こちら米国では、新年は1日だけ、見事に1日ぽっきりで終了する。
そやし、2日から、すべてがいつも通りに、まるで新年なんか無かったかのように、当たり前の顔して始まる。
これに慣れるのにだいぶかかった。
新年の三ヶ日を43回も過ごしてきたんやから、そらしゃあない。
旦那は今でも、日本人やねんから、3日しっかり休みたいんちゃうかと心配してくれる。
けど、そやからって、3日間意地になって休んでても、周りが全然ゆっくりしてへんから、休んだ気がせえへんからあきらめた。
そやし、今年も2日からレッスン開始。
で、やってきたアレハンドロとレオナルド兄弟。
いつもは玄関から入ってくるなり、学校のことやなんかをおしゃべりしてくれるにぎやかな子たちやのに、なんか様子がおかしい。
ん?
すると、おかあさんが、アレハンドロの手を引っ張ってピアノの所にやってきた。
「まうみ、実はこの子、今日はレッスンに行きたくないって言ってて……」
「どうしたん?お腹とか痛いん?」
「いや、そうじゃなくて、練習がちゃんとできてなくて、それでまた、まうみが怒るからって」
「え……そんな、まだ怒るかどうかもわからんうちに……でへへ」
あらら?ちょっと様子がおかしい……笑てる場合とちゃうかも……。
「アレハンドロ、もしかしてあんた、発表会前にこっぴどく怒られたのが残ってて、マジで恐がってる?」
こくん。
「え?そうなん?恐かったんや」
こくんこくん。
「ほんで、傷がついてしもて、まだ痛いんや」
こくんこくんこくん。
あっちゃ~……。
実はこの兄弟、親御さんから、少々叱ったぐらいでは応えへんので、あかん時はガツンといったってくださいと、何回も要請があった。
なので、わたしにも油断があったんかもしれん。
ほんで、言い過ぎたんかもしれん。
実際に、この子は何回か泣いたもんなあ。
「そっか、アレハンドロ、かんにんな。ほんまにごめん。謝るわ。ほんで、これからは、態度とか言葉とかにも気をつける」
みるみるうちに、どんぐり目玉に涙があふれてきた。
そんな彼の頭をぐりぐりしながら、わたしも泣けてきた。
「ほな、わたしがどこまで気をつけられるか、いっぺん試してみる?」
こくん。
いやもう、またまた大反省。
いったいいくつになったら、わたしはええ先生になれるんやろか。
もうかれこれ、40年近くも教えてるというのに。
いや、教えてもろてるというのに。
さてこの子、アレックスは、ちょっとうまいこといかんかったら、キレて投げ出すことにかけては天才級やった。

まだちっちゃいけど、世の中は、うまいこといかんことだらけで、やってもやってもなかなかできひんことだらけで、
泣きとうなったり、投げ出しとうなったり、ガオ~ッと叫びとうなることが多いけど、
ほんで、泣いてもええし、投げ出してもええし、ガオ~ッ言うてもええけど、
泣いたら涙ふいて、投げ出したもんは拾いにいって、ガオ~言うてびっくりさせたら謝って、また挑戦するんやでと、何回も何回も話した。
そしたら、なんか急に、しんぼうができる子になった。
3年かかったけど、うれしかった。
彼女とお兄ちゃんのジョウイを連れてきてくれるのは、フランスから1年間だけこちらにやってきた超~べっぴんのアナ。
女優かモデルか、いやそれ以上か……つい惹き込まれてしまう。
こりゃ、おとうさん、大丈夫か、などと、余計な心配までしてしまう。
そのアナを、これまた超~ハンサムな弟が、2週間だけ訪ねてきたそうで、彼も一緒にやって来た。
アレックスとジョウイがレッスンを受けてる間、うちのチェスボードを引っ張り出してきて真剣勝負。
レッスンが終わり、また来週ね~とか言うてると、いきなり弟が近づいてきた。
げげっ!
「あの、ボクに1曲弾いてくれませんか」
男前と若者に弱いおばちゃん、二つ返事でホイホイとピアノに向かい、小指が痛いのも忘れてショパンを弾いた。
途中で、これって全部弾いてもええんやろかと、チラッと彼の方を伺うたら、なんと、直立不動で目を閉じて聴き入ってくれてるではないかっ!
