居酒屋放浪記NO.0146 ～うっ！？町田サワー～「立ち呑み屋」（町田市原町田）

　小田急線に乗って帰宅の途に。
　たいして飲んでいないのに、ちょっと酔っ払ってる。

　飲んだ店の名前は「立ち呑み屋」。
　読んで字のごとくの立ち飲み屋さん。
　会社の同僚で町田に暮らして30年のＴ根川君にお奨めの立ち飲み屋を尋ねたら、地図まで添えて教えてくれた。
　行ってみて、なるほど、Ｔ根川君らしいナと思った。
　店はまだ新しく少しもくたびれていない。
　働いている従業員もまだ20代前半の若者ばかりだった。
　店に流れるＢＧＭは有線放送らしく、Ｊポップスが音も絞らずに垂れ流されていた。
　わたしが店に入ったときは、小田和正さんの歌が、少しの遠慮もなしにかかっていた。

　まず、はじめに生ビール（450円）を注文したっけ。
　女性の定員が対応してくれたのだが、ビールが出てくるのに、少し時間を要した。客はわたしの他に一組。それほど忙しそうでもなかったが。
　出てきたビールはサントリーモルツ。泡はものすごく細かくクリーミィ。このクリーミィさを出すためにじっくりとサーバーと格闘していたのだったら、多少の時間を要すのも致し方ないか。

　店に入ったのは午後5時2分だった。
　会社に連絡を入れて、直帰の報告をして、入店したのだが、既に背広姿の客がカウンターの後ろに設置されたテーブル席で飲んでいた。
　そうそうこの店、立ち飲み屋と言いつつ、しっかりとテーブル席も確保されていた。カウンターには椅子が全くないのだが、カウンターの後方にはテーブル席が幾つか見えた。
　店の内装から判断すれば、完全に若造をターゲットにした店舗に見えたが、その後ぽつぽつと入ってきた客はいずれも年配のサラリーマンばかりだった。
　もっともまだ時間が早い。
　紅一点の女性店員に聞いたところ、夕方は４時から営業しているらしい。ちなみに終わりは２時とのこと。

　さて、ビールが来てつまみが欲しくなった。
　「すぐ出てくるものってなに？」
　と、その女性店員に聞くと「もつ煮込み」と返ってきた。それの塩味（350円）を頼んでみることにした。
　面白いことに、同店では「塩味」と「味噌味」を選べるのだった。
　すると、間髪入れずにそれは運ばれてきた。
　透き通ったスープ。一口すすってみると、やや辛味が効いた味がする。
　何だろうと思ってもう一口。
　そうだ、これは柚子こしょうだな。
　「煮込み」に柚子こしょうとはなんともまたオツな味だ。

　生ビールを飲み干して、次に飲んだものは…。
　そうそう、「町田サワー」（430円）というものだったっけ。
　これもまた、なにか珍しそうで…。メニューには「元祖」というようなものがあったから、この界隈では他にもこれを飲ませるところがあるんだな、と思った。
　運ばれてきた、それはアプリコットのような色合いのもので、見た目はテキーラサンライズのようなオレンジ色をしていた。
　その瞬間、「失敗したな」と思い、一口飲んでみると、あぁ、やっぱり甘かった。
　店員のお姉ちゃんに聞くと、「梅酒ベースでグレープフルーツを入れて、何種類もの云々かんぬん」などと言っている。
　とにかく、恐ろしく甘いのだ。
　これが、町田名物なのか。

　入り口の頭上にはテレビが据えられて夕方のニュースが報じられている。
　なになに、長嶋茂雄さんの奥さんが亡くなられた？
　ニュースはその日のトップを少し大げさに報道してみせた。
　すると、店員たちも一斉にテレビの方を眺め、仲間たちと話しをしはじめた。
　「長嶋さん亡くなったの？」
　「違うよ、長嶋さんの奥さん。長嶋さんが亡くなったら、こんなもん（報道）じゃないよ」。

　そんな報道番組を尻目に、なんとか、頑張って「町田サワー」を飲み干したんだっけ。
　そして、口直しに「さつま白波」（薩摩酒造㈱）のロック（400円）を頼んだんだ。
　それから、肴には「豚カシワ」（130円）「豚レバー」「豚てっぽう」（各120円）をそれぞれ注文。
　なんとか、「町田サワー」の呪縛から解き放たれたんだっけ。
　やきとんもまぁまぁのボリュームで悪くはなかった。
　値段も「バリ鳥」のように法外な値段ではなかったし、（バリ鳥の『豚カシワ』は230円）居心地もバリ鳥に比べれば落ち着いて飲むことができた。
　カウンターも木の温もりが伝わってきて、ぎすぎすしていない。だいいち店はまだ新しく、清潔だ。
　食べ物も決して高くはないのだが、どうにも、また来ようという気にはなれなかった。

　何が気に入らなかったというものもなかったんだが。
　でも、やっぱりアレか。
　町田サワーはおじさんには刺激が強すぎたのかもね。

　小田急の新宿行きの電車に腰掛けながら、そんなことを考えながら家路についたのだった。