店頭が燃えている。
ガラスの中に藁をくべると、炎はすぐに火が付き、店内は明るく照らされる。
名古屋の立ち飲み屋。その名も「藁」。
つい、半年ほど前まで頻繁に名古屋を訪れていたときは、この店は見かけなかった。この半年のうちにオープンしたのだろうか。
店頭ではぜる藁を見て、ボクは店内に入った。
1階はカウンターのみの立ち飲みスペース。2階もあるらしい。
その2階へ行く階段の直下にあるスペースに陣取らせてもらった。だが、このポジションが悪かった。背後に階段の足場があり、極めて狭い。ちょっと気を抜くと、その足場に頭をぶつけそうになる。後ろを人が通るときは、半歩前に出て、歩く人のスペースを作ってやらなければならない。そんな訳ありのポジションだった。
この店には生ビールがなかった。その代わりにあるのは「淡麗 生」の樽詰め。390円。まずは、様子見に「ポテトサラダ」(300円)をオーダーした。
メニューに「煮込み」はない。また、名古屋めしのメニューも見えなかった。
メニューの大半を飾るのは魚。この店名物の藁焼きをはじめ、炙り、そして刺身と調理法にこだわりを見せる。
その藁焼きはカツオと若鶏。前者が5切で590円。後者が1枚330円だという。
ここは、その藁焼きとやらを食べてみなければ、話しにならない。
そこで、藁焼きのカツオを注文した。
すると、店員が藁をひっつかんで店頭へ行き、ガラスに仕切られたスペースに藁を突っ込んだ。
やがて、ぱちぱちと藁が焼ける音がし始めて、カツオがあぶりだされる。
藁で焼くと焼きがふんわりとなるという。確か、漫画「美味しんぼ」にも藁で炊くかまどのご飯が出てきたと記憶している。藁には特別な力があるようだ。
それに案外、火力が強い。藁自体はすぐさま焼けてしまうのだが、ぼぉっと燃える音がして、置いてあるカツオの肉を焼いている。
恐るべし藁。
演出は十分に楽しめたが、果たしてそのお味といえば、これがまたうまかった。
スモークとは違う独特の匂い。枯れ草のような薫りが、食べてる際の鼻を通っていく。
なんてうまいんだ。
こうしてはいられない。「カツオのたたき」に最も合うお酒。
メニューを繰ると「酔鯨」という文字がみえる。純米吟醸が590円。
かーっ、たまんねぇな。
女の子の店員がボクの後ろを行ったり来たりしているが、時間が空くと、何故かボクに話しかける。
どこから来たのか。どこに泊まっているのか。どのくらいの頻度で名古屋に来るのか。
そのたびにボクは答えるのだが、答えた後、彼女は決まって「えー、ほんとですか」を繰り返した。
ボクの話などはたいして面白くもないのに。
藁の演出が通りゆく人の足を止める。その足止めを食った人が続々と店内に入ってきた。
店は意外に混んでいる。
名古屋人は立ち飲みなんて入らないと思っていたが、立ち飲みスペースはもういっぱいだった。
ボクは最後に「イカ下足」と「酔鯨」をそれぞれオーダーした。下足は炙り。焼き方はまさに変幻自在である。
藁焼きというある意味奇抜な調理は、名古屋特有のものなのだろうか。
それならそれで、いかにも名古屋らしい。
だが、満員御礼の立ち飲みだったが、店はすでに閉店したようである。
名古屋の立ち飲みは希少なので、極めて残念である。
なんでかな。消防法にでも引っかかったかな??
でも、類似のサービスをやっている居酒屋は、たまに見かける。