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鈴木清順監督『峠を渡る若い風』その2

2021-03-31 05:36:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。

 楽屋。押しかけた客たちに明美、ガウンを取って「ほーら、見せてやらあ」。
 恵、美佐子に「お姉ちゃん、どうしたの?」母「早く支度しなさい」「昼間の学生さん、店出してんの」「何売ってるの?」「それがねえ、女の私の口からは言えないショッキングな物なのよ」。
 女性の下着を売る信太郎。
 青木「いい度胸だ。あっしでも恥ずかしい」。男(金子信雄)、信太郎に「頼みがある」「いいですよ。お客さんが初めてですから」「お見受けしたところ、あんたトーシローのようだから。せっかくのショバはもったいねえ。俺に一声つけさせてくれ。俺がやって見せるから、そっちで見ててくれ。それで売れたら、お慰みだ」。口上を述べる男。青木「ありゃ、プロだぜ」。
 宿屋。「ケンさん、お近づきのしるしに一杯どうです?」信太郎に代わって口上を述べた男・ケン「せっかくですが用が。今日のところはこれで失礼します」「そうかい。残念だなあ。(信太郎に)あんさん、そういう訳でな。さっそくだが、この人の分け前はいくらだ?」「仕入れ値がいくらだってことだよ」「ああ、いくらかなあ。給料の代わりをもらったんでね」「じゃあ水ためで手を打たせてもらう」「水ためって?」「つまり4分、6分で分ける」「なるほど。いいですよ」「千場一家のお兄さん方、どうも御厄介でございました」。
「がっちりしているぜ」「あまり見かけない野郎ですね」「しかし相当年季が入ってる」信太郎「皆さんと同じ商売ですか?」「ねえ、兄さん。あれは“お手ぶら”って言ってなあ。旅先で無一文になったヤーさんがよ、他人の商売に口上つけて、その売り上げの一部をもらっていくのよ」「手ぶらで商売してるから、お手ぶらって言う訳か。面白いなあ」「あの貫禄で無一文てのは訳ありだぜ」。
 一座を訪ねる信太郎。「昼間、トラックにただ乗りさせてもらったんすよ。それで車代、払おうと思って」「気に入ったねえ。学生さん。近頃の若者としては義理をわけまえてら」。
 奇術の練習をして失敗する芸人。
 座長「おい、ヘラクレス。給料だ。明美は?」「秋田さんとドライブだって出て行きましたよ」「あした舞台があるって知ってんのに夜ふかしばっかりしやがって。(中略)
「明美のこと、知らなかったの?」「だから最初からここは気に入らなかったんだ。第一あの秋田って野郎、嫌な顔してやがるからな」「だけど明美ちゃんも明美ちゃんだよ。ちょっと金のありそうな男っていうと、すぐ色目を使いやがる」ヘラクレス「変なことを言うな。いつ明美ちゃんが色目を使った? さあ言え」。信太郎「すげえバカ力だなあ」ヘラクレス「バカと言ったな。野郎、勝負しろ」「そんななあ、学生さんは何も悪気があって言った訳じゃない」「いや、ダメだ。勘弁ならねえ」「いいでしょう。勝負しましょう」「よし、表へ出ろ」「ここでいいですよ。それにどんな勝負にするか僕が決めますよ。決闘だって申し込まれた方が武器を選べるんですからね」「柔道でも相撲でも空手でも何でも来い」「まるでダメだな。僕は何も知らないんでね。だからこれ」「何だって?」「指相撲ですよ」「何? ふざけるな。この野郎」「ちょっと待った。勝負は僕が決めていいんですよ。それでも指相撲だと勝ち目がないと?」。
 秋田、明美に「メリーさんよ、さっきの話はオーケーなんだろうな」「いいわよ。その代わりギャラの方も忘れないでね」「任しとけ」「社長、こんな夜遅くどうなさったんですか?」「ビジネス! おい、サブ。今から若い者を10人ほど、かき集めろ」
 秋田「いやに賑やかだな」「ああ、これはどうも」「ところでな。あの明美のことなんだが、今夜色々と話を聞いてみると、あんたたちと一緒にいるのは体にこたえるらしい」「冗談じゃない。明美ちゃんは…」「てめえに言ってんじゃねえ。それでな、しばらく一か所に落ち着いて暮らしたいって、こう言うんだ」「つまり一座を抜けたいって言うんだな」「ホントか、明美」「ええ、まあね」「そんならなんでもっと早く言ってくれなかったんだよ。急に抜けられたら興行にさしつかえるってわかってんだろ?」「まっとにかくな、決まった」。(中略)秋田興行の専属契約を結び、もっと売り出す。喜んで送ってやるのが当たり前だ」座長「秋田さん。冗談もほどほどに」「こんな無茶な引き抜きがあるってのかよ」秋田「おい、野郎ども。変な気を起こさねえ方が身のためって言ったろう」信太郎「でも契約書があるんじゃないですか?」座長「いえ、ないです。わしらのような昔の男はどんな紙切れより人間同士の約束を大切にしなきゃ、生きていかれない」信太郎「じゃ、仕方ないな」「仕方がないですって?」「そうさ。拘束するものがないんなら、個人の意思は尊重しなきゃ」。(中略)

(また明日へ続きます……)