高野秀行さんの'11年作品『イスラム飲酒紀行』を読みました。イスラム圏における飲酒事情を描いたルポです。
イスラムにおける酒とは、日本における「未成年の飲酒」のようなもので、公には原則的にダメで、もし飲むとしたら、自分の家の中で人に見られないようにやらなければならないのだそうです。ところが、パキスタンのイスラマバードでは、路上でたまたま出会った大学生に、普通の人の半分くらいは酒を飲んでいると言われ、医者の診断書を持って「許可所」と呼ばれる数少ない売り場に行くと酒が買えることが分かります。アフガニスタンのカブールでは、中国人の経営する「置き屋」で酒が供されていました。チュニジアは西側諸国と親密な関係を保っているため、酒にも寛容で、オアシスのヤシの森の中で夜に地元のエリートたちによって繰り広げられていた酒盛りに参加でき、法律で完璧に飲酒が禁止されているイランでも、タクシー運転手から酒が入手でき、やがて瞑想や踊り、音楽などを通して陶酔し、神と一体になるのを究極の目標とするイスラム神秘主義「スーフィー」の人々が特に飲酒にふけっていることを知ります。また、イランでは「建前」と「本音」を使い分け、飲酒がその最たるもので、酒はかなり普通に飲まれていることも分かり、著者らは地元で有名な酒の肴を食べながらビールやウオッカを楽しむことにも成功します。マレーシアでは、最初は中華料理屋でしか酒が飲めませんでしたが、やがてポルトガルの子孫が経営する店で、地元の人たちとともに様々な酒を楽しむことができます。トルコのイスタンブールでは、モスクのすぐ隣に酒を供する隠れ家的な高級レストランを発見し、新宿のゴールデン街のような飲み屋街まであることが分かります。シリアでは、南部のドルーズ派が作る美味いワインを求めますが、なかなか入手できず、現地の靴屋でやっと入手でき、地元で消費されるだけの幻の銘酒であったことを知ります。ソマリランドでは、エチオピアから密輸されていたジンを飲むことができ、バングラデシュではリキシャの男に案内され、暗闇バーに潜入し、ミャンマーとの国境近くの少数民族の村では、4月の水掛祭りのときだけは、3日間どこでも酒が飲めることを知るのでした。
この本で初めて知ったのは、イスラムでは公共の場所で男性が女性に大変気を配るということで、例えばイエメンでは乗り合いバスが混んでくると、目的地でなくても男子は車を降りて、女性のために場所を空け、ドバイでも、エレベータに女性が乗ってくると、それまで乗っていた男性が全員降りなければならないということ、イエメンとソマリランドでは、覚醒と酩酊を同時に起こす「カート」という植物性嗜好品が広く用いられていること、ソマリランドは国土がオランダより広く、人口も3百万人くらいいて、内戦も終結して平和を達成し、複数政党制にも移行し、普通選挙による大統領選出にも成功、治安のよさでも民主主義の発達度にしても、アフリカ諸国の標準を超えていると言われる一方で、国連の承認はなく、日本でもほとんど紹介されていない「未確認国家」であることなどでした。読みやすい文体で、高野さんの今までの本と同じく、楽しく一気に読破してしまいました。気さくで、融通がきき、冗談が好きで、信義に篤い、そんなイスラムの人たちの生の姿に触れることができる素晴らしい本だと思います。是非直接手に取って、読まれることをお勧めします。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
イスラムにおける酒とは、日本における「未成年の飲酒」のようなもので、公には原則的にダメで、もし飲むとしたら、自分の家の中で人に見られないようにやらなければならないのだそうです。ところが、パキスタンのイスラマバードでは、路上でたまたま出会った大学生に、普通の人の半分くらいは酒を飲んでいると言われ、医者の診断書を持って「許可所」と呼ばれる数少ない売り場に行くと酒が買えることが分かります。アフガニスタンのカブールでは、中国人の経営する「置き屋」で酒が供されていました。チュニジアは西側諸国と親密な関係を保っているため、酒にも寛容で、オアシスのヤシの森の中で夜に地元のエリートたちによって繰り広げられていた酒盛りに参加でき、法律で完璧に飲酒が禁止されているイランでも、タクシー運転手から酒が入手でき、やがて瞑想や踊り、音楽などを通して陶酔し、神と一体になるのを究極の目標とするイスラム神秘主義「スーフィー」の人々が特に飲酒にふけっていることを知ります。また、イランでは「建前」と「本音」を使い分け、飲酒がその最たるもので、酒はかなり普通に飲まれていることも分かり、著者らは地元で有名な酒の肴を食べながらビールやウオッカを楽しむことにも成功します。マレーシアでは、最初は中華料理屋でしか酒が飲めませんでしたが、やがてポルトガルの子孫が経営する店で、地元の人たちとともに様々な酒を楽しむことができます。トルコのイスタンブールでは、モスクのすぐ隣に酒を供する隠れ家的な高級レストランを発見し、新宿のゴールデン街のような飲み屋街まであることが分かります。シリアでは、南部のドルーズ派が作る美味いワインを求めますが、なかなか入手できず、現地の靴屋でやっと入手でき、地元で消費されるだけの幻の銘酒であったことを知ります。ソマリランドでは、エチオピアから密輸されていたジンを飲むことができ、バングラデシュではリキシャの男に案内され、暗闇バーに潜入し、ミャンマーとの国境近くの少数民族の村では、4月の水掛祭りのときだけは、3日間どこでも酒が飲めることを知るのでした。
この本で初めて知ったのは、イスラムでは公共の場所で男性が女性に大変気を配るということで、例えばイエメンでは乗り合いバスが混んでくると、目的地でなくても男子は車を降りて、女性のために場所を空け、ドバイでも、エレベータに女性が乗ってくると、それまで乗っていた男性が全員降りなければならないということ、イエメンとソマリランドでは、覚醒と酩酊を同時に起こす「カート」という植物性嗜好品が広く用いられていること、ソマリランドは国土がオランダより広く、人口も3百万人くらいいて、内戦も終結して平和を達成し、複数政党制にも移行し、普通選挙による大統領選出にも成功、治安のよさでも民主主義の発達度にしても、アフリカ諸国の標準を超えていると言われる一方で、国連の承認はなく、日本でもほとんど紹介されていない「未確認国家」であることなどでした。読みやすい文体で、高野さんの今までの本と同じく、楽しく一気に読破してしまいました。気さくで、融通がきき、冗談が好きで、信義に篤い、そんなイスラムの人たちの生の姿に触れることができる素晴らしい本だと思います。是非直接手に取って、読まれることをお勧めします。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)