今年の冬は記録的な暖冬だったが、それでも3月には寒さがぶり返し、肌寒い日が続いた。3月15日もかなり寒く、鶯谷駅で怪鳥と落ち合ったときにはお互いスーツの上にコートを羽織っていた。
この日は、今年初めての開催となる「ホッピー研究会」。
ホーム&アウェイ方式で行われる同会の規則に沿って、わたしの本拠地に招くという番だった。
そこで、鶯谷は居酒屋放浪記NO.0113で登場した「ささのや」を怪鳥に体験してもらって、次の店に流れる、というシナリオを描いていたのだ。
昭和に迷い込んでしまったかのような、まるでドヤ街にある飲み屋を彷彿させる店「ささのや」。「超」がつくくらいに安い値段の酒と焼き鳥は労働者が1日の終わりに疲れた体を癒すささやかな止まり木だ。なにしろ、焼き鳥が1本70円均一。道端からひょいと手を出して焼き鳥をつまみ、コップ酒に食べ終わった串を放っておけば、最後に主人が竹串を数えてお会計してくれる。
焼き鳥もいいが、この店の煮込みがまた秀逸だった。これは、是非「ホッピー研究会」で議題に挙げなければ、と考え、今日この日、怪鳥を迎えたのだ。
鶯谷駅南口を東方面、つまり橋を渡っていくと、もうすでに「ささのや」さんの焼く焼き鳥の白煙が漂っている。
すかさず怪鳥、「分かった、この煙の店に行くんだね」。
さすが怪鳥。鋭い勘をしている。
その白煙の出処に着くと、既に20人近い客が店先に立って、せっせと焼き鳥と酒を口に流し込んでいる。
我々は中に通して貰うことにした。
居酒屋放浪記NO.0113では、さもこの店が立ち飲み屋の如く記したが、実は奥には座って飲むスペースがある。たいした広さもないと思っていたが、店に入ってみると、けっこう広かった。辛うじてひとつテーブルが空いており、我々はそこにかけて瓶ビール(サッポロ黒ラベル)を2本注文した。頭上にはテレビ。そして隣の大きなテーブルには学生ゼミの集まりのような集団が宴もたけなわといったあんばいでサワーを飲んでいる。
とりあえず、煮込みを注文した。なにしろ、ここの煮込みは大きなお椀いっぱい具を入れてくれるのである。中央には大きな豆腐が添えられ、そのダイナミックぶりが一際強調されるのだ。一口スープを飲んでみると、その濃厚な味にたちまち幸せな気持ちになってくる。
焼き鳥はカシラ、レバー、ねぎ間をそれぞれタレで頼んだ。焼き鳥の実はそれほど大きくないし、どちらかと言えばふぞろいだ。
だが、これが全て70円均一。
野菜でも同じことが言えるが、形は全てではない。規格に合ったもの、或いは不恰好なものは商品として流通できなないことはどう考えてもおかしい。日本人はあまりにも形にこだわりすぎているのではないか。上品か下品か。カッコいいか、無様か、美しいか醜いか、ではない。うまいか、まずいか、だ。このふぞろいの焼き鳥でもかなりうまい。嘘だと思うなら、「食楽」(徳間書店)編集部の皆さん、食べてみなよ。
一通り食べたところで、我々は店を出ることにした。ホッピーを求めて次の店に!気が付けば、隣で飲んでいた学生風たちも潮がひくようにいなくなっていた。
次に目指したのは鶯谷駅北口周辺の居酒屋だ。
駅の改札を出れば、数件の飲み屋が密集している。
我々は、ラブホテル街をすり抜け、飲み屋が集まる通りに出た。
さて、どこに行こうか。
わたしの気持ちは「加賀屋」だった。
理由は特にないが、それが一番無難だと思ったからだ。
だが、怪鳥の希望は違った。
「ここにしようよ」と言った怪鳥の指の先には、なんともこ汚い定食屋風情の店があった。
名前を「信濃路」という。
郷愁そそられる店名だが、外見はまったくの定食屋。だが若干の飲み屋風のテイストも感じられる。実際、店の外には「ビール」だの「ホッピー」といった手書きのポスターも見られ、天然生粋の定食屋でないことは一目で分かる。しかし、そうは言いながら、何と怪鳥の大胆な店選び!そして、その怪鳥の発言は我がホッピー研究会の絶対でもあるのだ。
こうして、我々はその定食屋に毛が生えたような店へと突進したのである。
店の中は全てカウンター。店内は縦に長く、およそ30席くらいは用意されている。
何人かの先客を掻き分け、我々は店の奥のほうに陣取った。
背後には14型のブラウン管テレビ。時刻はまだ6時台で夕方のニュースを放映している。
我々は、いきなりホッピーを貰うことにした。
