M田さんは、昨年9月にウチの会社を電撃的に退職した。
その後、何度かメールを交わすうち、彼女は現在家族の会社を手伝い、西ヶ原まで都電で通っていることが分かった。
「今度、王子で飲みましょう」などと約束していたが、なかなか実現できず、約束を果たすことが出来たのは2月の中旬にもなる頃だった。
わたしはわたしで、「立ち飲みのかまぼこ店に行こうよ」と言っていたが、さすがにT根夫妻が一緒ともなれば、そういうわけにはいかず、結局M田さんが知っているという「もつ鍋屋」に行くことになったのである。
JR王子駅の北口からロータリー方向を見渡すと、横断歩道を渡る向こう側にやや高いビルが見える。ビルの壁面には、各階にテナントする飲食店の名称が大きくプリントされていおり、「博多もつ鍋 さつま地鶏 黒田」という文字も。どうやら、M田さんが、知っているというお店はそこのようだ。
しかし、近年はこのように和食・和風な少しプレミアな隠れ家的酒場が増えてきた。食材や酒の種類にこだわり、大衆から一線を画す店構えの店舗である。大概はチェーン展開しており、どうやら「黒田」もその例に漏れない雰囲気を醸していた。
ビルの出入りは1階のエレベーターから。
7階に着くと入ったときとは逆の扉が開く。すると目の前はもう店のキャッシャーだ。
店は黒木を用いた純和風な造り。靴を下駄履きにしまい、我々は席に案内された。
案内された席は掘りごたつ風のテーブル席。隣のテーブルとはそれほど離れていないが、高価そうに見えるよしずによって隔てられ、それほど気にならない。
我々4人はまず生ビールを頼んだ。すぐさま出てきたそれは、キーンと冷えたサントリープレミアムモルツ(おぉ!サントリー初勝利だ)。
ジョッキではなく、やや大きめのグラスに注がれたビールは量を考えると、609円(税込み)の値段はやや高めである。
再会を祝して乾杯した。
久しぶりに会ったM田さんは、血色のよい顔色だった。なにせ、J動車公論社時代は一番朝早く来て、一番遅くまで仕事をしていた。一時は体調を悪くした、と聞いた。
だが、今はしっかり5時には帰れる、のだという。
とにかく、元気そうで何よりだった。
早速、我々は同店自慢の「もつ鍋」を頼むことにした。
メニューを見ると、「もつ鍋」の種類は全部で6種類が用意されていた。
味噌味の黒田 、醤油味の青田 、塩味の 白田、チゲの赤田(各2人前、税込1,260円)に薬膳の金田(税込2,310円)である。どれにしようか、悩んだがベーシック路線で「黒田」をチョイスすることにした。
さて、鍋が来る前に、ビールの肴を選んでみる。
再びメニューを広げて驚いた。
そのメニューの多さに、である。
ホルモンから炭火で焼いた串もの。それから、地鶏の刺身まで豊富なメニューが用意されている。また、熊本の鮮馬など肉類も鶏ばかりではない。串ものは一本158円から、自慢の肉料理も一皿500円から出してくれて、それほど高く感じることはない。むしろ、九州からの直送ものだけに、お値打ち価格ともいえる。
その多くの品がひしめき合う料理の中で、選んだ酒肴は「酢モツ」(575円)である。
この一品料理がなかなかオツだった。
モツはピンク色したきれいなもの。一見して素材がいいことがうかがわれる。
関東はボイルしたモツしかほとんど手に入らないが、西日本は生のモツが普通の肉屋で買うことができる。したがって、こうした瑞々しいモツをみると思わず唸ってしまうのである。
食べてみると、やはりコリコリとした歯触りが心地よく、酢の風味がさっぱりとしてうまい。
これは、絶対お薦め。
一方、しばらくすると「もつ鍋」の段取りが運ばれてきた。
やや浅めの鍋に整然ともつとにらなどが並べられている。
その鍋を卓上のIHに乗せる。そうこの店はガスコンロなどを使用しない。今をときめく電化式なのだ。
やがて、ぐつぐつと煮え、食べ頃になるのを見計らって、我々はそれぞれ箸を運んでみた。
確かに、おいしい。「もつ鍋」はスープが命だが、そのスープも実に濃厚で、おいしい。
だが、少し物足りないというのが本音だった。
まず、量も問題。モツそのものの少なさも際立ったが(一人あたり30gもないのでは)ニラの量は明らかに物足りなかった。
わたしは、何度か博多で「もつ鍋」を食べているが、ニラの量は鍋を覆うほど出てきた。東京の客を相手にしていることもあって、上品な形で提供しようとの配慮なのかもしれないが、添え物程度にしかニラが用意されない同店の鍋にはいささか失望した。
モツも肉薄である。わたしの妻の実家が下関に近いこともあり、「もつ鍋」は日常の食べ物だ。そのため、義弟はもつに関する造詣が深い。もつにも様々な部位があるようだが今目の前にあるもつはきれいな肉ではあるが、妻の実家で食べるもつに比べるといささか薄いような気がする。
