濱田北海学園大学教授
原口道機船連常務
本田北海道新聞編集委員
「ウクライナ戦争下における交渉のゆくえ~」をテーマにした日ロ漁業協定セミナーが2023年2月6日午後3時からオンラインで開催され、濱田武士北海学園大学教授、原口聖二道機船連常務が現状報告し、本田良一北海道新聞編集委員らからコメントを受け討論を交わした。このシンポは北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、NPO法人ロシア極東研、公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)の共催で行われた。
濱田氏は「ロシア軍のウクライナ侵攻下の日ロ漁業外交」として、現状認識を「日本の漁業外交が従来の攻めから守りに入る中で、日ロ間においても守りに入り、国境管理を強化する方向に推移している」と指摘した。歴史的な日ロ間の漁業関係、現行の漁業協定や交渉経過、実際の操業実態などを踏まえ、日本の漁業者のロシア水域における操業意欲が減退している状況を報告。地先沖合交渉におけるサバの漁獲枠を確保するために、四島安全操業を「人質」にとるロシアの戦略を明らかにし、日本の漁業外交が攻めから守りのフェーズに移行する中で、「ウクライナ侵攻がそのテンポを早めた」、「日ロをつなぐ細い糸がさらに細くなる懸念」を示唆
した。
原口氏は、ロシアのウクライナ侵攻と日本の経済制裁について「これ以上制裁をすれば協定が停止する」事態をロシアとノルウェーの協定更新を例に説明した。また、ロシア産の水産物輸入について、米国が完全禁止する中で、EUが甲殻類とキャビアは禁止しているが白身魚は除外している状況を踏まえ、日本の措置がサケ、カニの関税引き上げにとどまっている点に理解を示した。さらに世界のスケソウ漁業をめぐるロシア漁業のダイナミズムを解説し「世界の白身魚の需要を満たすには180万㌧を安定生産するロシア抜きに考えられない」。ロシアは自国資源とその活用を追求しており、2019年から歴史的原則に対し投資クォータによる割当に政策転換しているが、オリガルヒ(新興財閥)への過剰な依存、漁船建造が停滞しているという現状を明らかにした。
本田氏は、かつて割当超過、密漁の横行など失敗に終わったオークションを今回なぜ再び行うのかと疑問を呈し、原口氏は「確かにオークションベースの投資割当を行なっている。今回は漁船建造をしながら漁獲割当を消化し、密漁防止はかなり強化され、かつてのような事態は起こりにくい。しかも15年間の権利なので、長い目でどうなるのか観察する必要がある」とした。
また、本田氏は「公式チャネルがない日ロ間で、定期的な漁業交渉は貴重な外交機会であり、経済スケールとは別に政治的な意味で国益になる」との視点を提起した。