すると、カウンター向こう側の厨房の狭い隙間からにゅーっと手が伸びてきて、中身が入ったジョッキと瓶のホッピーが2つづつ出てくるのである。
つまみは手っ取り早いところで「白菜の漬物」(230円)を頼んだ。
ぐるりと店内を見回す。
メニューが驚くほどに多い。100種類近くあるのではないか。
定食屋の趣はこのメニューの豊富さにも現れている。
その中で怪鳥が「おや?」と眉をしかめた一品があった。
「トンカツ」である。
なにしろ250円という安さなのだ。
まさか、トンカツがタバコより安いだなんて。しかし、一体どんな代物が出てくるのだろう。気になった我々は早速それを頼んだ。
ほどなくして、出てきたものは、やや肉が薄いものの、いたってまともなトンカツだったのである。肉が薄いといったって、ほとんど気にならないような違い。とにもかくにも これで250円だなんて、ちょっと信じられない。
トンカツの味はまぁまぁだったが、その後に食べたレバーキムチ(400円)は絶品だった。
程好く辛くて、ホッピーにあうあう。
これ一品だけでもう満足だ。
さて、客層は圧倒的にブルーワーカーが多かった。
彼らは1~2杯飲んでご飯を食べたらさっと帰る連中が多かったが、一組だけ異色の客がいた。
我々の近くに座ったホワイトカラーのおっさん。
厨房の従業員に向かって「りん君」と親しげに話しかけるところをみると、どうやらここの常連らしい。それだけなら、別に珍しくもないが、その後に来店した30歳台の女性が ミステリアスさを充満させていた。
河合奈保子さんを不健康にしたような女性は終始にこやかに語らいながら、サワーを飲み、この白いYシャツのおっさんと語らいあっていた。
我々は、中身を2杯お代わりして店を後にした。
ところで、怪鳥。
おれたち、どんどん転がり落ちていくようにどんどん場末に向かっていないか。
これからホッピー研究会はどこへ行くのだろうか。
明日はどっちだ。
この日は、今年初めての開催となる「ホッピー研究会」。
ホーム&アウェイ方式で行われる同会の規則に沿って、わたしの本拠地に招くという番だった。
そこで、鶯谷は居酒屋放浪記NO.0113で登場した「ささのや」を怪鳥に体験してもらって、次の店に流れる、というシナリオを描いていたのだ。
昭和に迷い込んでしまったかのような、まるでドヤ街にある飲み屋を彷彿させる店「ささのや」。「超」がつくくらいに安い値段の酒と焼き鳥は労働者が1日の終わりに疲れた体を癒すささやかな止まり木だ。なにしろ、焼き鳥が1本70円均一。道端からひょいと手を出して焼き鳥をつまみ、コップ酒に食べ終わった串を放っておけば、最後に主人が竹串を数えてお会計してくれる。
焼き鳥もいいが、この店の煮込みがまた秀逸だった。これは、是非「ホッピー研究会」で議題に挙げなければ、と考え、今日この日、怪鳥を迎えたのだ。
鶯谷駅南口を東方面、つまり橋を渡っていくと、もうすでに「ささのや」さんの焼く焼き鳥の白煙が漂っている。
すかさず怪鳥、「分かった、この煙の店に行くんだね」。
さすが怪鳥。鋭い勘をしている。
その白煙の出処に着くと、既に20人近い客が店先に立って、せっせと焼き鳥と酒を口に流し込んでいる。
我々は中に通して貰うことにした。
居酒屋放浪記NO.0113では、さもこの店が立ち飲み屋の如く記したが、実は奥には座って飲むスペースがある。たいした広さもないと思っていたが、店に入ってみると、けっこう広かった。辛うじてひとつテーブルが空いており、我々はそこにかけて瓶ビール(サッポロ黒ラベル)を2本注文した。頭上にはテレビ。そして隣の大きなテーブルには学生ゼミの集まりのような集団が宴もたけなわといったあんばいでサワーを飲んでいる。
とりあえず、煮込みを注文した。なにしろ、ここの煮込みは大きなお椀いっぱい具を入れてくれるのである。中央には大きな豆腐が添えられ、そのダイナミックぶりが一際強調されるのだ。一口スープを飲んでみると、その濃厚な味にたちまち幸せな気持ちになってくる。
焼き鳥はカシラ、レバー、ねぎ間をそれぞれタレで頼んだ。焼き鳥の実はそれほど大きくないし、どちらかと言えばふぞろいだ。
だが、これが全て70円均一。
