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『手塚マンガでエコロジー入門』(マンガ+エッセイ 手塚治虫)その2

2020-05-27 06:02:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。

「モンモン山が泣いてるよ」(1979年『少年ジャンプ』一月号)の主人公の小学四年生の少年シゲルは、手塚治虫の少年時代を彷彿とさせます。キャラクターが手塚そのものですし、作品末のエッセイでも、“いじめられっこ”だったと自ら述べています。子どもの頃、毎晩お母さんが色々なお話をしてくれ、家の裏にあった林が風に吹かれて大きな音を立てていると、お母さんが「あれは山がモーンモーンと泣いているんだよ」と寝かしつけてくれたことが「モンモン山」のネーミングにつながります。つまり、この作品は、戦時下の少年時代の追憶と、お母さんから聞いたと思われる紋紋山の神社にまつわる白蛇伝説とを発想源にして、戦争に伴う自然破壊と、戦後の宅地造成のために山野が切り崩されていくことの不当性を、「山が泣いている」という自然からの悲痛な声として次世代に伝えているのです。
 1969年に40歳を迎えた手塚は、それまでの半生を描いた自伝的なエッセイ集『ぼくはマンガ家』を毎日新聞社から刊行します。これをきっかけにしたように、翌年には「がちゃぽい一代記」、71年には昆虫採集で通った裏山で脱走兵に遭遇する「ゼフィルス」、73年には戦時下の餓鬼大将との交流を描いた「ゴッドファーザーの息子」、74年には大阪大空襲体験を描いた「紙の砦」を発表するなど、半自伝的な作品をぽつぽつと執筆しはじめます。この作品もそれらにつながる少年体験に重ねて、人の命を奪い自然環境を破壊する戦争の暴力性と、開発による自然破壊を印象的に物語化しています。

「ブラック・ジャック 老人と木」(『週刊少年チャンピオン』1976年5月31日号)。(中略)
 手塚治虫は、大阪大学附属医学専門部を卒業した後、附属病院でインターンを勤め、その間「アトム大使」とそれに続く「鉄腕アトム」を月刊誌『少年』に毎号連載しながら、1952年7月、医師の国家試験に合格しています。つまり、「ブラック・ジャック」は、医師の免許を持っている著者が描いた、無免許にもかかわらず天才的な外科手術の腕を持ち、その驚異的なメスさばきで、つぎつぎと不可能を可能にしていく、それまでになかった異色の医学マンガなのです。無免許で高額な治療費を取るので日本医師連盟から告発されて投獄されたこともある、黒いマントにつつまれた全身傷だらけのブラック・ジャックが誕生するいきさつは、この本に収めたマンガ「友よいずこ」で明かされています。その悲しい過去のため、人一倍生命の尊さを知る人物を主人公にしたこのシリーズは、「いのち」をテーマにしているだけにエコロジーに関わる作品がたくさん描かれています。
 この「老人と木」は、関東大震災で家族をみんな亡くした時、いのちを救ってくれた「ケヤキ太郎」と名付けた大木が、排気ガスや大気汚染で枯れかかり、それが伐採されるのを命がけで阻止しようという老人の物語です。樹齢100年を超えると思われる古木と心を通わせる老人の姿は、作品末のエッセイ「地球は死にかかっている」というメッセージに重なる、現代人への警告のようにも読み取れます。(中略)

 「ブラック・ジャック 友よいずこ」(『週刊少年チャンピオン』1975年11月24日号)は、瀕死のクロオ少年(後のブラック・ジャック)に、移植するための皮膚を提供してくれた混血児タカシくんのその後を探し求める話です。転々と居場所を変えているタカシから、ブラック・ジャック宛に手紙が来て、「きみは医者になって人間を治しているんだね」「ぼくが治そうというのは━━地球だよ」と記されていて、地球環境を守るための自然保護運動グループと共に世界中を駆け巡っていることがわかります。そして、アフリカに原子力基地を造る計画に強く反対し、その抗議行動のさなかに暗殺されてしまうのです。環境問題は、経済はもちろん、政治とも深くかかわっていることを、手塚は鋭く示唆しています。
 アメリカのスリーマイル島で原発事故が起きるのは1979年3月。それがきっかけになってアメリカでの反原発運動が盛んになり、日本でも原発の危険性が周知されるようになります。作中の、アフリカに建設予定の原子力基地がどのようなものかはわかりませんが、スリーマイル島事故の四年近く前に、自然保護団体のメンバーが原子力基地に反対して暗殺されるという設定は、世界的に原発推進で暴利をむさぼる原発マフィアの存在を予知しているかのようで不気味です。そして、核こそが、地球環境破壊の最大の敵であることを暗示しているようです。「地球は生きてるんだ……その地球を治す医師が必要なんだ……さようなら」というタカシの手紙の最後の一行が、読者への強烈なメッセージとなって伝わってきます。

(また明日へ続きます……)

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