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斎藤美奈子さんのコラム・その40&前川喜平さんのコラム・その2

2019-06-07 06:30:00 | ノンジャンル
 恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されるようになった前川喜平さんのコラム。

 まず5月29日に掲載された「炭鉱ガール」と題された斎藤さんのコラム。その全文を転載させていただくと、
「逆風の中にある石炭火力だけれども、現在も電力の三分の一は石炭でまかなわれている。
 資源エネルギー庁が発表した2019年1月の供給電力、その資源別内訳は、LNG(液化天然ガス)45%、石炭32%、石油3%、水力6%、原子力8%である(小数点以下四捨五入)。原発事故前(10年度)は石炭25%、原子力29%だから、石炭の需要はむしろ上がっているわけだ。
 国内で消費されている石炭の99%以上は輸入炭である。しかし1960年代初頭まで、石炭は日本の基幹産業だった。最盛期には一千鉱以上が稼働していたのだ。
 熊谷博子監督のドキュメンタリー映画『作兵衛さんと日本を掘る』が東京で公開中だ。山本作兵衛(1892~1984年)は六十歳すぎから福岡県の筑豊炭田で働く人々を描きはじめた炭鉱画家で、一連の作品は2011年、ユネスコ世界記憶遺産に登録された。その絵と日記を中心に、『負の遺産』だった炭鉱に光を当てた監督は自称『炭鉱ガール』。映画には、九州の炭鉱で働いていた本物の元炭鉱ガール(橋上カヤノさん・当時百三歳)も登場する。
 石炭に替わるクリーンなエネルギーとして、炭鉱の閉山とともに推進された原発。しかし、国策に翻弄(ほんろう)された炭鉱の労働者を忘れたとはいわせない。石炭を介した過去と現在を映画で体感してほしい。」

 また、6月5日に掲載された、「遠因と近因」と題された斎藤美奈子さんのコラム。
「凶悪な事件がニュースになるたびに思い出すのは1986年の『連続射殺魔事件』である。
 堀川惠子『永山則夫 封印された鑑定記録』(講談社文庫)は、百時間に及ぶ、精神科医・石川義博氏の精神鑑定の記録(石川鑑定)から事件の真相に迫った衝撃的なノンフィクションで、犯行の原因を貧困とする従来の説を大きく覆す内容となった。
 鑑定は主として彼の成育歴にかかわる。永山則夫は八人きょうだいの七番目として北海道で生まれ、青森県で小中学校時代をすごすが、父は放蕩の末に家出、母も幼い子どもたちを置いて出奔、姉は精神を病み、兄は弟を虐待。心に深い傷を負った永山は上京後、極端な人間不信と被害妄想で職場からの逃亡と自殺未遂を繰り返した。
 どんな事件にも遠因と近因がある。永山事件は家族関係に起因する心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抜きに語れない。川崎の殺傷事件と元農水事務次官の事件に共通する環境的要因として「中高年の引きこもり」が取りざたされている。表層的にはその通りでも事件後まもない現在の段階で判断するのは性急すぎないだろうか。
 それでもすぐできるのは近因を取り除く、すなわち絶望が加害に転じる瞬間のトリガーを引かせないことである。言葉は凶器にもなる。「一人で死ね」はやっぱりダメだろう。」

 そして、6月2日に掲載された、「緊急閣僚会議という見せ物」と題された前川さんのコラム。
「川崎・登戸で起きた小学生ら二十人殺傷事件。悲しい思いがこみ上げる。だが政権は、このような事件も自らの支持拡大に利用する。人々の憤りに訴え、悲しみに取り入る行動をとるのだ。
 「緊急閣僚会議」の開催はその典型的な手法だ。事件翌日の5月29日、安倍晋三首相は緊急閣僚会議を開き、『強い憤りを覚える』『安全を何としても守らなければならない』『政府一丸となって早急に取り組む』などと発言。テレビも新聞も大きく報道した。こうした緊急閣僚会議は、悲惨な事件が起きるたびに催される恒例行事のようになっている。
 2016年の津久井やまゆり園事件後の閣僚会議では、安倍首相が『断じて許せない』『内閣一丸となって対応する』と発言。2018年の結愛(ゆあ)ちゃん事件後の閣僚会議では『こんな痛ましい出来事を繰り返してはならない』『命を守ることを何よりも第一に、すべての行政機関があらゆる手段を尽くす』と語った。
 その十カ月後、心愛(みあ)ちゃん事件が発覚するとまた閣僚会議を開き『虐待の根絶に向けて総力を挙げる』『あらゆる手段を講じて子どもたちを守る』と述べた。
 かっこいい台詞はすべて官僚の作文。首相はそれを読んでいるだけだ。心にもない芝居。国民に『やってる感』を植え付ける見せ物。それが緊急閣僚会議なのである。」

 斎藤さんの最初の文章を読んで、映画『作兵衛さんと日本を掘る』を観たくなり、2番目の文章では「絶望が加害に転じる瞬間のトリガーを引かせ」ることとして『一人で死ね』発言の危険性を学び、前川さんの文章からは安倍首相のスタンドプレーを無抜く目を教えていただきました。これからもお二人のコラムを読むのを楽しみにしています。