きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

#通常国会150日の軌跡④ 政治倫理の崩壊 極限に

2020-06-25 08:15:05 | 予算・税金・消費税・社会保障など
#通常国会150日の軌跡④ 政治倫理の崩壊 極限に
「任命した者として、その責任を痛感」「国民に対する説明責任を果たしていかなければならない」―。安倍晋三首相は、河井克行前法相と妻の案里参院議員が公職選挙法違反容疑で逮捕された18日の記者会見でも、さまざまな疑惑や不祥事のたびに繰り返してきたフレーズをひたすら並びたてました。
 
しかし、問われているのは安倍首相の政治責任です。克行氏を重用し、法相に任命しただけでなく、案里氏には自民党本部から1億5000万円もの選挙資金を提供していました。この1億5000万円が選挙買収の原資に使われたのではないかという疑惑が焦点化しています。
今国会では、河井克行・案里夫妻だけでなく、菅原一秀前経済産業相の公職選挙法違反疑惑、元内閣府副大臣の秋元司衆院議員らによるカジノ汚職など、検察の捜査対象となる問題が相次いでいます。極限まで達した政治倫理の崩壊に、政治がどう向き合うのかが間われています。

#進む私物化
ところが、安倍首相は、疑惑に対する国民への説明責任を率先して放棄し続けてきました。
安倍首相が公的行事に地元後援会員を大量招待し、接遇したのではないかという首相主催の「桜を見る会」をめぐる疑惑が通常国会冒頭の焦点となりましたが、ここでも安倍首相はまともに説明責任を果たしていません。
そればかりか、官僚を巻き込んで政治を「私物化」し、忖度(そんたく)、虚偽答弁、公文書を隠ぺい・廃棄をあおり続けてきました。
野党は衆参予算委員会などの国会審議だけでなく、合同ヒアリングなども通じて▽公的行事の私物化▽前夜祭をめぐる政治資金規正法・公職選挙法違反▽悪徳マルチ商社とのつながり▽招待者名簿をはじめとした記録文書の破棄・隠ぺい―など次々と追及。安倍首相の国会答弁は変遷し続け、内閣支持率は急落しました。



「桜を見る会」追及本部のヒアリング=1月22日、国会内

#“禁じ手”へ
ところが、窮地に追い込まれた安倍首相は、政治の私物化を反省するどころか、憲法で定められた三権分立すら侵す“禁じ手”に打って出ます。
官邸に近いとされる黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長を閣議決定し、検察庁トップをめぐる人事へ政治介入しました。
そのうえ、黒川人事を後付けで正当化するような検察庁法改定案まで国会に提出。検察の私物化への怒りとともに、新型コロナウイルスの影響で国民が困難に直面するなか採決に持ち込もうとするやり方にも国政私物化との激しい怒りが沸き起こりました。
ツイッターでは「#検察庁法改正案に抗議します」との声が急速に拡散され、野党も国会審議で厳しく追及。黒川氏は賭けマージャンが発覚して辞職し、同改定案も廃案になりました。
国政を私物化する安倍政権の暴走は、後手後手の新型コロナ危機への対応と結びついて国民の激しい怒りをかい、いよいよ後がないところまで追いこまれています。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年6月24日付掲載


「桜を見る会」に始まり、黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長を閣議決定、河井克行前法相と妻の案里参院議員が公職選挙法違反容疑など政治の私物化は極まりないものがあります。
野党は合同でヒヤリングを開いて政府を追及してきました。
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#通常国会150日の軌跡③ 政府のコロナ対策 迷走

2020-06-24 07:48:44 | 予算・税金・消費税・社会保障など
#通常国会150日の軌跡③ 政府のコロナ対策 迷走
1月中旬に国内で新型コロナウイルス感染者が初確認されてから約半年。会期を通じて安倍政権の対策は迷走に迷走を重ねました。
安倍晋三首相は2月26日に大規模イベントの自粛を、27日には全国の小中高校・特別支援学校の一律休校を要請しました。どちらも25日に決定した政府「基本方針」には記されていませんでした。