野菜でも同じことが言えるが、形は全てではない。規格に合ったもの、或いは不恰好なものは商品として流通できなないことはどう考えてもおかしい。日本人はあまりにも形にこだわりすぎているのではないか。上品か下品か。カッコいいか、無様か、美しいか醜いか、ではない。うまいか、まずいか、だ。このふぞろいの焼き鳥でもかなりうまい。嘘だと思うなら、「食楽」(徳間書店)編集部の皆さん、食べてみなよ。
一通り食べたところで、我々は店を出ることにした。ホッピーを求めて次の店に!気が付けば、隣で飲んでいた学生風たちも潮がひくようにいなくなっていた。
次に目指したのは鶯谷駅北口周辺の居酒屋だ。
駅の改札を出れば、数件の飲み屋が密集している。
我々は、ラブホテル街をすり抜け、飲み屋が集まる通りに出た。
さて、どこに行こうか。
わたしの気持ちは「加賀屋」だった。
理由は特にないが、それが一番無難だと思ったからだ。
だが、怪鳥の希望は違った。
「ここにしようよ」と言った怪鳥の指の先には、なんともこ汚い定食屋風情の店があった。
名前を「信濃路」という。
郷愁そそられる店名だが、外見はまったくの定食屋。だが若干の飲み屋風のテイストも感じられる。実際、店の外には「ビール」だの「ホッピー」といった手書きのポスターも見られ、天然生粋の定食屋でないことは一目で分かる。しかし、そうは言いながら、何と怪鳥の大胆な店選び!そして、その怪鳥の発言は我がホッピー研究会の絶対でもあるのだ。
こうして、我々はその定食屋に毛が生えたような店へと突進したのである。
店の中は全てカウンター。店内は縦に長く、およそ30席くらいは用意されている。
何人かの先客を掻き分け、我々は店の奥のほうに陣取った。
背後には14型のブラウン管テレビ。時刻はまだ6時台で夕方のニュースを放映している。
我々は、いきなりホッピーを貰うことにした。
すると、カウンター向こう側の厨房の狭い隙間からにゅーっと手が伸びてきて、中身が入ったジョッキと瓶のホッピーが2つづつ出てくるのである。
つまみは手っ取り早いところで「白菜の漬物」(230円)を頼んだ。
ぐるりと店内を見回す。
メニューが驚くほどに多い。100種類近くあるのではないか。
定食屋の趣はこのメニューの豊富さにも現れている。
その中で怪鳥が「おや?」と眉をしかめた一品があった。
「トンカツ」である。
なにしろ250円という安さなのだ。
まさか、トンカツがタバコより安いだなんて。しかし、一体どんな代物が出てくるのだろう。気になった我々は早速それを頼んだ。
ほどなくして、出てきたものは、やや肉が薄いものの、いたってまともなトンカツだったのである。肉が薄いといったって、ほとんど気にならないような違い。とにもかくにも これで250円だなんて、ちょっと信じられない。
トンカツの味はまぁまぁだったが、その後に食べたレバーキムチ(400円)は絶品だった。
程好く辛くて、ホッピーにあうあう。
これ一品だけでもう満足だ。
さて、客層は圧倒的にブルーワーカーが多かった。
彼らは1~2杯飲んでご飯を食べたらさっと帰る連中が多かったが、一組だけ異色の客がいた。
我々の近くに座ったホワイトカラーのおっさん。
厨房の従業員に向かって「りん君」と親しげに話しかけるところをみると、どうやらここの常連らしい。それだけなら、別に珍しくもないが、その後に来店した30歳台の女性が ミステリアスさを充満させていた。
河合奈保子さんを不健康にしたような女性は終始にこやかに語らいながら、サワーを飲み、この白いYシャツのおっさんと語らいあっていた。
我々は、中身を2杯お代わりして店を後にした。
ところで、怪鳥。
おれたち、どんどん転がり落ちていくようにどんどん場末に向かっていないか。
これからホッピー研究会はどこへ行くのだろうか。
明日はどっちだ。
しかし、ここがどん底とも思えないなぁ。もっと凄いところは必ずあるよ。
こないだ、記者仲間から町屋にあるすごい店のことを聞いたよ。
もっと下を目指して行こうか!
でも、お寿司屋さんは行きましょう!
あの豪快そうな人(草野球で1塁守ってた)が繊細なお寿司を握っているっていうのが想像つかないナ。
今、一番旬なお寿司さんなのでしょう。今のうちに予約しとく?
ま、とりあえず近日中に行きましょう!
うう~ん、気になります。
今回の定食屋の話しが遠くに霞んでいるよ。
日にちは3日か4日で。
どちらでも可なので、あとはお店の都合にまかせてもいいかも。
よろしければ、まき子さんもいかがですか?