A藤くんとH常で、酒を飲むことになったのだが、A藤君が社長につかまり、とりあえずボクとH常で待機することになった。
とりあえず、秋葉原に向かった我々は、昭和通りから左に折れ、「駒忠」に入ることにした。騒がしくない店で静かにA藤君を待ちたかったのだ。
昭和通りを東側に超えると、急にあたりは静かになる。
この界隈はもう秋葉原とはいえない。、秋葉原駅昭和通り口の目の前にある「幸楽苑」ももうあそこは既にアキバではないのだ。
いつも思うのだが、「駒忠」は必ず、地味な立地に店舗を構えている。
いつか、怪鳥と行った田原町の「駒忠」。もう、どうやって行くのか、さっぱり記憶にないほど、町外れにあった。上野広小路近くの「駒忠」も、中央通りをちょっと入ったところにあり、極めて分かりにくい。けれど、それ以上に、この神田和泉町の店舗は更に地味だ。クルマ1台やっと通れる狭い路地に店がある。
多分、地元の人からもあまり知られていないのではないだろうか。ボクもこの店を見つけたときにはおおいに驚いた。こんなところに、「駒忠」が!と思ったものである。
その「駒忠」にボクらは入った。
あぁ、いかにもという、古典的な居酒屋の造りだ。堅めの木材を使った重厚なテーブルが並び、格子のついたてがテーブルを仕切る。奥の壁は障子がはられ、まさに純和風である。アキバの外国人なら、かなり喜びそうだ。
客はまだ、まばらだった。
ボクらは、奥のテーブルに陣取り、生ビールをそれぞれ注文した。
すると、女将は、厨房に向かい、張りのある大きな声で、「はい、生ビール、ふたつ~」と言った。大きな声は意外だったが、その独特の抑揚にも驚いた。
黒板に、今日のおすすめが書かれている。
鮪の造りに「馬刺し」、「豚の角煮」などなど。
H常に、「刺身でもとるか」と聞くと、「いえ、焼き鳥が食べたいッス」と返ってきた。
平成生まれは、素っ気ない。
そこで、「焼き鳥 盛り合わせ」をオーダーした。
すると、女将はまた、大きな通る声で、「はい、焼き鳥盛り合わせ~」と独特のトーンで厨房に告げた。
この女将、容姿端麗で、居酒屋の女将にしておくのはもったいない容貌をしている。
そして、この独特の声。
「焼き鳥」はタレで。
8本の盛り合わせは、もも、ねぎ間、皮にカシラ。
丁寧な串さしで、フォルムがきれいな焼き鳥だった。
「1時間して、A藤君から連絡なかったら、帰ろうか」。
H常に、そう言うと、彼は頷いた。
「駒忠」は、ゲテモノ料理が有名である。
ダチョウ、カエルの唐揚など。
でも、見たところ、そんなゲテモノ料理は見当たらなかった。正統派の「駒忠」である。
ビール2杯、焼き鳥盛り合わせ、そして「鳥ぎょうざ」。
これで、3,000円超。
ちょっと高い。
結局、1時間待ったが、A藤君は現れず、ボクらは店を後にした。
帰り際、女将の独特の声が店に響いた。
「ありがとうございました」。
だから、地道に常連をつけてきた、現在の店舗が今も残っているのでは!
真相は分からないけど、今や「駒忠」は、貴重な店だね。