「博多」を標榜するなら徹底的に博多式にこだわってほしかった。目の前にあるのは、上品に整えられた東京風「もつ鍋」である。
一方、「もつ鍋」に合う飲み物とは何だろう。恐らく焼酎と答える人が圧倒的に多いと思われる。飲み物のメニューをひっくり返すと、さすが!と思わせるほど焼酎が豊富に用意されていた。
芋を筆頭に麦、米、或いは、その他の原料の変わり種まで、その数はざっと50種類はくだらない。
さて、どれにしようか。
個人的には、「もつ鍋」に麦焼酎がベストマッチと考えている。だが、眼前の芋のラインナップを見ていると、やはり芋に触手が伸びる。隣のT根もそのようだ。
そのラインナップも錚々たる銘柄が揃っていた。だいたいショットで500円から。当然高いものになると1000円近いものもある。焼酎で、この値段はちと高い。
ボトルで頼もうと考え、メニューを覗くと、今度は一転ボトルの銘柄は僅か4~5本になってしまう。その選択肢はあまりにも狭く、仕方なく我々は、ショットで頼むことにした。わたしは「三岳」、T根はわたしのチョイスで「明るい農村」に。
だが、その後再び訪れた店員によって「三岳」の「品切れ」を告げられた。
くつろぐシチュエーションとして、同店は申し分なかった。
暗がりの店内。滞ることのない店員の行き来。料理や飲み物が運ばれる時間。うるさすぎず、静かすぎずの店内などなど。
我々は、その後、もつと野菜をそれぞれお代わりした。
そして、わたしの焼酎のお代わりも留まるところをしらなかった。
「黒伊佐錦」を皮切りに、「南雲・黒麹」(各500円)、そして「ひとり歩き」(550円)をそれぞれロックで飲み進めていった。
M田さんとM子さんは、カクテル類に手を染めている。本当に同店の酒の種類は群を抜いているのだ。この店は女性と飲みにいくときに利用するのがいいだろう。間違ってもおっさん同士で行くところではない。会計は4人で2万5,000円を軽く超えた。がぶがぶと焼酎を飲み、がっつりと「もつ鍋」をつつくと高いつけが回ってくる。
その後、何度かメールを交わすうち、彼女は現在家族の会社を手伝い、西ヶ原まで都電で通っていることが分かった。
「今度、王子で飲みましょう」などと約束していたが、なかなか実現できず、約束を果たすことが出来たのは2月の中旬にもなる頃だった。
わたしはわたしで、「立ち飲みのかまぼこ店に行こうよ」と言っていたが、さすがにT根夫妻が一緒ともなれば、そういうわけにはいかず、結局M田さんが知っているという「もつ鍋屋」に行くことになったのである。
JR王子駅の北口からロータリー方向を見渡すと、横断歩道を渡る向こう側にやや高いビルが見える。ビルの壁面には、各階にテナントする飲食店の名称が大きくプリントされていおり、「博多もつ鍋 さつま地鶏 黒田」という文字も。どうやら、M田さんが、知っているというお店はそこのようだ。
しかし、近年はこのように和食・和風な少しプレミアな隠れ家的酒場が増えてきた。食材や酒の種類にこだわり、大衆から一線を画す店構えの店舗である。大概はチェーン展開しており、どうやら「黒田」もその例に漏れない雰囲気を醸していた。
ビルの出入りは1階のエレベーターから。
7階に着くと入ったときとは逆の扉が開く。すると目の前はもう店のキャッシャーだ。
店は黒木を用いた純和風な造り。靴を下駄履きにしまい、我々は席に案内された。
案内された席は掘りごたつ風のテーブル席。隣のテーブルとはそれほど離れていないが、高価そうに見えるよしずによって隔てられ、それほど気にならない。
我々4人はまず生ビールを頼んだ。すぐさま出てきたそれは、キーンと冷えたサントリープレミアムモルツ(おぉ!サントリー初勝利だ)。
ジョッキではなく、やや大きめのグラスに注がれたビールは量を考えると、609円(税込み)の値段はやや高めである。
再会を祝して乾杯した。
久しぶりに会ったM田さんは、血色のよい顔色だった。なにせ、J動車公論社時代は一番朝早く来て、一番遅くまで仕事をしていた。一時は体調を悪くした、と聞いた。
だが、今はしっかり5時には帰れる、のだという。
とにかく、元気そうで何よりだった。
早速、我々は同店自慢の「もつ鍋」を頼むことにした。
メニューを見ると、「もつ鍋」の種類は全部で6種類が用意されていた。
味噌味の黒田 、醤油味の青田 、塩味の 白田、チゲの赤田(各2人前、税込1,260円)に薬膳の金田(税込2,310円)である。どれにしようか、悩んだがベーシック路線で「黒田」をチョイスすることにした。
さて、鍋が来る前に、ビールの肴を選んでみる。
再びメニューを広げて驚いた。
そのメニューの多さに、である。
