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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

賃金の上がる国へ③ 3者構成の原則を敵視

2024-06-09 07:14:50 | 働く権利・賃金・雇用問題について
賃金の上がる国へ③ 3者構成の原則を敵視

ジャーナリスト 昆弘見さん

政府の「三位一体の労働市場改革」は、決定過程に重要な問題があります。労働分野の政策は政府(公益)、労働者、使用者の3者対等の構成によって検討するというルールを無視してすすめられたことです。
「三位一体改革」の指針をまとめた「新しい資本主義実現会議」は、21人のメンバーのうち岸田文雄首相を含む大臣が6人、財界関係者が12人、学者が2人、連合会長が労働者代表で1人だけという構成で、過半数が財界関係者です。



「新しい資本主義実現会議」に出席する岸田首相ら=5月9日(官邸ホームページから)

◆新しい資本主義実現会議の財界系構成員
翁 百合日本総合研究所理事長
川邊健太郎LINEヤフー代表取締役会長
小林 健日本商工会議所会頭
澤田 拓子塩野義製薬副会長
渋澤 健シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役
諏訪 貴子ダイヤ精機社長
十倉 雅和経団連会長
冨山 和彦経営共創基盤グループ会長
新浪 剛史経済同友会代表幹事
平野 未来シナモン共同最高経営責任者
村上由美子MPower Partnersゼネラルパートナー
米良はるかREADYFOR最高経営責任者
◆同会議の労働組合代表の構成員
芳野 友子連合会長


国際基準を逸脱
委員の1人、冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)が「日本型ホワイトカラーは市場価値がない」と会議で暴言を吐いたことを前回紹介しましたが、彼はもっとひどい発言もしています。
「三位一体改革」を労政審(厚生労働相の諮問機関、労働政策審議会)にもっていったら「5年~10年大きな変化はないと思ったほうがいい」「(なぜなら)3者構成の中身の問題」とのべています。労働者代表を対等に扱う労政審では、財界の思う通りに事が運ばないという意見です。
首相を議長とする政府の会議で、本来の審議ルールを攻撃するのは言語道断というべきです。3者構成の労政審を毛嫌いし、排除をとなえるこういう議論が財界や一部学者から相次いでいますが、軽視せずに批判していくことが大事だと思います。
日本では、労働政策の重要事項の審議は、労政審で行うと定められています(厚労省設置法第9条)。その委員は「労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者のうちから、厚生労働大臣が各同数を任命する」(労働政策審議会令第3条)とされ、明確に3者同数と定められています。こういう原則をとっているのが政府内の他の審議会と大きく異なる点です。
3者構成原則はILO(国際労働機関)が定めている国際労働基準(第144号条約)です。日本は2002年に批准しています。なぜこういう原則があるかといえば、労働問題は労働者と使用者の利害が対立するので、使用者から一方的に不利な条件が労働者に押し付けられることがないようにするためです。

財界主導へ変質
ところがいまこれが形骸化され、財界主導へと変質しているのが実態です。転機になったのは、01年の省庁再編で官邸主導の政治にするという目的で内閣府が新設され、そのもとに経済財政諮問会議と規制改革会議(何度も名称変更)がつくられたことです。小泉純一郎政権は、財界主導で労働者代表がいないこの二つの組織で労働法制の改悪や規制緩和をすすめ、閣議決定で固めたあとに労政審の形式的な追認を求める方式をとりました。
安倍晋三政権では、所管の厚労省があるのにわざわざ働き方担当相を任命し、そのもとに財界中心の「働き方改革実現会議」を設置するという露骨な“労政審外し”のやり方をとりました。そこでの一方的な結論を経済財政諮問会議で確認して閣議決定にする手法です。今回の岸田政権の「三位一体改革」はそのやり方をまねたものといえます。
利害の一方の当事者である労働者の声を無視し、財界いいなりで事を運ぶ労働市場改革に批判の声をあげることが重要です。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月6日付掲載


「三位一体改革」の指針をまとめた「新しい資本主義実現会議」は、21人のメンバーのうち岸田文雄首相を含む大臣が6人、財界関係者が12人、学者が2人、連合会長が労働者代表で1人だけという構成で、過半数が財界関係者。
日本では、労働政策の重要事項の審議は、労政審で行うと定められています(厚労省設置法第9条)。その委員は「労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者のうちから、厚生労働大臣が各同数を任命する」(労働政策審議会令第3条)とされ、明確に3者同数と定められています。こういう原則をとっているのが政府内の他の審議会と大きく異なる点。
安倍晋三政権では、所管の厚労省があるのにわざわざ働き方担当相を任命し、そのもとに財界中心の「働き方改革実現会議」を設置するという露骨な“労政審外し”のやり方を。今回の岸田政権の「三位一体改革」はそのやり方をまねたもの。

