68%②国内株式12%③外国債券7%④短期資産5%1。その後、株式の割合を次々に引き上げたのが、12年末に成立した安倍晋三政権。現在、①国内債券25%②国内株式25%③外国債券25%④外国株式25%1となり、株式と外国債券が7・5割も占めています。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は企業との「建設的な対話」を進めて「企業価値」を向上させ、「投資リターンの改善」をめざすと表明。つまり企業に利益を上げさせ、配分をもとめるというのです。これは「利益至上主義」「株主至上主義」の方向へ大企業の経営を駆り立てる役割を果たします。
日本共産党元衆院議員 佐々木憲昭さんに聞く
―財政投融資解体で公的年金はどんな影響を受けましたか。
厚生年金と国民年金の積立金は2000年度末まですべて財政投融資資金への預託金とされていました。
しかし財政投融資の解体に伴い、01年から年金資金の自主運用が進められました。そのために政府は年金福祉事業団を解散し、年金資金運用基金に改組しました。財政投融資への預託金は次第に減り、市場運用が増えていきました。この背後にも米国の要求がありました(連載第2回参照)。日本政府は市場運用を増やしつつ、米国の運用会社に運用を委ねていきました。
年金基金の保有資産割合は、01年時点で①国内債券68%②国内株式12%③外国債券7%④短期資産5%1でした。その後、株式の割合を次々に引き上げたのが、12年末に成立した安倍晋三政権でした。現在、①国内債券25%②国内株式25%③外国債券25%④外国株式25%1となり、株式と外国債券が7・5割も占めています。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の事務所が入る虎ノ門ヒルズ森タワー=東京都港区
企業経営に影響
―年金資金の株式への投入はどんな意味を持ちますか。
国民の財産を株価変動リスクにさらしたことです。そのうえ大企業の経営にも影響を及ぼしました。年金基金が企業の大株主になることは、機関投資家として経営に影響を及ぼすことを意味します。
一般に個々の投資家などから集めた資金を運用して利益を出し、それを分配するのが機関投資家です。そのなかで銀行、保険会社とともに年金基金が比重を高めています。
06年に年金資金運用基金の事業を引き継いだ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は「世界最大級の機関投資家」と呼ばれ、その資金運用は外部の運用会社に委ねられています。22年度の運用総額199兆8321億円のうち、125兆2825億円を日系運用会社が、74兆5496億円を外資系運用会社が運用しています。
GPIFは企業との「建設的な対話」を進めて「企業価値」を向上させ、「投資リターンの改善」をめざすと表明しています。つまり企業に利益を上げさせ、配分をもとめるというのです。これは「利益至上主義」「株主至上主義」の方向へ大企業の経営を駆り立てる役割を果たします。
人件費をカット
―政府も「株主至上主義」を推進しました。
安倍政権が設置した有識者検討会で14年に「責任ある機関投資家」の原則として「日本版スチュワードシップ・コード」が策定されました。「投資先企業の企業価値の向上に寄与すること」が最重要だと強調し、機関投資家に企業との「対話」を求めました。
17年に経産省が策定(22年改訂)した企業統治(コーポレートガバナンス)に関する「実務指針」では、「(利害関係者のうち)株主を意識することが重要である」と断言し、「社外取締役には、特に株主と直接対話し、株主の声を取締役会に届ける役割も期待される」とも強調しました。
安倍政権は、大企業の株式を大量に保有する機関投資家へと年金基金を変質させ、株主への利益配分を促す「株主至上主義」を企業経営に押しつける役割を果たしたのです。その結果、事業売却や人件費カットで短期的利益をあげ、配当の増額や自社株買いで株主に利益を還元する手法がまん延しました。
こうして、労働者の納めた保険料を積み立てている年金基金が、投資先企業の経営に大株主として圧力をかけ、労働者への搾取強化をもとめるという、かつて経験したことのない転倒した関係が発生しているのです。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年5月9日付掲載
年金基金の保有資産割合は、01年時点で①国内債券68%②国内株式12%③外国債券7%④短期資産5%1。その後、株式の割合を次々に引き上げたのが、12年末に成立した安倍晋三政権。現在、①国内債券25%②国内株式25%③外国債券25%④外国株式25%1となり、株式と外国債券が7・5割も占めています。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は企業との「建設的な対話」を進めて「企業価値」を向上させ、「投資リターンの改善」をめざすと表明。つまり企業に利益を上げさせ、配分をもとめるというのです。これは「利益至上主義」「株主至上主義」の方向へ大企業の経営を駆り立てる役割を果たします。
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