2月に入るといちだんと寒さが厳しくなった。
立ち飲みラリー山手線編は将鑑橋を渡り、いよいよ田町エリアへと侵入した。
第一京浜と並行して走る芝商店街をいく。駅から遠い、忘れられた商店街だが、細々とその営みは続いている。
ここは、昔からよく使った道路。寂れてはいるが、わたしの大好きな商店街でもある。
この通りに確か、かつて立ち飲みを見た覚えがある。犬のトリマーの店の横に。
探してみたのだが、店は見つからない。気のせいだったかと諦め、三田側に歩いていくと、今度は正真正銘の立ち飲み屋を見つけた。
「デリカテッセン&ワイン」と書かれている。
ひと月前に通ったときは、たしかなかったような気がする。どうやら最近オープンしたらしい。
小ぎれいなお店だ。
店の名前は「MITONE」(ミトネ)という。
浜松町界隈は変わり身が早い。
駅前に玉川屋酒店、芝に入って伊藤酒店、そして有澤酒店といったこてこての角打ちが続くと思ったら、次にデリカテッセンのバル風立ち飲みが現れる。
しかも、この浜松町、三田間の特徴は駅前に立ち飲みが密集しているのではなく、その道筋の所々に立ち飲み屋が点在している点もひとつの驚きである。
有澤酒店、伊藤酒店、そして「MITONE」。この芝商店街の終点の正面にも「内田屋 西山福之介商店」が店を構える。100〜200m毎に立ち飲み屋が点在している街も珍しいだろう。
早速、「MITONE」に入ってみた。
すると、若い男性がひとり、笑顔で迎えてくれた。
黒板に描かれた様々な酒肴。
どうやらワインバルのようである。
まだ20代と思しき、若い店員にお奨めのワインを尋ねる。
辛口の白ワインをリクエストすると、彼はルーマニアの「モンシェール」(600円)を勧めてくれた。ルーマニアのワインとは聞きなれないが、これが実においしかった。香りがほどよく、すっきりとした淡麗の辛口だった。
つまみは「チーズ」(300円)と「サラミ」(300円)。
これを肴にワインを飲んでいると、その若い店員は近づいてきて、他に客もいないことから、世間話が始まった。
彼の名前は「あっちゃん」。
釜石市出身の20代。3.11以降に一度帰郷し、ふるさとの窮乏を目の当たりにしたという。わたしも震災発生時に現地にとんだ話をしながら、あの日を境に変わった彼の故郷の話を聞いた。
彼の真摯な気持ちは心を打った。若いのにと言ってしまうととても失礼なのだが、その気持ちは故郷を思い、被害に遭われた人々を思っていた。そして、自分に何ができるのだろうかと問うていた。
気が付けば、ついついワインを3杯もおかわりし、話しこんでしまった。
彼はわたしの名前を聞くと、これからちゃんづけで呼んでいいですかと尋ねた。断る理由などない。
わたしも彼の名前を聞き、そして「あっちゃん」と呼ぶことにした。
そして翌週も「MITONE」に寄り、彼とのおしゃべりを楽しんだ。
だが、「MITONE」はそれから数ヵ月後、店をたたんだ。
正直なところ、その閉店の報には驚かなかった。何故ならば、立地が極めて悪かったからだ。浜松町と田町のちょうど真ん中。通勤のサラリーマンはこの店の前を通らない。ワインはこだわりのものをいくつも揃えていたが、クチコミで広がるには時間がなさすぎた。
「あっちゃん」から連絡が入り、店を閉めたことを聞いた。
だが、その後も「あっちゃん」とは連絡を取り合っている。
今は横浜で介護の仕事についている「あっちゃん」。
こないだ、飲みに行く誘いをもらったが、用事が入っており、断った。
でも、近々、彼に再会できるような気がする。
その時は、お互い笑って会いたいと思う。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます