九頭竜川の河口に面した福井・三国港。古くから北前船の海運で栄え、明治にはエッセル(あの「だまし絵」で有名なエッシャーの父)の設計により河口の整備が行われた港町である。現在も往年の町並みが残り、福井からのえちぜん鉄道の終着駅もある。
そんな三国の町並みを見下ろす高台にある三国運動公園野球場。10日、私にとって今季初めてのプロ野球独立リーグ・BCリーグの観戦である。この日の対戦カードは福井ミラクルエレファンツ対富山サンダーバーズ。
福井球団といえば、昨年秋のドラフトでBCリーグ初の「本指名」となる選手を出した。我らがオリックス・バファローズに入団した前田祐二投手。私の地元である藤井寺出身というのも親しみを持てる。故障もあり残念ながら二軍スタートとなったが、いずれ一軍のマウンドでその雄姿を見せてほしいものである。
そのオリックスの岡田監督に「いい投手がおるで」と言わしめたのが、現役時代からの師弟関係にある、元阪神のコーチでもあった福井の野田監督。昨年まで福井のコーチであったが今年からは監督に昇格し、これまで最下位の続いた球団を立て直す。一方の富山も鈴木康友前監督が西武のコーチとして復帰したため、横田投手コーチが監督に昇格。いずれも新監督だが相手の手の内はよく知り尽くしている。
さて三国運動公園。スタンドは小ぶりだがその分選手の姿も近く見える。この日はチームカラーの黄色と紺の帽子やらシャツを身に着けたファンでネット裏から一塁側スタンドは結構座席が埋まる。外野スタンドの奥に沿って桜が植わっており、ちょうど満開。野球場で花見・・・・野球ファンとしては「球春」をモロに感じさせる。ドーム球場はもちろん、現在NPBで使用しているメジャーな球場でもこういう風景は見られないぞ。こういう外の風景も合わせて楽しめるのがローカル球場ならではである。
また、外野フェンスの広告も「越前かに 東尋坊 やまに水産」とか、芦原温泉の旅館など、地元色が見られる。
試合前には地元中学校のブラスバンド部がスタンドで演奏を披露したり、少年野球の子供たちが選手をエスコートしてグラウンドを行進して風船を飛ばしたりのイベントも行われた。
さて試合。福井の先発はエースで元ロッテの藤井。ただ立ち上がり不安定な投球を見せる。
先頭の下島に四球を与え、バントと内野ゴロの間に三塁まで進ませると、4番・恭史には足への死球。
続く町田(打撃がいいので注目しています)がレフト前にはじき返して富山1点先制。
ところがこの日の福井打線は初回から好調。富山の先発・木谷に対し、2番・山本、3番・坂元(この日誕生日と紹介されていた)が連打。4番・小西も四球を選んで一死満塁。次の内田は浅い外野フライに倒れたが、続く北田が一・二塁間を抜く2点タイムリーで逆転。さらに織田のセンター前タイムリーで1点追加。3対1としてスタンドも大いに沸く。
福井打線の勢いは止まらず、続く2回は1番・西川、2番・山本の連打と盗塁で一死1・3塁のチャンスをつくると、坂元のピッチャーゴロを木谷が2塁へ送球するも間に合わず野選となり、4対1。この後、小西タイムリー、代わった富山2番手・田中から北田が2点タイムリー、織田の2点二塁打。
この回打者10人、6安打1四球で6点のビッグイニングとなり、9対1。早くも試合の流れは決まった。
こうなるとスタンドの応援も俄然盛り上がる。応援も年々しっかりしてきて、今年になり初めて各選手ごとのトランペット応援歌を聞いたが、西武ライオンズ系の曲も見られる。応援団にファンがいるのだろうか。
福井の藤井は常にランナーを背負う苦しい投球であったが、ここぞというところでは力強いストレートで三振を奪うなど、5回まで投げて失点は初回の1点のみ。大量リードということもあり、勝ち投手の権利を得たところでマウンドを2番手の川村に譲る。
川村が戦意喪失した感じの富山打線を封じ込めると、打線も6回、富山3番手の串田から坂元のタイムリー、内田の犠牲フライで2点追加。8回には坂元の代打・錦織のタイムリーが出て合計16安打12点。
こういう展開に福井のファンは大喜びでスタンドも盛り上がる。子どもたちも楽しんでいるようで「お父さん、エレファンツヒット何本打った?」「うーん、多すぎてわからんわ(この球場のスコアボードには安打数が表示されない)」「12点取られたら、富山の監督もブチ切れてるかな?」「そやろうな。機嫌悪いやろな」結構余裕の会話も出る。
最終回は富山が最後の粘りを見せる。先頭の「富山のゴリ」という成瀬がファウルで粘り、カウント2-3まで持ち込む。ここで「アンパイア!」と急に場内アナウンス。何かトラブルでも起こったか。
球審がアナウンス室のほうに向かい、その後4審判がグラウンドに集まる。ただ選手たちには動揺した様子もなく、「何があったの?」という感じ。
この後説明があり、スコアラーがカウントをつけ間違えて「四球ではないのか?」と審判に確認を求めたという。審判が勘違いすることはごくたまにあるが、スコアラーが球審を呼び出すとは私も聞いたことがない。結局2-3で試合再開となるが、成瀬は次のボールであえなく一塁ファールフライ。
この後、優士に安打が出てここで福井は川村から森元に交代。二死となるが代打・松橋が四球で1・2塁。次の七條が一塁に打ち上げここで試合終了・・・と思いきや、途中出場の山岸がまさかの落球で満塁。続く山内が押し出しの四球。「最後締まらんの!」というヤジも飛ぶ。
最後は一塁へのファールフライ。今度は山岸がきっちりとつかみ試合終了。やれやれとなったが結局12対2で福井の圧勝。私も各地の試合を見る中で、福井球団の勝利は初めてということになった。桜満開、打線満開である。
試合のMVPには初回の逆転打を含む4打点の北田が選ばれた。インタビュー後にはサインボールをスタンドに投げ入れ、取った人には福井米がプレゼントされるということで争奪戦。見事少年野球の男の子がキャッチ。こういうのはチームのみんなで分けるのかな??
試合後にはグラウンドの外で選手によるお見送り。チームによって形はそれぞれだがBCリーグの定番である。私もMVPの北田、誕生日の坂元(ファンからたくさんプレゼントの差し入れをもらってましたぞ)などからサインをもらう。これも観戦旅行のいい記念である。
夕暮れの中、宿泊地となる福井駅前まで20キロほどの道のりを移動。この日はクルマだったこともあり試合中のビールは控えていたのだが(こういう時、キリンのフリーはありがたい)、今夜の酒はおいしいものになりそう・・・・。
今季も「地域主義」をモットーに展開するBCリーグ、またどこかの球場への観戦旅行を楽しみたいものである。