布マスクを着けて国会に出る安倍首相。全戸に配布した布マスクは「小さい」「ごみが付いている」と不評を買いました

#怒りと失望
衆院予算委員会で要請の基準や科学的根拠を問われても、「全国的なイベントは大規模な感染リスクがある」(同26日)、「政治の判断」(同28日)とするだけ。あおりを受けて収入を断たれたり、仕事を休まざるをえない人への補償策も「検討しているところ」(同日)という、ずさんさでした。
同29日に一律休校で休業を余儀なくされる保護者への助成金の創設を表明したものの、フリーランスは対象外でした。批判を受けてフリーランスの保護者向けの制度もつくりましたが、助成額は雇用労働者の半額(1日4100円)。対象は小学生の子どもをもつ人だけでした。
国民への自粛・休校要請のさなか、今年度の当初予算が衆院を通過(同28日)しました。コロナ対策費はゼロ。主に前年度の予備費を用いた153億円の緊急対応策で「必要な対策を実行できる」「直ちに不足が見込まれる状況ではない」と強弁した末の暴挙でした。
4月1日には、突如全世帯への布マスク配布を発表。経費が466億円に上ることが判明し、官邸官僚の「全国民に布マスクを配れば、不安がパッと消える」との進言が発端だったと報じられ、怒りと失望を広げました。
世論と運動、野党の論戦に押されて打ち出した一定の支援策でも、場当たり的な対応は続きます。中小企業や個人事業主・フリーランスへの持続化給付金をめぐっては「売り上げ5割以上減」の要件を設定。「3割減、4割減でも深刻だ」(4月30日・参院予算委員会、日本共産党小池晃書記局長)との批判を、安倍首椙は「どこかで線を引かなければ」と一顧だにしませんでした。
確定申告時に「事業収入」以外で届け出ているフリーランスは対象外になることも発覚(後に改善)。申請から給付まで「2週間」との触れ込みに反し、1カ月たっても振り込みがないといった悲鳴が相次ぎました。
揚げ句に、電通などへの巨額かつ不透明な事務委託問題、同給付金を所管する中小企業庁の前田泰宏長官と電通社員の癒着疑惑が浮上。追及を受けるなか、政府・与党は野党の会期延長の求めを拒否し、通常国会の幕を下ろしました。

#混迷の影で
混迷の影で政府・与党は、スーパーシティ法など不急の法案を推し進めました。とりわけ、年金制度改定法など「全世代型社会保障改革」関連の3法はコロナ対策に追われる厚生労働省所管。質疑時間の多くはコロナ問題に費やされ、野党から「なぜ今なのか」「法案審議の深まりようがない」との批判が相次ぎました。
コロナ危機で後手に回る一方で、安倍首相肝いりの「改革」優先・国会軽視の姿勢をあらわにした政府・与党への批判が、検察庁法改定案に対するかつてない規模のツイッターデモに結実しました。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年6月23日付掲載


安倍政権は、2月26日に大規模イベントの自粛を、27日には全国の小中高校・特別支援学校の一律休校を要請。
でも、自粛と補償が一体でない事への怨嗟、怒りが盛り上がり、一つひとつ実現。
その陰で、スパーシティ法改正、年金制度改正など国民生活に影響を与える法案の推進。
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#通常国会150日の軌跡② コロナ対策進めた共闘

2020-06-23 08:00:04 | 予算・税金・消費税・社会保障など
#通常国会150日の軌跡② コロナ対策進めた共闘
新型コロナウイルス感染拡大の危機から国民の命と暮らしを守ることが間われた通常国会。国民の世論と運動、野党と日本共産党の論戦が、後手後手に終始する政府のコロナ対策を常に前に進めてきました。

