賃金の上がる国へ④ 賃金交渉三つの山場
ジャーナリスト 昆 弘見さん
日本は、賃金が決まる仕組みが世界の国々と違います。世界の多くは労働組合が産業別に組織され、使用者団体と法的拘束力がある労働協約で賃金を決めます。日本は、労働組合が企業単位で組織されているため、賃上げが企業の外に波及しません。
日本は賃金交渉のヤマ場が1年に3回あります。3月の春闘、8月の国家公務員の人事院勧告、10月の最低賃金の決定です。毎年このサイクルで回ります。
コスト抑制方針
春闘は、民間企業の労使交渉が基本ですが、人事院の給与勧告と最低賃金額はまさに政府の判断が強く影響します。これまで自民党政権は、人事院勧告と最低賃金を抑えて財界の賃金コスト抑制方針を支えてきました。岸田政権は「コストカット型経済の転換」といっていますが、コストカットの一翼を担ってきた責任は重大です。
賃上げで、やはり重要なのは春闘です。先にのべたように日本は、労働組合が企業ごとに組織されているため、交渉がバラバラで全国的に波及しません。そこで毎年春、産業別に要求や戦術を統一し共闘して賃上げを実現しようと1955年に始まりました。1974年の春闘は「狂乱物価」(物価上昇率24・5%、帰属家賃を除く)から生活を守る「国民春闘」としてたたかわれ、32・9%の賃上げを獲得しました。ストライキ件数、賃上げ率は戦後最高です。
その後、財界の抑え込み攻勢に押され、とくに2002年以降はベースアップがゼロか上がっても千円台の低額が常態化しました。連合の大企業労組が満額回答を得ても実質賃金がマイナスという状態が続き、「賃金が上がらない国」の主要な原因となりました。全労連などが「国民春闘」を継承し、大幅賃上げを要求してストライキを構えてたたかっていることはとても重要です。
1974年の春闘は「狂乱物価」と呼ばれた急激なインフレとのたたかいに(東京都千代田区)
生活向上分なし
春闘で疑問なのは、政府も財界も連合の大企業労組も、賃上げの根拠を「定期昇給プラス物価上昇分の考慮」としていることです。労働者の願いである生活向上分がありません。これが同満額回答でも実質賃金がマイナスになり、労働者をがっかりさせる原因になっています。
岸田政権が本気で賃上げを促進するというなら、この「定期昇給プラス物価上昇分」に数%の生活向上分を加味し、労働者が生活が良くなったと実感できるベースアップを財界に働きかけるべきです。
これはむちゃな話ではありません。大企業には、それができる十分な体力があります。6月の財務省発表によると、内部留保が約537兆円に増えています。前年比24・6兆円(4・7%)増という異常な増え方です。利益が出ても賃上げには回さず、企業に滞留しているこのお金を賃上げに生かすことが、政治に求められています。
その有効な方法は、内部留保課税です。日本共産党は「経済再生プラン」で具体的な提案をしています。
内部留保の増加分に年2%で5年間の時限的課税をおこない、10兆円の財源をつくって中小企業の賃上げ支援をする。大企業が賃上げをすれば課税されない仕組みをつくることで、大企業の賃上げを促進する―という内容です。
政治の責任で賃上げを実現するもっとも実現可能な提案であり、合意が広がることが期待されます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月7日付掲載
日本は賃金交渉のヤマ場が1年に3回。3月の春闘、8月の国家公務員の人事院勧告、10月の最低賃金の決定。毎年このサイクルで回ります。
全労連などが「国民春闘」を継承し、大幅賃上げを要求してストライキを構えてたたかっていることはとても重要。
岸田政権が本気で賃上げを促進するというなら、この「定期昇給プラス物価上昇分」に数%の生活向上分を加味し、労働者が生活が良くなったと実感できるベースアップを財界に働きかけるべき。
内部留保の増加分に年2%で5年間の時限的課税をおこない、10兆円の財源をつくって中小企業の賃上げ支援をする。大企業が賃上げをすれば課税されない仕組みをつくることで、大企業の賃上げを促進する。
ジャーナリスト 昆 弘見さん
