春先から別誂えをお願いしていた「橘に扇散らし」柄の一つ紋付訪問着ですが、
約半年かけて仕立て上がり、先日公庄工房様から私の手元に届きました
こちらが発送時に公庄様からお送り頂いた、衣桁に掛けた状態でのお写真です。
自宅ではこうして完全に広げてみることが出来ないので、いつもこの写真が届く
のをとても楽しみにしています
今年に入ってから、オーダーメイドの着物は銘入りの桐箱に入れて納めることに
されたとのことで、前回の付下げも素敵な桐箱に入っていましたが、今回も蓋に
「橘・扇散らし」と銘を入れてくださって、桐箱に入って届きました
この真新しい鬱金色の風呂敷に包まれた畳紙を空ける瞬間が、一番ドキドキする
瞬間です。この状態で目に飛び込んでくるのは、自分が悩みに悩んで指定をした
綺麗な地色と、控えめに描かれた裾模様の後ろ身頃にあたる部分。
いつも新しい着物を最初に開けるのは出来る限り晴れた日の午前と決めていて、
明るい光の中でその地色や生地のツヤや金彩を確認して、思う存分堪能します
それから一度着物を広げ、仮畳みをして畳紙の上へ置いて、正面から見たときに
見える部分を確認します。着物は着てしまえば自分ではあまり見えませんので、
こうして人が見たときにどういう風に見えているか確認して、着物の出来栄えを
チェックしています
今回の着物は、いままでの着物よりも少し落ち着いた品のある仕上がりのもの。
着物で一番大切なのは地色、その次が柄を含めた第一印象だと思っているので、
いつもいつも地色にはとってもこだわっています
昨年秋から作り始めた一つ紋付の付下げシリーズは、正式なお茶会や娘の行事、
少し改まったお出かけなどに、訪問着では華やか過ぎて仰々しい場合に着ていく
ことを目的としていますので、柄はテーマを一つに絞ってあっさりめに。
着ていく場面も色々なパターンがあるので、前回作った花の丸の付下げのように
明るくて華やかな印象のものと、今回の付下げのように少し落ち着いた品のある
ものに分けて作る必要があります
そのどちらにも共通させているのが地色の綺麗さ。落ち着いた着物というと少し
地味な地色に振れてしまう場合が多いのですが、派手な地色でなければ、地色が
明るくて綺麗でも、図案や柄の配色で落ち着かせることはできると思うのです
そこで、今回の地色は「桜色」とでも表現できるような淡くて綺麗なピンク色を
選び、それだけだと少し甘すぎるので、裾が朱鷺色になるように裾濃にぼかしを
入れて頂きました
この地色は夫も大絶賛で、とても綺麗なのに派手目のピンクではないので、長く
着ることができる着物になりました
今回の柄のテーマは「吉祥紋の扇」。扇紋というと中には華やかな花模様を描く
ことが多いと思いますが、そこをあえて「宝尽し」という吉祥紋にしました。
初めは宝尽し柄を散らした付下げも考えたのですが、そうすると小さな宝尽しを
たくさん並べるか、大きめに描いた宝尽しを散らすか、幾何学的な形の中に描く
しかないので、それだと優雅さが足りないと思い、扇の中へ閉じ込めました。
さらにその扇紋に動きを出すために何か植物柄を背景に置きたかったのですが、
ここに何種類もの植物を組み合わせてしまうとうるさいですし、せっかくの格調
高さが損なわれてしまうので、同じく吉祥柄で時期のない橘を選びました
そういった格調高い柄を、公庄様がどんな風に彩色してくださるのかと楽しみに
しながら、配色に関しては完全にお任せしていたのですが、柄と地色を最大限に
活かして格調高く品良くまとめてくださって、やはりこのセンスはさすがだな、
と感心せずにはいられませんでした
私の好みはもう少し明るく華やかな色使いで、橘の葉にも鶸色などを使うほうが
好きなのですが、公庄様もそれはわかっていたうえで、それでもこの柄にはこの
配色が一番品良くまとまって、長く気に入ってもらえる着物になるはずだと確信
して配色をされたのだそうです
実際、私も写真を見ている段階や、反物の状態で見たときには少し地味目かな
などと思っていたのですが、こうして着物として仕立て上がって羽織った瞬間、
公庄様が意図されたことが良く分かりました
生地自体に艶があって地模様もある程度浮き立つ反物で、地色は淡いピンク色。
これに明るく華やかな色合いや鶸色などを使うと、確かに可愛くはなりますが、
その可愛さが柄を殺してしまって、ある意味安っぽく見えてしまうのです
いまの私の年齢で紋付の付下げを作り、その目的が子供の行事等に使うことだと
いうことを考えると、この柄ならば、やはりある程度長く着られるものでないと
意味がありません
とはいえ地味ということは全くなく、綺麗な地色が引き立つような配色になって
いるので、パッと見て「わぁ、綺麗な着物ね~
」と言って頂けるようなものに
なっています。
夫も「これはこの綺麗な地色を楽しむための着物で、ここに反対色の黄緑色系が
入ったら全然合わないと思う」と言って、とても褒めてくれていました
最終的にやはり公庄様にお任せして正解でしたが、彩色の段階で私の好みと違う
ことを分かりながらの作業だったので、私が不安になったのではないかと心配を
してくださり、「次回からは彩色に入る前に、色使いなどをもっとご相談をして
進めていきましょう」とおっしゃってくださいました。
ご相談をしてもきっと私は最終的には公庄様がお勧めされる通りにしてしまうと
思いますが、気になるところをお伝えして、なぜそれがその配色のほうが良いか
ご説明頂くことで、納得して安心して仕上がりを待つことができます
また、場合によっては公庄様もどうするべきか迷われることもあると思うので、
そこで意見を交換することで、より素晴らしい着物になっていくと思います
こうして出来る限りこちらの要望を取り入れつつ、専門家としてのアドバイスを
交えながら、市販品にはない最高の着物作りをしていこうとお考えになるので、
私もいつも「次はどんな着物にしよう」と楽しみになってしまいます
まだまだ着用機会は先ですが、今回の着物も、お気に入りの一枚になりました
これで仕立てまでが終わりましたので、これまでの工程の記事をまとめました。
今後別誂えをお考えになる方のご参考になれば幸いです
◆図案編
◆修正図案編
◆生地選び編
◆地色見本編
◆下絵編
◆糊伏せ編
◆友禅編
◆友禅・金彩完了編