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ミルダ・ドリューケ『海の漂泊民族 バジャウ』

2009-02-11 15:11:40 | ノンジャンル
 シネセゾン渋谷で3月13日まで「シェルブールの雨傘」と「ロシュフォールの恋人たち」のデジタルリマスター版の同時ロードショーが行なわれています。ジャック・ドゥミ命の私としては、喝采を叫びたい企画です。しかも、レイトショ-ながら2月11日から13日までは何と、ルグランの音楽が印象的な、夢のような映画「天使の入江」も上映されます! この企画にはフランス大使館文化部、ユニフランス東京(山田宏一さんが学生時代、トリュフォー来日時に通訳で働いていたところと記憶しています)そして東京日仏学院(大学時代、よく映画を無料で見させていただきました)が協力、フランス政府観光局が特別協力しています。フランス挙げての企画がドゥミとは、なんて素晴らしいことでしょう! この企画について詳しくお知りになりたい方は、http://www.demy.jp/ をご覧ください。写真が多数アップされていて、「シェルブールの雨傘」の仏和対訳シナリオ本が紹介されているなど、楽しめる上に有益な情報に出会うこと請け合いです。

 さて、高野秀行さんの推薦する、ミルダ・ドリューケさんの'03年に日本で出版された作品「海の漂泊民族 バジャウ」を読みました。恋人と4年かけてヨットで世界一周し、海に魅せられた著者が、生まれてから死ぬまで船の上で過ごす民族バジャウと生活を共にした記録です。
 ノンフィクションというジャンルに入る本ですが、文体はほぼエッセイであり、時にそれは詩にまで高められます。おそらく島々に囲まれているためだと思うのですが、時として鏡のように波一つない海が現出したりする、見事な自然描写は夢幻的で、巻頭の写真(著者は本業が写真家です)も素晴らしいものです。哲学的な記述も多く、「おしゃべりのほうが大きな音だということほど自然なことはこの世にないと思った。」(それほど、自然というのは本来静かなものだということ)「(海面の景色を見ていると)この光景は人間が最初に見たもの、最古のものかもしれない。」といった文は大変示唆的です。そしてバジャウ族の生活については「いろいろなことを望んでいますけど、暮らし方を変えることだけはしません。彼らは働く気がないときは働きません。(中略)彼らは時間のことも理解していませんし、お金のことも、物を所有するということもわかっていません。わたしたちに感謝する気持ちもないのです。」と述べています。つまり、物は全て共有し、海から得られないものは物物交換で手に入れ、そして、マングローブの林に突っ込んで嵐をやり過ごし、悪魔が住んでいるという理由で陸では夜を過ごさず、常に自由であることが語られています。著者はバジャウに会うまで大変苦労し、最後にやっと一人で海を漂流する老人に出会い、二人で夢の中のような生活をします。それは読んでいてとても快く、すばらしい読書体験を味わえるのですが、この本の唯一の難点は異常に長いということで、読んでも読んでも終わりなく、読み終わるのに1週間かかってしまいました。
 ということで、夢幻的な世界にのんびり浸るには最適な本です。オススメです。