喫茶店の理想形は「小さい店」だと思っている。
だだっ広い店ではなく、マスターも客も顔が見える小さい店。それが喫茶店の理想の形。
港区大門の「カロライナ」はその点、ほどよく小さな店である。
マッチ箱のようなといったらいいだろうか。全部で8つほどのテーブルが、やや間隔が狭く配置されている。
黒木のやや堅めの椅子とテーブルに白い漆喰の壁が映える。
十字路の角地にあって、それぞれ通りに面した壁は出窓があって、それがいかにもヨーロッパのようだ。出窓の採光が漆喰の壁を更に美しく照らす。
出窓には「ヘデラヘリックス」。黄緑色の葉っぱが眩しい。
出窓に置かれた植物が日射しを浴びて、輝いている。もうこれだけで、幸せな気持ちになってくる。
以前からこの店は知っていた。
自動車会館に行く途中の道。ポツンとある「カロライナ」をいつも素通りしていく。
今回、たまたま入ってみようと思ったのは、お店のカレーを食べてみたくなったから。
店頭に出ている小さな看板にひかれて、ボクは店に入った。
店は満員で辛うじて、入口に最も近い席が辛うじて空いていた。
ボクは正直、「ついてない」って思った。落ち着かない席だなと。
でも、目の前にある出窓と「ヘデラヘリックス」を見て、逆に「ここでよかった」と思った。
隣の席では、飛行機の業界誌と思しきスタッフが編集会議を開いている。タバコの煙が吹き抜けてきて、あまりいい気持ちではなかったけれど、彼らが話す話しはなかなか興味深いものだった。
ボクはカレーを頼んだ。
喫茶店のカレーにはついついうきうきしてしまう。カレー専門店以上に、カレーらしいと思うのだ。
まずは「オニオンスープ」とサラダが運ばれる。
このスープが絶妙。もちろん手作りだ。これだけで、この喫茶店がどんな仕事をしているかが分かる。丁寧なお仕事。まさに一球入魂。
居酒屋はある程度、アバウトな仕事をしていても許される。むしろ、緩い方が人間臭い。だが、喫茶店はそうはいかない。会話は緩さが求められても、コーヒーやケーキ、ランチなどには緻密さが求められる。
その点「カロライナ」の「オニオンスープ」は味の峻烈さと洗練さは際立っていた。
そしてカレーである。ドミグラス的なソースの香りは欧州のそれである。やや褐色のカレーには白い生クリームが絵画のサインのように描かれている。このカレーは当たりだ。
立ち上る香り。衝動的にスプーンをとり、ボクはカレーとご飯をすくった。うまい。マジで。
具はほとんどなく、いや煮込むことで、ソースにインクルードされる野菜がソースの味を立体的に奥行き深く感じさせる。
それはもう圧巻だった。
だが、カレーを食べ終えたあとも衝撃のビブラートはおさまらなかった。
デザートの果物が出てきたのだ。
出窓の前の席に置かれたそれは、まさに静物画だった。
喫茶店は音楽的な店と絵画的な店に分類される。「カロライナ」は確実に後者だった。
ウェイトレスの女性はベテランの方だが、メイド姿がよく似合う。これもこの店の37年間の伝統なのだろう。
コーヒーはブレンドのみ。サイフォンで入れたというコーヒーがこれまたうまい。
白いカップの光と影の陰影がテーブルに美しくあぶりだされる。
落ち着く午後のひととき。
小さなお店の日だまりの時間にて。
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