あかんあかん、こりゃ本気で弾かなあかん。
「あの、ボクは言葉がわからないけど、あなたの言葉が聞こえてきました。ありがとう」
アナが、彼のフランス語を訳してくれた。
音楽ってほんま、ええなあ。
そやし、2日から、すべてがいつも通りに、まるで新年なんか無かったかのように、当たり前の顔して始まる。
これに慣れるのにだいぶかかった。
新年の三ヶ日を43回も過ごしてきたんやから、そらしゃあない。
旦那は今でも、日本人やねんから、3日しっかり休みたいんちゃうかと心配してくれる。
けど、そやからって、3日間意地になって休んでても、周りが全然ゆっくりしてへんから、休んだ気がせえへんからあきらめた。
そやし、今年も2日からレッスン開始。
で、やってきたアレハンドロとレオナルド兄弟。
いつもは玄関から入ってくるなり、学校のことやなんかをおしゃべりしてくれるにぎやかな子たちやのに、なんか様子がおかしい。
ん?
すると、おかあさんが、アレハンドロの手を引っ張ってピアノの所にやってきた。
「まうみ、実はこの子、今日はレッスンに行きたくないって言ってて……」
「どうしたん?お腹とか痛いん?」
「いや、そうじゃなくて、練習がちゃんとできてなくて、それでまた、まうみが怒るからって」
「え……そんな、まだ怒るかどうかもわからんうちに……でへへ」
あらら?ちょっと様子がおかしい……笑てる場合とちゃうかも……。
「アレハンドロ、もしかしてあんた、発表会前にこっぴどく怒られたのが残ってて、マジで恐がってる?」
こくん。
「え?そうなん?恐かったんや」
こくんこくん。
「ほんで、傷がついてしもて、まだ痛いんや」
こくんこくんこくん。
あっちゃ~……。
実はこの兄弟、親御さんから、少々叱ったぐらいでは応えへんので、あかん時はガツンといったってくださいと、何回も要請があった。
なので、わたしにも油断があったんかもしれん。
ほんで、言い過ぎたんかもしれん。
実際に、この子は何回か泣いたもんなあ。
「そっか、アレハンドロ、かんにんな。ほんまにごめん。謝るわ。ほんで、これからは、態度とか言葉とかにも気をつける」
みるみるうちに、どんぐり目玉に涙があふれてきた。
そんな彼の頭をぐりぐりしながら、わたしも泣けてきた。
「ほな、わたしがどこまで気をつけられるか、いっぺん試してみる?」
こくん。
いやもう、またまた大反省。
いったいいくつになったら、わたしはええ先生になれるんやろか。
もうかれこれ、40年近くも教えてるというのに。
いや、教えてもろてるというのに。
さてこの子、アレックスは、ちょっとうまいこといかんかったら、キレて投げ出すことにかけては天才級やった。

まだちっちゃいけど、世の中は、うまいこといかんことだらけで、やってもやってもなかなかできひんことだらけで、
泣きとうなったり、投げ出しとうなったり、ガオ~ッと叫びとうなることが多いけど、
ほんで、泣いてもええし、投げ出してもええし、ガオ~ッ言うてもええけど、
泣いたら涙ふいて、投げ出したもんは拾いにいって、ガオ~言うてびっくりさせたら謝って、また挑戦するんやでと、何回も何回も話した。
そしたら、なんか急に、しんぼうができる子になった。
3年かかったけど、うれしかった。
彼女とお兄ちゃんのジョウイを連れてきてくれるのは、フランスから1年間だけこちらにやってきた超~べっぴんのアナ。
女優かモデルか、いやそれ以上か……つい惹き込まれてしまう。
こりゃ、おとうさん、大丈夫か、などと、余計な心配までしてしまう。
そのアナを、これまた超~ハンサムな弟が、2週間だけ訪ねてきたそうで、彼も一緒にやって来た。
アレックスとジョウイがレッスンを受けてる間、うちのチェスボードを引っ張り出してきて真剣勝負。
レッスンが終わり、また来週ね~とか言うてると、いきなり弟が近づいてきた。
げげっ!
「あの、ボクに1曲弾いてくれませんか」
男前と若者に弱いおばちゃん、二つ返事でホイホイとピアノに向かい、小指が痛いのも忘れてショパンを弾いた。
途中で、これって全部弾いてもええんやろかと、チラッと彼の方を伺うたら、なんと、直立不動で目を閉じて聴き入ってくれてるではないかっ!
あかんあかん、こりゃ本気で弾かなあかん。
「あの、ボクは言葉がわからないけど、あなたの言葉が聞こえてきました。ありがとう」
アナが、彼のフランス語を訳してくれた。
音楽ってほんま、ええなあ。