就業規則や個別の雇用契約書に記載された内容以外に「労使慣行」が労働条件を構成することがある。
例えば、「夏季賞与は基本給1か月分、冬季賞与は基本給2か月分を支給する」といった取り扱いが、労使どちらからも異議が唱えられることなく長期間反復継続して行われ、双方の規範意識(特に会社側において相応の権限を有する者が規範意識を持っていたこと)によって支えられていたならば、民法第92条(※)に言う「慣習」(「事実たる慣習」と呼ばれる)が成立していたと見られ、民事上の拘束力を持つことになる(参考判例:最一判H7.3.9、大阪高判H5.6.25等)。
もちろん、それが強制法規や公序良俗に反しないことが大前提であることは言うまでもない。
※)民法第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
さて、そのような労使慣行は、すでに労働契約の一部となっているのだから、会社が一方的に取り扱いを変更することは許されない。
労働条件を変更するには、原則として、労使間の合意が必要だ(労働契約法第8条)。 すなわち、労働組合との間で新たな労働協約を締結するか、個々の労働者から個別の同意書を出させる等の手続きを踏んだうえで、就業規則に変更後の労働条件を明記する必要がある。
ところが、会社にとって不都合な労使慣行を解消する場合は、それが労働者にとっては不利益になることが多く、そのため、新たな労働条件に同意してくれないケースも多いだろう。 その場合には、労働契約法第10条の定めにより就業規則を変更することとなるが、そのハードルは非常に高いと言える。
つまり、「会社にとって不都合な労使慣行の解消」は、「労働条件の不利益変更」に他ならないのだ。
解消できないものでも解消してはならないものでもないが、明文化されていないからと言って、安易に考えてはならない。 労働者に、会社の実情をきちんと伝え、労使慣行の解消(労働条件の変更)に同意してもらえるよう、真摯に話し合う必要があるだろう。
加えて言えば、労使慣行化するとそれを解消するのは難しくなるので、「就業規則の例外的運用」には、特に慎重を期したいものだ。
※この記事はお役に立ちましたでしょうか。
よろしかったら「人気ブログランキング」への投票をお願いいたします。
(クリックしていただくと、当ブログにポイントが入り、ランキングページが開きます。)
↓