賃金の上がる国へ② 「労働市場改革」誰のため

2024-06-08 13:04:25 | 働く権利・賃金・雇用問題について
賃金の上がる国へ② 「労働市場改革」誰のため

ジャーナリスト 昆弘見さん

岸田文雄政権は、「三位一体の労働市場改革」で「構造的賃上げ」をめざすとしています。岸田首相の肝いりで発足した「新しい資本主義実現会議」が昨年5月に「三位一体の労働市場改革の指針」をまとめ、それを政府が「骨太方針」の目玉に据え、6月に閣議決定しました。
「リスキリング(学び直し)による能力向上支援」「個々の企業に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」というのが改革の内容ですが、これは誰のための改革なのでしょうか。構造的に賃金が上がる改革といえば労働者のためのようですが、実際は違います。




“移動を円滑に”
AI(人工知能)デジタル革命などといわれる新しい時代に役立つ人材を育成する投資と、もうかる事業とつぶす事業の間で労働者の移動を円滑にすすめるシステムをつくること。これが財界・大企業が近年強く求めている利益拡大戦略の柱です。それがそのまま政府の方針になったものです。
労働者がリスキリングで能力を磨き、新しい会社で成果を認められ、勤続年数や年齢に関係なく高い賃金の「職務」につく、そしてもっと待遇の良い成長分野に自由に移動していく。こうして構造的に賃金が上がるようになる―。
とてもいい話にみえます。しかし、こういうチャンスに恵まれ、もうかる産業に移動し、上昇気流に乗れる労働者ははたしてどれだけいるでしょうか。「成績トップ」のごく一部で、財界が必要としている人材は労働者全体の1割もいるかどうかでしょう。その「ごく一部」の枠に入るために労働者は過酷な競争に追い込まれることになります。
「三位一体の労働市場改革」は、端的に言うと正社員の雇用形態の破壊、流動化が本当のねらいだと思います。
財界はいま新しい時代に遅れないように既存の産業構造の破壊・転換、もうかる産業の育成に躍起になっています。「新しい資本主義実現会議」の議論で、委員の冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)がストレートに語っています。
「産業と企業の新陳代謝を進めなければならない」「三位一体改革は、本当に急がなければ駄目だ」「例えば日本型ホワイトカラーという職種は本当に市場価値がない」
要するに、日本のいまの労働者は、伝統的な年功賃金・終身雇用制度のもとで現状に安住し、無価値で役に立たないということです。強烈な悪罵でびっくりです。

退職強要の口実
「市場価値がない」労働者をどうするか。企業の仕組みを「職務型」に変えて、「職務」の能力がない労働者は低評価・リストラ対象になる。「リスキリング」支援が退職強要の口実になると思います。「リスキリング」のための自己都合退職の場合、失業給付を会社都合退職と同じ扱いにする「優遇措置」をとるといいます。経団連は「解雇の金銭解決制度」の創設を急ぐよう要求しています。
岸田政権がかかげる労働市場改革の重点は、企業が必要とする人材育成をめざしながらも、むしろ企業が不要と判断する余剰労働者を容易に抵抗なく放り出す仕組みをつくることにあるというべきです。
労働市場改革でめざすのは「構造的賃上げ」ではなく、雇用不安と賃金低下にほかなりません。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月5日付掲載


「三位一体の労働市場改革」は、端的に言うと正社員の雇用形態の破壊、流動化が本当のねらいだと思います。
財界はいま新しい時代に遅れないように既存の産業構造の破壊・転換、もうかる産業の育成に躍起になっています。「新しい資本主義実現会議」の議論で、委員の冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)がストレートに語っています。
岸田政権がかかげる労働市場改革の重点は、企業が必要とする人材育成をめざしながらも、むしろ企業が不要と判断する余剰労働者を容易に抵抗なく放り出す仕組みをつくることにあるというべき。

賃金の上がる国へ① 「明るい兆し」どこの話? 問われる政治の責任

2024-06-07 07:13:43 | 働く権利・賃金・雇用問題について
賃金の上がる国へ① 「明るい兆し」どこの話? 問われる政治の責任

ジャーナリスト 昆 弘見さん

歴史的な物価上昇が国民生活を直撃するなか、岸田文雄政権は「三位一体の労働市場改革」によって「構造的賃上げ」を実現するといいます。岸田政権の労働改革の問題点と真の賃上げに向けた打開の方向を、労働問題に詳しいジャーナリストの昆弘見さんに寄稿してもらいました。