ホルモンから炭火で焼いた串もの。それから、地鶏の刺身まで豊富なメニューが用意されている。また、熊本の鮮馬など肉類も鶏ばかりではない。串ものは一本158円から、自慢の肉料理も一皿500円から出してくれて、それほど高く感じることはない。むしろ、九州からの直送ものだけに、お値打ち価格ともいえる。
その多くの品がひしめき合う料理の中で、選んだ酒肴は「酢モツ」(575円)である。
この一品料理がなかなかオツだった。
モツはピンク色したきれいなもの。一見して素材がいいことがうかがわれる。
関東はボイルしたモツしかほとんど手に入らないが、西日本は生のモツが普通の肉屋で買うことができる。したがって、こうした瑞々しいモツをみると思わず唸ってしまうのである。
食べてみると、やはりコリコリとした歯触りが心地よく、酢の風味がさっぱりとしてうまい。
これは、絶対お薦め。
一方、しばらくすると「もつ鍋」の段取りが運ばれてきた。
やや浅めの鍋に整然ともつとにらなどが並べられている。
その鍋を卓上のIHに乗せる。そうこの店はガスコンロなどを使用しない。今をときめく電化式なのだ。
やがて、ぐつぐつと煮え、食べ頃になるのを見計らって、我々はそれぞれ箸を運んでみた。
確かに、おいしい。「もつ鍋」はスープが命だが、そのスープも実に濃厚で、おいしい。
だが、少し物足りないというのが本音だった。
まず、量も問題。モツそのものの少なさも際立ったが(一人あたり30gもないのでは)ニラの量は明らかに物足りなかった。
わたしは、何度か博多で「もつ鍋」を食べているが、ニラの量は鍋を覆うほど出てきた。東京の客を相手にしていることもあって、上品な形で提供しようとの配慮なのかもしれないが、添え物程度にしかニラが用意されない同店の鍋にはいささか失望した。
モツも肉薄である。わたしの妻の実家が下関に近いこともあり、「もつ鍋」は日常の食べ物だ。そのため、義弟はもつに関する造詣が深い。もつにも様々な部位があるようだが今目の前にあるもつはきれいな肉ではあるが、妻の実家で食べるもつに比べるといささか薄いような気がする。
「博多」を標榜するなら徹底的に博多式にこだわってほしかった。目の前にあるのは、上品に整えられた東京風「もつ鍋」である。
一方、「もつ鍋」に合う飲み物とは何だろう。恐らく焼酎と答える人が圧倒的に多いと思われる。飲み物のメニューをひっくり返すと、さすが!と思わせるほど焼酎が豊富に用意されていた。
芋を筆頭に麦、米、或いは、その他の原料の変わり種まで、その数はざっと50種類はくだらない。
さて、どれにしようか。
個人的には、「もつ鍋」に麦焼酎がベストマッチと考えている。だが、眼前の芋のラインナップを見ていると、やはり芋に触手が伸びる。隣のT根もそのようだ。
そのラインナップも錚々たる銘柄が揃っていた。だいたいショットで500円から。当然高いものになると1000円近いものもある。焼酎で、この値段はちと高い。
ボトルで頼もうと考え、メニューを覗くと、今度は一転ボトルの銘柄は僅か4~5本になってしまう。その選択肢はあまりにも狭く、仕方なく我々は、ショットで頼むことにした。わたしは「三岳」、T根はわたしのチョイスで「明るい農村」に。
だが、その後再び訪れた店員によって「三岳」の「品切れ」を告げられた。
くつろぐシチュエーションとして、同店は申し分なかった。
暗がりの店内。滞ることのない店員の行き来。料理や飲み物が運ばれる時間。うるさすぎず、静かすぎずの店内などなど。
我々は、その後、もつと野菜をそれぞれお代わりした。
そして、わたしの焼酎のお代わりも留まるところをしらなかった。
「黒伊佐錦」を皮切りに、「南雲・黒麹」(各500円)、そして「ひとり歩き」(550円)をそれぞれロックで飲み進めていった。
M田さんとM子さんは、カクテル類に手を染めている。本当に同店の酒の種類は群を抜いているのだ。この店は女性と飲みにいくときに利用するのがいいだろう。間違ってもおっさん同士で行くところではない。会計は4人で2万5,000円を軽く超えた。がぶがぶと焼酎を飲み、がっつりと「もつ鍋」をつつくと高いつけが回ってくる。
東京ではまともに食べた事が無いのですが、
やっぱり本場のようにはお値段的にもいかないんでしょうかね~。
一度、人気の「蟻月」なんかにも行ってみたいですが、
その場合、お財布が心配で(汗)。
15年ほど前の熱狂的なものではありませんが。
博多の味噌は麦ベースでしょうか。
その点、この店の味噌も博多とどうようのものを使用していたと思いますが、やはり豪快さに欠けていたような気がします。
きれいに見せようとする見栄えの点などで、あえて「東京風」と評してみました。
「もつ鍋」にはやはり麦の焼酎だと思うのですが。まき子さんは、やはり日本酒でしょうか。