日本は、賃金が決まる仕組みが世界の国々と違います。世界の多くは労働組合が産業別に組織され、使用者団体と法的拘束力がある労働協約で賃金を決めます。日本は、労働組合が企業単位で組織されているため、賃上げが企業の外に波及しません。
日本は賃金交渉のヤマ場が1年に3回あります。3月の春闘、8月の国家公務員の人事院勧告、10月の最低賃金の決定です。毎年このサイクルで回ります。
コスト抑制方針
春闘は、民間企業の労使交渉が基本ですが、人事院の給与勧告と最低賃金額はまさに政府の判断が強く影響します。これまで自民党政権は、人事院勧告と最低賃金を抑えて財界の賃金コスト抑制方針を支えてきました。岸田政権は「コストカット型経済の転換」といっていますが、コストカットの一翼を担ってきた責任は重大です。
賃上げで、やはり重要なのは春闘です。先にのべたように日本は、労働組合が企業ごとに組織されているため、交渉がバラバラで全国的に波及しません。そこで毎年春、産業別に要求や戦術を統一し共闘して賃上げを実現しようと1955年に始まりました。1974年の春闘は「狂乱物価」(物価上昇率24・5%、帰属家賃を除く)から生活を守る「国民春闘」としてたたかわれ、32・9%の賃上げを獲得しました。ストライキ件数、賃上げ率は戦後最高です。
その後、財界の抑え込み攻勢に押され、とくに2002年以降はベースアップがゼロか上がっても千円台の低額が常態化しました。連合の大企業労組が満額回答を得ても実質賃金がマイナスという状態が続き、「賃金が上がらない国」の主要な原因となりました。全労連などが「国民春闘」を継承し、大幅賃上げを要求してストライキを構えてたたかっていることはとても重要です。
1974年の春闘は「狂乱物価」と呼ばれた急激なインフレとのたたかいに(東京都千代田区)
生活向上分なし
春闘で疑問なのは、政府も財界も連合の大企業労組も、賃上げの根拠を「定期昇給プラス物価上昇分の考慮」としていることです。労働者の願いである生活向上分がありません。これが同満額回答でも実質賃金がマイナスになり、労働者をがっかりさせる原因になっています。
岸田政権が本気で賃上げを促進するというなら、この「定期昇給プラス物価上昇分」に数%の生活向上分を加味し、労働者が生活が良くなったと実感できるベースアップを財界に働きかけるべきです。
これはむちゃな話ではありません。大企業には、それができる十分な体力があります。6月の財務省発表によると、内部留保が約537兆円に増えています。前年比24・6兆円(4・7%)増という異常な増え方です。利益が出ても賃上げには回さず、企業に滞留しているこのお金を賃上げに生かすことが、政治に求められています。
その有効な方法は、内部留保課税です。日本共産党は「経済再生プラン」で具体的な提案をしています。
内部留保の増加分に年2%で5年間の時限的課税をおこない、10兆円の財源をつくって中小企業の賃上げ支援をする。大企業が賃上げをすれば課税されない仕組みをつくることで、大企業の賃上げを促進する―という内容です。
政治の責任で賃上げを実現するもっとも実現可能な提案であり、合意が広がることが期待されます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月7日付掲載
日本は賃金交渉のヤマ場が1年に3回。3月の春闘、8月の国家公務員の人事院勧告、10月の最低賃金の決定。毎年このサイクルで回ります。
全労連などが「国民春闘」を継承し、大幅賃上げを要求してストライキを構えてたたかっていることはとても重要。
岸田政権が本気で賃上げを促進するというなら、この「定期昇給プラス物価上昇分」に数%の生活向上分を加味し、労働者が生活が良くなったと実感できるベースアップを財界に働きかけるべき。
内部留保の増加分に年2%で5年間の時限的課税をおこない、10兆円の財源をつくって中小企業の賃上げ支援をする。大企業が賃上げをすれば課税されない仕組みをつくることで、大企業の賃上げを促進する。
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