#声が広がる
緊急事態宣言下の4月16日、安倍晋三首相が異例の指示を出しました。日本在住のすべての人に10万円の現金給付を実施するため、第1次補正予算案の組み替えを命じたのです。一度閣議決定した予算案の組み替えは前代未聞。国民の間に分断をうむ条件つきの1世帯30万円給付という看板政策は撤回に追い込まれました。
「#自粛と給付はセットだろ」―。ツイッター上にはこの声が急速に広がっていました。外出や営業の自粛を求めながら、収入が断たれ危機に陥る国民への補償を拒む政府。この姿勢への批判の高まりが、異例の方針転換に追い込みました。
「市民が声をあげたことで1人10万円の給付が実現しました」「声をあげ続けたい」。ミニシアターを守れと行動してきた「SAVE the CINEMA」呼びかけ人の西原孝至さんが本紙6月8日付で語っています。
「自粛と補償は一体」と訴え、10万円給付も早くから求めてきたのは野党でした。4月2日、コロナ対策の政府・与野党連絡協議会では立憲民主党などの共同会派が提言。日本共産党は、政府案は「分断をもちこむ」と批判し、10万円給付を含む緊急要望を発表(4月6日)。13日の参院行政監視委員会で倉林明子議員が、政府案は対象が限定されると追及し、一律給付を求めました。


新型コロナ対策で打ち出した日本共産党の提言
3月12日志位委員長が緊急経済提言「国民生活の緊急防衛、家計・中小企業への強力な支援を」
3月26日志位委員長が緊急提案「自粛要請で苦境に陥っている事業者・個人に、『感染防止対策』として抜本的直接支援を」
4月6日日本共産党国会議員団「新型コロナウイルス感染症対策緊急要望」
4月16日緊急提案「外出自粛・休業要請と一体の補償、検査体制強化と医療現場への本格的財政支援を」
4月24日アピール「新型コロナウイルス感染症対策にジェンダーの視点を」
6月2日学校再開にあたっての緊急提言「子どもたちの学び、心身のケア、安全を保障するために」
6月4日「感染抑止と経済・社会活動の再開を一体にすすめるための提言」


#要求が実現
コロナ禍にあえぐ国民の願いを受けとめ野党が求めてきた対策は、その後も次々と実現します。「雇用調整助成金」の上限額の英国なみの月33万円への大幅引き上げ、事業者への家賃支援、PCR検査センターの拡充、医療機関支援の増額など。不十分さは残りますが、どれも野党が3度にわたって予算組み替え動議を出すなど、結束して求めたものです。
日本共産党は全国の党組織とともに現場の声を聞き、具体的な提案で対策を前に進める役割を発揮しました。
変化する状況に応じて次々と提言を発表し、「営業を続けられない」「生きるか死ぬかだ」という現場の声をつきつけ「暮らしと営業を守る補償を」と一貫して要求。大幅減収の危機にある医療現場の声を届け「減収補墳(ほてん)を早く」「検査体制拡充を」と迫ってきました。「学費半額を」「フリーランスへの支援拡充を」「文化を守れ」など、党議員の質問を通じて多様な人びとがあげた声が国会に届きました。
「#困ったときは共産党に相談しよう」。SNS上には、共産党に救われたという体験談が続々投稿されました。そのなかには「初めて国会中継を見た」「支持政党はなかった」という人たちの「一番国民に寄り添っている政党かもね」のつぶやきが。
「国民の苦難の軽減」の立党の精神に立った論戦・活動は閉会中審査にも続いていきます。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年6月22日付掲載


新型コロナの対策で、後手後手の対応になった政府。それに対して、共産党の積極的な提案。野党が共闘して政府に要求。
その多くが、第1次補正、第2次補正で不十分ながら実現しました。
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#通常国会150日の軌跡① 私たちの声が動かした

