日本と中国との関係(特に近現代史において)で重要な舞台となった「満洲」。今では「中国東北部」と呼ばなければ不都合らしいのだが、かつて清国を起こした女真族からすれば「満洲」は「広州」とか「杭州」といった「○○州」のひとつではなく、民族名であり国名である「満珠」から来たものという。
それはさておき、政治、戦争、経済、文化、産業などさまざまな面からこの地域(「満洲国」という「国家」があったことも含めて)の歴史をまとめたのがこの『〈満洲〉の歴史』(小林英夫著 講談社現代新書)である。これまではその中のある面に焦点を置いた書籍を目にすることがあったのだが、これだけ幅広く触れた著書というのはなかなかないだろう。その中でも、人的・物的資源に恵まれない日本が軍事力にあかせて進出したものの、結局は広大な大地に根付いた中国の政治・文化の力に飲み込まれてしまったという流れが詳しく書かれている。
歴史に詳しい人なら「総花的」という感想を抱くだろうが、逆にこの地域の歴史をいくつかの段階に分け、その中でさまざまな観点から触れてみるというのは、焦点を一本に絞った専門書より難しいのではないだろうか。
中国東北部。経済発展が著しい中国にとっては資源豊かな地域であるし、ロシアにとっても極東経済戦略の上で重要なところ。モンゴルにも接している。北朝鮮でさえも、いつの話かわからないが開放経済政策を行うということになればまずこの地域相手ということになる。韓国の黄海をまたいだ経済活動もある。日本も「環日本海経済圏」を進める向きからは重要なスポットである。そういういろんな国と接する、地政学的にも重要な地域だけに、過去にさまざまな争いが繰り返されたという面もある。それだけに腰を据えてかからなければならないかな。
「日本経済が行き詰っているから満洲へ進出・・・」といえば明治以降の歴史を繰り返すようだが、アメリカ一辺倒ではなく、もっとアジアに目を向けた経済活動、文化交流というところにも、経済活性化の手がかりがあるように思えるのだが・・・・。