日本はいま、政治の責任で労働者の賃金を上げることが急務となっています。岸田首相は「経済の再生が岸田政権の最大の使命」だといい、そのために「物価の上昇を上回る賃上げ」に力を入れると強調しています。30年間、賃金が上がらず経済が停滞し、国民の暮らしが悪化するなかで「言は良し」です。しかし、本当に上がるでしょうか。

国民に実感なし
岸田首相は昨年の春闘のとき、「30年ぶりの高水準」(3・6%)だったと宣伝し、夏ごろには実質賃金がプラスに転じるだろうとの予測をふりまきました。しかし、一度もプラスになりませんでした。
賃上げが3・6%だといっても、勤続年数で毎年自動的に上がる定期昇給(約2%)を含んでいるので、実際のべースアップ(増額)は1・6%。物価上昇(3・1%)にとても追いつきませんでした。結局、実質賃金は2022年4月以降、今年3月まで24カ月連続でマイナス。ついに過去最長となりました。
今年の春闘はどうか。大手の5%超え回答に岸田首相はまたもや「明るい兆しが見えてきた」と上機嫌です。しかし労働者の7割が働く中小企業は、3割の企業が賃上げできるかどうか危ぶまれています。雇用者の4割に増えた非正規雇用の労働者の多くは春闘とは無縁です。実質賃金がプラスになるかどうかは物価の動向しだいという心細さです。
岸田首相の発言にたいして、国民からX(旧ツイッター)で「明るい兆し?どこの話?」「明るいどころかお先真っ暗」などの批判が噴出しました。国民の多くは賃上げ実感がありません。これが現実です。
財界とのお手盛り「官製春闘」では、国民が実感できる賃上げは期待できません。日本が、賃金が上がらない国になったのは、財界・大企業が徹底した賃金抑制政策をとり、自民党政府が全面的な応援政治をとってきたことにあります。



奥田碩経団連会長(当時)。トヨタ自動車会長として賃金抑制を先導=2004年11月15日、東京・帝国ホテル

内部留保は更新
象徴的な例をあげます。
2002年に当時の経団連と日経連が統合して日本経団連が発足し、トヨタ自動車の奥田碩(おくだ・ひろし)会長が初代会長に就任しました。この新組織が真っ先に唱えたのが、国際競争力の強化のために「ベースアップは論外」「定期昇給の凍結・見直しも」という賃金抑え込み方針でした(「03年版経営労働政策委員会報告」)。
年明けすぐに衝撃が走りました。トヨタ自動車の労働組合がベースアップ要求の見送りを表明したのです。トヨタ自動車は、02年に日本企業で初めて1兆円を超える経常利益を記録したばかりでした。史上最高の大もうけを達成した世界のトップ企業がベアゼロに。これで春闘が一気に冷え込みました。
どれほど利益がふえても賃金には回さない。利益は内部留保にという「賃金が上がらない国日本」の構図がここでつくられたといえます。ちなみにトヨタ自動車は、5月8日に発表した3月期決算で営業利益が5兆円、内部留保(利益剰余金)が32兆円超と最高益を更新し続けています。
自民党政府は、財界の要求に応えて、派遣労働の自由化、有期雇用拡大など労働法制の規制緩和政策を次々に強行しました。こうして日本は賃金が上がらない国になってしまいました。(つづく)(5回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月4日付掲載


岸田首相の発言にたいして、国民からX(旧ツイッター)で「明るい兆し?どこの話?」「明るいどころかお先真っ暗」などの批判が噴出。国民の多くは賃上げ実感がありません。これが現実。
2002年に当時の経団連と日経連が統合して日本経団連が発足し、トヨタ自動車の奥田碩(おくだ・ひろし)会長が初代会長に就任。この新組織が真っ先に唱えたのが、国際競争力の強化のために「ベースアップは論外」「定期昇給の凍結・見直しも」という賃金抑え込み方針。
トヨタ自動車は、02年に日本企業で初めて1兆円を超える経常利益を記録したばかり。史上最高の大もうけを達成した世界のトップ企業がベアゼロに。これで春闘が一気に冷え込みました。
どれほど利益がふえても賃金には回さない。利益は内部留保にという「賃金が上がらない国日本」の構図がここでつくられたと。

