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チャールズ・チャップリン『チャップリン自伝 栄光と波瀾の日々』その2

2019-06-06 07:39:00 | ノンジャンル
 今日は1968年に42歳で凶弾に倒れた、ロバート・F・ケネディの52回忌にあたる日です。彼が人生を全うしていたら、その後のアメリカはまったく違う歴史を歩んでいたでしょう。この場を借りて、改めて彼のご冥福をお祈り申しあげるとともに、自由と平和な世界を目指すことで他国をリードしていった、アメリカの再生を希望したいと思います。

 さて、昨日の続きです。

 ところで、チャップリンは、映画作りにおいて、納得のいくショットが得られるまで、何度も取り直した完璧主義者として知られている。(中略)
 実は、彼は自伝の執筆の際も、同じ作業を行なった。チャップリン家の資料庫には、『チャップリン自伝』に使われなかった草稿が多く保管されているので、自伝執筆時の彼の構想の移り変わりをある程度たどることができる。なかでも、序文として使うつもりだった文章は興味深い。その「幻の序文」は、次の文章から始まる。
「最良の自伝においてさえ、書き手がどれだけ自身と読者に率直で正直でありたいと思ったとしても、それは要約に過ぎず、自身に良いものを与えたいという欲望に導かれて簡略されるのだ」
 この部分は、(中略)冷戦時代に赤狩りの狂気の標的とされ、さんざん悪評を捏造されてバッシングを受けた傷がまだ癒えていなかったことがわかる。(中略)
 しかし、チャップリンは、この怒りと絶望に満ちた序文を破棄して、かわりに世紀の変わり目の輝くばかりに美しいロンドンの描写から始めることにした。そして、反共ジャーナリズムから受けた傷なんかよりも、もっと本質的な傷━━すなわち、最愛の母を助けてあげられなかった根源的な後悔を序文に持ってきた。(中略)
 チャップリンが怒りの序文をやめて、愛する人への果たせなかった想いから始めたのは、やはり正しい、チャップリンらしい判断だったと思う。(中略)しかし、彼の生とは、痛みや怒りではなく、それを乗り越える大きな愛と笑いを世界中に与え続けた88年だったからだ。
 それゆえに、本書のラストシーン━━映画の青春時代を共にしたエドナ・パーヴィアンスへの追憶と妻ウーナへの「完璧な愛とは、あらゆるフラストレーションのなかで、もっとも美しいものだ。なぜなら、それを表現するのは不可能だから」という限りない感謝の念、「世界はわたしに与えうる最上のものを与えてくれ、最悪のものはほとんどもたらさなかった」と人生を肯定しつつ、雄大な山並みとレマン湖の情景に浸る様子は、それがどれだけの苦闘と葛藤を乗り越えた末の境地だったかと思うと、なおのこと深い感動に包まれる。あの、著名人たちとの交友の無邪気な自慢話さえ、私には愛おしく思えてくる。(中略)「父は私たちに人生とは素晴らしいものだということだけを教えてくれました」と次女のジョゼフィンは言う。娘の記憶のなかの、父の口癖は、「人は優しいものなんだよ。だって、風でお前の帽子が飛んでしまったら、後ろの誰かが拾ってくれるだろ?」だった。その人生を思うと、なんと力強く美しい言葉であろうか。

 チャップリンは最後に、『フリーク』という作品を作ろうとしていた。(中略)そのラストで、羽の生えた少女は本当の自由を求めて飛び上がるも力尽きて海に落ちてしまう。チャップリンは、「人間の魂は翼を与えられ」ていたという『独裁者』のラストの演説の通り、最後まで羽ばたくことを夢見ていたのだ。本書も、人生を締めくくろうとしている人の文章とはとうてい思えない。今を生きるクリエーターの葛藤や矛盾と夢に満ちている。(後略)

 以上が「解説」からの転載でした。それ以外に本文の中から興味深い内容をいくつか挙げておくと、
・「おそらくわたしのキャリアのなかで、もっとも楽しかった時期は、ミューチュアル社の仕事をしていたときではないかと思う。」

・「それでも、これほどの莫大な富が転げ込んでくるという見込みも、わたしのライフスタイルを変えることはほとんどなかった。」

・「『牧神の午後』のバレエで、ニジンスキーに匹敵する者は未だに現われていない。」

・「崇高さは、どんな芸術でもめったに達成できるものではない。だがパヴロワはそれを達成した稀有な芸術家だ。」

・「(前略)エレオノラ・デュースがロサンゼルスに来たときには、その齢とキャリアの終わりに差し掛かっていたという事実さえ、その天才的な演技の才を曇らすことはなかった。」

・「映画における時間の節約は、今もって基本的美徳である。」

・「ビバリーヒルズに戻って、『影と実体』の仕事にふたたびとりかかっていたとき、ある提案を携えてオーソン・ウェルズが我が家を訪れてきた。」

 以上、全篇670ページを超える大著でした。

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