2020-06-22 08:01:46 | 予算・税金・消費税・社会保障など
#通常国会150日の軌跡① 私たちの声が動かした
第201回通常国会が17日、閉会しました。安倍晋三政権をめぐる疑惑追及から幕を開け、コロナ禍への対策に向き合い、政治の役割が問われた150日間。疑惑追及やコロナ対策で市民の声が政治を動かす一方、「1強」と呼ばれた安倍政権の支持率は急落しました。150日間を振り返ります。

「廃案ってすごくないですか。私たちの声が国会に届きましたよ」。検察庁法改定案の廃案が17日に決まったことを受け、「#検察庁法改正案に抗議します」
をツイッターに最初に投稿した笛美さんは、こう投稿しました。

#抗議します
検察幹部の定年を内閣の恣意(しい)的判断で延長できる同法案。5月8日の与党による衆院内閣委員会での審議強行をきっかけに投稿された「#検察庁法改正案に抗議します」に対する共感の輪は、多くの著名人らの投稿をはじめ、ツイッター上に急速に広がりました。
日を追うごとに投稿数が伸びました。「400万人のフォロワーが反応している。安倍政権の政治運営に対する批判が一気に噴き出しているのだと思う」。同11日の野党国対委員長連絡会後に立憲民主党の安住淳国対委員長はこう語り、「法律の成立を全力で阻止したい」と力を込めました。
同15日には投稿数は1千万件を超え、与党は改定案の採決強行を断念。そして同18日、政府・与党はこの国会での改定案の成立を断念しました。
日本共産党の志位和夫委員長は同日のネット番組で「ネットで起こった大きなうねりがテレビや大きな新聞に広がり、日弁連が声を上げ、検察OB、特捜OBの方々も声を上げる中で、今国会成立を阻む方向になっているのは本当に大きな画期的成果であり民主主義の底力を示した」と語りました。
市民の声と野党の論戦が結び、会期末(17日)には同案の廃案が決まりました。
昨年の臨時国会では、「大学入試改革」をめぐり、野党の論戦が市民・高校生らの運動と結び、英語民間試験導入などを「延期」に追い込みました。
「声を上げれば政治は、動かせる」。当時、高校生らが語った実感は脈々と息づき、第201国会でも力強く実りました。



検察庁法改正案に反対してサイレントデモをする人たち=5月15日、国会正門前

#命に関わる
コロナ禍で市民の暮らしが苦境に追い込まれるもと、その対策でも市民の願いの数々が具体化されました。
「国民の中に分断を持ち込むな」の声が、条件付の1世帯30万円の給付金という政府案を撤回さて、日本在住のすべての人に一律10万円を支給する特別給付金を実現させました。
「廃業せざるを得ない」「命にかかわる事態だ」。この切実な声が、中小企業・小規模事業者への家賃支援に結びつきました。雇用調整助成金の上限額も月16・7万円から月33万円に大幅に引き上げられました。
「声を上げれば政治は動かせる」。この思いはコロナ禍のもとで一層強くなっています。
インターネットのSNS上には今、「#国会を止めるな」の声が広がっています。安倍政権に対する疑惑追及が待ったなしのもとで「なぜ国会を閉じるのか」、新型コロナウイルス感染症が収束しないもとで「なぜ対策を議論しないのか」の声があふれています。
今こそ、国会がこの声に一耳を傾ける時です。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年6月21日付掲載


「声を上げれば政治は動かせる」ってことがこれほど実感された国会はなかったのではないでしょうか。
検察庁法改正案の強行採決ストップだけでなく廃案に。
日本在住のすべての人に一律10万円の給付。雇用調整助成金の上限額も月16・7万円から月33万円に大幅に引き上げ。中小企業・小規模事業者への家賃支援。
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ウイルスと人間の共存

