大阪からバスで6時間半といえば、どこまで行けるだろうか。
時刻表をさらっと見てみると、東海道であれば静岡までは十分に行けるし、中央道方面なら長野、四国なら松山、須崎、山陽なら広島はとっくに過ぎるというところである。
ただこれらはもちろん、高速道路を使用した「昼特急」とでもいうべきバス。リクライニングシート、車両によっては3列配置で、トイレも完備。長距離の格安移動手段として人気である。
ところが、この6時間半をかけて地道、しかも山の中のカーブのきつい隘路を、ローカルバスで行くとしたらどうだろうか。
・・・その格好の区間が、大和八木から十津川、熊野本宮を経て新宮に至る、高速道路を使わないという点で日本最長となる路線バスである。それが1日3往復、一応「特急」は名乗るが、166.9キロ、一部の停留所を除く167の停留所で客扱いをしながら走るローカルバスである。運行する奈良交通のHPではわざわざこの日本最長の路線バスのために専用ページを設けているほどである。
これまで五條から新宮まではクルマで走破したこともあるし、バス乗り継ぎでも一度走ったことがある。途中下車しながら観光地を見て回る、あるいは温泉に入るのもいいが、今回は、起点の大和八木から新宮まで、一気に乗ることにしよう。列車のほうの長距離鈍行ということであれば根室本線や飯田線、山陽本線に残るところであるが、それに近い趣は感じられるだろう。
ということで、近鉄南大阪線と橿原線を乗り継いで大和八木駅前に現れる。まだ朝の9時だが日差しが照りつけて暑く感じる。乗り場の案内には小さく「新宮」の文字が見えるが、この乗り場からはイオンモール橿原アルル行きや関西空港行きのリムジンバスが発車する。それらが来るたびにそこそこの乗客が吸い込まれていく。
それらをやりすごす中で、最近のバリアフリー対応とかコミュニティバスとは違った昔ながらの車両という感じのバスが入ってきた。これが新宮まで6時間半、奈良南部の山々に挑む車両である。
昔ながらの車両の側面にあるボード式の経路案内を見ると、知らなければ本当にどこに連れて行かれるのやらという不安がよぎるかもしれない。ただ扉が開くと「Pitapa」の文字、「ICカード ここにタッチしてください」とある。「これはひょっとして対応するのか」とまずはピッとタッチする。これが有効なら、5000円以上の現金の持ち出しがまずは抑えられるので旅の進め方としてはいいのかなということで。
車内はリクライニングこそしないものの先頭を除いて2列シートが並ぶ。運転席左側2列目の席に陣取る。先頭でもよかったのだが荷物がじゃまになるし、ここでも前方の展望はばっちり楽しめる。前の席の横に足を伸ばして過ごすことができるのもよい。
八木から乗り込んだのは8人。この中で新宮まで乗りとおそうかという人は何人いるだろうか。地元の人らしいのが2人、用務客ふうの男性が1人、旅行者らしい女性が1人、あとは「このバスに乗りに来た」という風情が私を入れて4人。その中でも最も大きな旅行バッグを抱えた私が一番浮いているかもしれない。
9時15分、8人の乗客を乗せたバスは出発。前方には液晶モニタ式の運賃表。次の橿原市役所前を皮切りに、途中の停留所の表示はすっ飛ばして「終点 新宮」の文字。主要な停留所までの所要時間があるが、新宮は6時間半後の到着。もう、どないなとしてくださいな・・・・。
まずは橿原市から高田市の近郊区間を走る。ごく普通の生活路線で、早速に途中の停留所で地元客が1人下車。この後、近鉄南大阪線の高田市駅の下をくぐる。高田市・・・今朝通って来ましたがな。時間の効率ということを考えれば、この時点で無駄をやっている(ドライに考えれば、もっと遅くに自宅を出発しても間に合ったということ)。
続く御所でも客を拾うが、それでも最大で12人。国道24号線に入り五條を目指す中で下車する人もおり、この辺りでは生活路線としての役割も果たしている。
八木から1時間あまり経過して五條バスターミナルに到着。ここで10分の停車となり、隣接するイオンのトイレで用を足す。いよいよここから奈良南部、西吉野の山々に分け入っていくのである。いよいよここからが本番と言ってもいいだろう。
ここで下車した人もおり、車内は8人。八木からの乗客は私を含め6人に減っていた。別にサバイバルレースをやっているわけではないのだが、果たしてこの中で全区間走破者が何人いるのかは気になるところである・・・・。