労基法の危機 全労連・伊藤圭一さんに聞く(下) 割増賃金をなくす議論も

2024-06-06 06:56:06 | 働く権利・賃金・雇用問題について
労基法の危機 全労連・伊藤圭一さんに聞く(下) 割増賃金をなくす議論も

―「デロゲーション(適用除外)」の他にどんな議論がされていますか。
副業の割増賃金をなくすことが議題に上がっています。副業させると当然、長時間労働になります。労基法は副業と本業の労働時間を通算して割増賃金規制をかけています。
仮に本業で7時間勤務し、副業先でさらに4時間働いた場合は、本人の自己申告が必要ですが、本業と副業の通算で1日8時間を超える3時間分に、副業先企業の割増賃金支払い義務が発生します。
しかし、使用者に遠慮し労働者が申告しない場合がほとんどです。規制が運用されていないのをいいことに副業の割増賃金廃止を求める財界の意向が認められる流れが濃厚です。そのうえ通常の割増賃金そのものをなくす議論も出てきています。



労働基準関係法制研究会で議論する学者ら=5月10日、厚生労働省

最低基準未満
―研究会では「カスタマイズ」という言葉も使われています。

有識者研究会の中で労基法改悪を主張する学者は「職場に応じた労働条件のカスタマイズやルールメイキングが必要だ。一律規制なんてあり得ない」と主張しています。
しかし、労基法は最低基準を上回る多様なカスタマイズは認めています。8時間より短く、高い賃金で働く合意を推奨しています。
財界の息のかかった学者が「柔軟な働き方」や「多様な選択」と言いながら進めているのは、本来無効である最低基準を下回る改悪のカスタマイズです。
労働者が望む「多様な選択」を認めず、硬直的な働き方を強いているのは労基法でなく使用者が定めたルールです。それを労基法が原因であるかのようにすり替えています。だまされてはいけません。
もし労使合意を要件に労基法が柔軟化されれば、より長時間・低賃金で働かせたい使用者のやりたい放題の世界になります。
―この時期に議論が進められているのは、なぜですか。
時間外労働の上限規制(月100時間未満など)を導入した「働き方改革」関連法の施行から4年がたち、効果の検証を踏まえて労基法などの見直しの検討が始まっています。このタイミングで制定77年を迎える労基法も「寿命が来ているから」と改悪したいのでしょう。
労基法の見直しに向けて厚労省の有識者検討会「新しい時代の働き方に関する研究会」が2023年3月~10月に開かれ、報告書をまとめました。内容は「労使自治や合意による柔軟な働き方を妨害するな」というものです。
それを踏まえて有識者検討会「労働基準関係法制研究会」が今年1月から7回開催されています。この間、①事業、労働者概念②労働時間制度③労使コミュニケーションーなどの論点整理、労使団体の意見聴取を行っています。
当初予想より早いスピードで議論が進み研究会の結論は夏ごろにはみえてくるかもしれません。研究会の結論を受けた労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)は早ければ年内、遅くとも年明けには議論を開始する見込みです。

時間短縮こそ
―改悪を許さないために何が必要ですか。

4週4休制の廃止や、週44時間労働制の廃止、家事使用人への労働基準法の適用など、改善点も議論されていますが、狙いの中心は労基法・労働時間規制の無効化です。今、何が議論され、問題点はどこにあるのかの理解を広げて、改悪反対の世論をつくる必要があります。
さらに政府が背を向けている夜勤規制の拡充や変形労働時間制の見直し、法定労働時間の短縮など、あるべき法制度を要求し、ジェンダー平等やワーク・ライフ・バランスを実現するよう、皆で声をあげましょう。(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年6月1日付掲載


財界の息のかかった学者が「柔軟な働き方」や「多様な選択」と言いながら進めているのは、本来無効である最低基準を下回る改悪のカスタマイズ。
労基法の見直しに向けて厚労省の有識者検討会「新しい時代の働き方に関する研究会」が2023年3月~10月に開かれ、報告書を。内容は「労使自治や合意による柔軟な働き方を妨害するな」というもの。
さらに政府が背を向けている夜勤規制の拡充や変形労働時間制の見直し、法定労働時間の短縮など、あるべき法制度を要求し、ジェンダー平等やワーク・ライフ・バランスを実現するよう、皆で声をあげましょう。