2020-06-21 08:09:38 | 新型コロナウイルス
ウイルスと人間の共存
新型コロナウイルスの感染拡大が社会の在り方を大きく変えようとしています。ウイルス学が専門で感染症の歴史や新興感染症に詳しい山内一也(やまのうち・かずや)東京大学名誉教授に、ウイルスと人間とのかかわりについて聞きました。宇野龍彦記者


東京大学名誉教授 山内一也さん
やまのうち・かずや=専門はウイルス学。国立予防衛生研究所室長。国立予防衛生研究所室長。東大医科学研究所教授などを歴任。食品安全委員会プリオン専門調査会委員を務めました。主な著書に『エマージングウイルスの世紀』(河出書房新社)、『ウイルスと地球生命』(岩波書店)、『ウイルスの意味論』(みすず書房)など



ウイルスの増殖プロセス
①ウイルスが細胞表面の受容体たんぱく質に吸着
②細胞内に侵入
③細胞の酵素でウイルスの殻が分解され内部の核酸が露出
④細胞の酵素がウイルスたんぱく質や核酸を大量に合成
⑤その核酸とたんぱく質から大量のウイルスが生成され細胞から放出される
(山内一也氏の著書『ウイルスの意味論』から)


恐ろしいだけの存在ではない
自然界でウイルスは宿主と平和共存してきた

ウイルスという言葉の由来は、ラテン語の「病毒」です。そのことが示すように、われわれはウイルスを恐ろしい存在とみなしてきました。しかし人間にとってウイルスは、怖いだけの存在なのでしょうか。
そもそもウイルスは単独で増殖はできません。「宿主」といわれる人や動物の細胞の中に入って、初めて増殖できます。宿主が死ねばウイルスも増殖できずに死んでしまいます。そのためウイルスの中には、さまざまな宿主を渡り歩く巧妙な生存戦略を持ったものがあります。
水痘ウイルスの生存戦略は高い感染力と潜伏、再発です。子どもの時に水痘ウイルスに感染すると水ぼうそうになります。回復してもウイルスは知覚神経細胞に潜み続けます。おとなになり、ストレスや、免疫力低下をきっかけに、帯状庖疹(ほうしん)を発症する原因となります。病名は違いますが、子どものときに感染した水痘ウイルスが原因です。
神経細胞は、ウイルスを排除しようとする免疫反応が到達しにくい場所です。ウイルスもいわば冬眠状態で、免疫反応から攻撃対象と認識されないような状態です。
ウイルスのもっとも効果的な生存戦略は宿主との共存です。ウイルスが自然界で存続する場を提供している動物は、「自然宿主」と呼ばれます。
鳥インフルエンザウイルスの自然宿主はカモです。カモの場合、鳥インフルエンザウイルスは呼吸器ではなく、腸管で増殖します。ウイルスは糞便(ふんべん)とともに排出され、ウイルスが含まれた水を別のカモが飲むことで感染します。そして再び糞便とともにウイルスが排出されます。
冬になると湖沼の水は凍結し、ウイルスも凍結保存されます。そのウイルスが翌年、新しく生まれた子ガモに感染を広げる。そうやって存続してきたと考えられています。しかし鳥インフルエンザウイルスで、カモはほとんど病気を起こしません。
新型コロナウイルスの自然宿主は中国の奥地のコウモリだといわれています。コウモリたちと新型コロナウイルスも長い間、平和共存してきました。



世界保健機関(WHO)は6月8日、新型コロナウイルス感染は世界的に悪化しており、中米ではまだピークを迎えていないとして各国に対応継続を要請しました=6月9日、メキシコ市(ロイター)

哺乳類の存続に重要な役割
本来の宿主のなかでは「守護者」になりうる

本来の宿主とともにあるとき、ウイルスは「守護者」になりえます。
最近、あるウイルスが哺乳類の存続に極めて重要な役割を果たしていることが明らかになりました。「ヒト内在性レトロウイルス」です。このウイルスは霊長類の祖先の染色体に約3000万~4000万年前に組み込まれました。まさに化石のような存在です。
人の胎児は、母親と父親の両方の遺伝形質を受け継いでいます。父親由来の形質は母親にとっては「異物」です。本来ならば、臓器移植の場合と同様、免疫リンパ球により排除されてしまいます。
その母親由来のリンパ球による攻撃から胎児を守っているのは、胎盤の外側を取り巻く「栄養膜合胞体層」です。この膜は胎児の発育に必要な栄養分を通しますが、リンパ球は通しません。この膜のおかげで胎児は発育できます。
この重要な膜はシンシチンと呼ばれるタンパク質により形成されます。最近、このシンシチンがヒト内在性レトロウイルス由来のタンパク質であることが明らかになりました。
ウイルスは遺伝子をほかの生物に運ぶ能力を持っています。遺伝子治療はその性質を利用したものです。
生物の進化の過程を見ると、単なる変異では説明できない大きな変化が時折、起きています。これはウイルスが新しい遺伝子を運び込んだことによるものだと考えられています。
私たちのDNAにもウイルスの遺伝情報が大量に組み込まれています。その一部は私たちの生命活動を支えています。


なぜ「恐ろしい存在」に変わった
別種の宿主に感染した際免疫に対抗し毒性を強化

そんなウイルスが人間にとって「恐ろしいもの」に変わったのはなぜでしょうか。
たとえば鳥インフルエンザウイルス。自然宿主のカモからニワトリに感染し、ニワトリの免疫機構で排除されるのに対抗し、毒性を増加させました。現代の利益優先の大規模養鶏のおかげで、このウイルスはニワトリからニワトリへと地域的にも広がり、毒性をさらに増強しました。
このようにして毒性を強めたウイルスが、人に重大な病気を起こす強毒性インフルエンザウイルスになってしまったのです。
ナイジェリアでの流行拡大と都市化の関係が注目されているのが、ラツサ熱(ウイルス性出血熱)を起こすウイルスです。もともと大型ネズミのマストミスを自然宿主として、平和共存していました。
ところが都市化が急激に進み、マストミスが人家の周りで生息するようになりました。
マストミスの尿とともに排出されたウイルスに人が感染する機会が増え、致死的な感染症を起こすようになりました。もとの宿主では危険ではなかったウイルスが、別の宿主に感染した際に危険な存在に変身したのです。
自然宿主の動物と共存しているウイルスでは、宿主の免疫反応で排除される機会が少ないため、変異の必要はありません。カモと共存している鳥インフルエンザウイルスなどは、ほとんど変異していません。


野生動物と人の接触機会が増えて…
20世紀の「怖いウイルス」現代社会がもたらした

エイズの原因であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)。中央アフリカでチンパンジーのウイルス(SIV=サル免疫不全ウイルス)が1930年代、人に感染して生まれたと考えられています。
チンパンジーのウイルスがHIVに姿を変えた最大の要因は、人口増加に伴い、サルの生息地である熱帯雨林に人が侵入し、サルと人の接触機会が増加したことです。
HIVは最初から毒性が強かったわけではありません。さまざまな経路で感染が繰り返されるうちに毒性が強まりました。80年代初めには北米やヨーロッパで急速に広がり、90%以上の致死率を示すようになりました。
「怖いウイルス」の出現をもたらしているのは現代社会です。森林破壊や都市化により野生動物と人間社会の距離が短縮し、それが動物のウイルスに人が感染する機会を増やしています。ウイルスは、グローバリゼーションや公衆衛生基盤の破綻など、いずれも現代社会が抱えている弱点をついてきます。人間は、ウイルスが広がりやすい、歴史上かつてない環境を生み出してしまったのです。



ラッサ熱患者の治療に使われた物品を廃棄する防護服の医療関係者=2018年3月6日、ナイジェリア・イルア(AFP=時事)


エボラ出血熱の感染拡大を受けて、チェックポイントで幼児の熱を測る保健当局者=2019年8月1日、コンゴ民主共和国のゴマ(AFP=時事)