労基法の危機 全労連・伊藤圭一さんに聞く(中) 適用除外の対象拡大

2024-06-05 07:11:32 | 働く権利・賃金・雇用問題について
労基法の危機 全労連・伊藤圭一さんに聞く(中) 適用除外の対象拡大

―「デロゲーション(適用除外)」の対象拡大や要件緩和が狙われているのでしょうか。
例えば、裁量労働制は対象業務が限定され、労使委員会の決議を要するなど、乱用を防ぐ条件が課されています。時間外労働や休日労働も合意がなければデロゲーションできません。この制約をなくすのが政府・財界の狙いです。

合意なくても
改悪案は二つあります。一つは細かい年収要件や業務限定の縛りなどをなくし労働者と使用者が合意すればその労働条件が認められるようにすることです。
もう一つは、使用者が労働者に説明し、意見を聞けば、労働者が反対しても使用者の判断が優先されるという、さらに恐ろしい仕組みです。
財界が「労使合意」と言わず、「労使コミュニケーション」という言葉を使うのは、使用者が情報提供と意見聴取をすれば、労働者の合意なしにデロゲーションが可能となる仕組みを導入しようとの意図があるからです。
現在、就業規則の変更は労働者に不利益な部分があっても、使用者が労働者に意見聴取をして労働基準監督署に届け出れば、受理されてしまう仕組みです。
不利益に変更された規則を撤回させるには裁判をせざるを得ず、私たちは何らかの改正が必要と考えています。ところが政府と財界は、このように合意すら要らないデロゲーションの仕組みを労働時間規制にも適用しようとしています。


【企画業務型裁量労働制の導入の流れ】
1 労使委員会を設置する
2 労使委員会で決議する
3 個別の労働契約や就業規則等の整備
  所轄労働基準監督署に決議届を届け出る
4 労働者本人の同意を得る
5 制度を実施する
6 決議の有効期間の満了
※厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署の「企画業務型裁量労働制の解説」から作成


労基署減狙う
全国321カ所ある労働基準監督署の弱体化も狙われています。2022年に労基署が定期監督した事業所約14万2000カ所のうち賃金不払いなどの違反率は7割に上ります。違反を取り締まり、労基法の力を担保する労基署の存在は使用者にとっては脅威です。
財界は労基署の数を減らすために、指導・監督する単位を事業場から本社に緩和することを求めています。
事業場とは支社や工場、営業所などです。本社と工場や営業所の所在地が分かれている場合、デロゲーションをするには各事業場単位で労使協定をつくらなければなりません。
財界は、いくつも工場がある大企業は事業場ごとに労使協定を結ぶのが煩わしく、個別に労基署に踏み込まれるのも嫌なので、リモートワークなど働き方の変化を口実に、労基法の規制の適用を企業本社単位へと転換させようとしています。
そうなれば「321カ所も労基署は必要ない」という流れになり、数が減らされて現場から労働行政がますます遊離していくでしょう。
さらにデロゲーションの容易化で労基署が踏み込みにくくなります。こんな具合に労働基準行政を根本から機能不全にすることが政府・財界の目的です。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年5月31日付掲載


改悪案は二つ。一つは細かい年収要件や業務限定の縛りなどをなくし労働者と使用者が合意すればその労働条件が認められるようにすること。
もう一つは、使用者が労働者に説明し、意見を聞けば、労働者が反対しても使用者の判断が優先されるという、さらに恐ろしい仕組み。
全国321カ所ある労働基準監督署。2022年に労基署が定期監督した事業所約14万2000カ所のうち賃金不払いなどの違反率は7割に上ります。違反を取り締まり、労基法の力を担保する労基署の存在は使用者にとっては脅威。財界は労基署の数を減らすために、指導・監督する単位を事業場から本社に緩和することを。
例えば、兵庫県の場合、労働基準監督署は、神戸東(神戸市灘区・中央区)、神戸西(神戸市兵庫区、・長田区・須磨区・垂水区・北区・西区)、尼崎(尼崎市)、姫路(姫路市・宍粟市・たつの市・神崎郡・揖保郡)、伊丹(伊丹市・川西市・三田市・丹波篠山市・川辺郡)、西宮(西宮市・芦屋市・宝塚市・神戸市東灘区)、加古川(明石市・加古川市・三木市・高砂市・小野市・加古郡)、西脇(西脇市・加西市・丹波市・加東市・多可郡)、但馬(豊岡市・養父市・朝来市・美方郡)、相生(相生市・赤穂市・佐用郡・赤穂郡)、淡路(洲本市・淡路市・南あわじ市)と11カ所あります。