世界流行が頻発
なかでもウイルスの存続環境が大きく変動したのは20世紀後半です。多くの人が生活する都市と、大規模な人の移動が生まれ、たびたびウイルスの世界的流行が起こるようになりました。
70年代にはエポラ出血熟の流行がありました。致死率は高かったものの、感染はほぼアフリカ内に限られていました。2002~03年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際も、今ほどグローバル化は進んでいませんでした。
新型コロナウイルスは、またたく間に世界に拡大しました。その原因は、ウイルスの側にあるというよりは、私たちが暮らす社会の急激な変化にあります。人口が密集し、人やモノが国境を超えて地球規模で移動するグローバル化が急激に進んでいる現代社会が、新型コロナウイルスの世界的拡大を生み出したのです。


コロナウイルス新型で人感染7種目
もともとコロナウイルスは、人に日常的に感染し風邪の原因となる4種類のコロナウイルスと、重症肺炎を引き起こすSARSウイルス、MERS(中東呼吸器症候群)ウイルスの2種類が知られていました。新型コロナは7種類目になります。
風邪の原因になるコロナウイルスの一つ、HCOV-OC43については、19世紀の終わりごろに、コウモリから牛を介して人に感染して、当時、肺炎の大流行を起こしたのち、単なる風邪ウイルスになったのではないかという仮説があります。
コロナウイルスの遺伝子の長さはインフルエンザウイルスの2倍もあるため、ウイルスが複製される際に変異が起こりやすいという特徴があります。しかも、コロナウイルスは宿主を飛び越えて感染しやすいため、公衆衛生上の大きな脅威とみなされてきました。


14世紀の黒死病で「検疫」が始まった
14世紀にイタリアを襲った「黒死病」は、ボッカチオの『デカメロン』、カミュの『ペスト』をはじめ、多く語りつがれています。
現在では、腺ペストで、ネズミなどを宿主として、ノミが媒介するペスト菌によって起きたと考えられています。
黒死病は1347年10月、イタリアのシチリア島に上陸しました。ヨーロッパの最南端から北上し、3年たたないうちに3500キロメートル離れた北極圏に広がりました。ヨーロッパの全人口の3分の1から3分の2が死亡したと推定されています。
黒死病が再び北イタリアに持ち込まれるのを防ぐために、1377年にはベニスで海上検疫が始められました。最初は30日間の検疫でしたが、間もなくそれでは短すぎるということが分かり40日に変更されました。
これが現在の検疫の始まりです。検疫は英語でquarantine(クウォレンティン)ですが、これはイタリア語の「40日」に由来します。
感染拡大を防ぐ上で検疫制度が重要であることは、1629年10月に再びミラノに黒死病が到達した時に明らかになりました。翌年3月にミラノ・カーニバルが開かれた際に検疫の条件を緩和した結果、黒死病が再発し、最盛期には1日3500人の死者を出してしまったのです。
英国リバプール大学動物学名誉教授のクリストファー・ダンカンと社会歴史学の専門家スーザン・スコットは教会の古い記録、遺言、日記などを詳細に調べて『黒死病の再来』(2004年)を出版しました。
彼らの結論では、黒死病はペスト菌ではなく出血熱ウイルスによるものであり、今でもアフリカの野生動物の間に眠っていて、もしもこれが現代社会に再び出現した場合には破局的な事態になりかねないと警告しています。

「しんぶん赤旗」日曜版 2020年6月21日付掲載


もともとのウイルスの存在は、野生動物だけでなく、人類の進化のなかでも共存してきたもの。宿主となった人類のなかでもです。
でも、別の宿主に感染する時に、ウイルスそのものが防御反応で強毒化するってこと。
今回の新型コロナウイルスは、経済のグローバル化、人的移動のグローバル化であっというまに全世界に広がった。
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