牧口雄二監督の'77年作品『毒婦お伝と首斬り浅』をスカパーの東映チャンネルで見ました。明治初期を舞台にした『俺たちに明日はない』といったストーリーで、無法者のグループのヒロインを東てる美、公安の刑事を汐地章が演ずるという、ちょっとした「珍品」でした。
さて、高野秀行さんの'12年作品『未来国家ブータン』を読みました。
著者は、野性の植物や菌類といった「生物資源」から新しい医薬品や食品などを作るための研究開発を行っているバイオベンチャーを設立した二村さんから、ブータンの農業省の国立生物多様性センターと正式に提携して、今度共同で本格的にプロジェクトを始めるので、それに先立って、ブータン政府もよく把握していない少数民族の村に行って、彼らの伝統知識や現地の状況を調べ、今後フィールドワークに適した場所を決めてほしいと頼まれます。逡巡する著者に二村さんは、国立生物多様性センターの主任が「ブータンには雪男がいるんですよ」と言っていたと伝えると、これまで雪男の調査など行われてこなかったであろうブータンに、「未知」をひらすら追及する著者は行くことを決意します。
ブータンは今でも半鎖国体制にあり、開発より伝統を重視し、国民は国王と仏教を篤く尊んでいます。国民は日本の和服に似た民族衣装の着用を義務づけられ、外国からの旅行者や外国企業の投資を厳しく制限しています。著者は肝心の生物資源調査について具体的に何をするか全く考えずに、ブータンに着いてしまいますが、雪男白書作成に必要な事柄である「伝説や信仰について特に訊ねたい」「いろいろな職業の人に会いたい」「なるべく現地の人の家に民泊して現地の人と同じものを食べたい」といったことは、今回のプロジェクトの現地の責任者のシンゲイさんに用意してもらっていました。現地で雪男のことを言う「ミゲ」についての証言は、シンゲイさんのお父さんから得られますが、それを検証するために現地を訪れることはできません。旅の途中では、食料調達のために山菜採りが行われます。その後も、断片的なミゲに関する情報は得られますが、それらも伝説の域を出ません。やがて著者はチュレイという未確認生物の証言を得ますが、これも決定的証拠は皆無です。そしてブータン伝統医学研究所にブータン伝統薬用植物の本があることを知り、著者は無力感に捕らわれます。
ブータンでの生物多様性に関する教育は、国連が地球生き物会議(COP10)を開く前から徹底されていて、その先進性には瞠目すべきものがありました。人口が70万人ほどしかいないため、雑誌をめくっていると知り合いが必ず見つけられます。'04年からは全土が禁煙となり、たばこの売買自体も非合法化されていますが、実際にはインドから密輸されたタバコが公然と喫われています。ブータンで有名な国民総幸福量(GNH)は、四つの柱「持続可能かつ公正な社会経済的発展」「環境の保全と持続的な利用」「文化の保護と促進(再生)」「良い統治」からなっていて、これはそうせざるをえない状況があって生まれた考え方でした。しかし実際には屠畜関係の非差別民は存在し、毒人間と呼ばれる非差別民も存在します。ブータンの役人は奢ったところがなく、外国人にも対等に接し、純真な目をしている人ばかりです。実際には多民族国家ですが、実際に自分の足で全国を歩いて公正さを徹底させ質素な生活を送る国王の人徳は広く行き渡り、自国への帰属意識はとても厚い国です。そして英語教育、経済と分離した環境政策、行政の丁寧なインフォームド・コンセント的指導、伝統と近代化の統一、こうしたことがことごとく日本より進んでいると著者は感じ、近代化がすべての国に及ぼす典型的な堕落から逃れているブータンの姿に著者は魅了されていきます。
高野さんのいつもの本と同じく、民泊することによる庶民との触れ合いが豊富に行われ、それがブータンという国の魅力をより一層具体的なものとして伝えてくれていたように思います。ブータン国王の来日より数年前に行われた、高野さんによるブータンの辺境調査のノンフィクションです。ブータンに興味のある方は必読の書でしょう。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
さて、高野秀行さんの'12年作品『未来国家ブータン』を読みました。
著者は、野性の植物や菌類といった「生物資源」から新しい医薬品や食品などを作るための研究開発を行っているバイオベンチャーを設立した二村さんから、ブータンの農業省の国立生物多様性センターと正式に提携して、今度共同で本格的にプロジェクトを始めるので、それに先立って、ブータン政府もよく把握していない少数民族の村に行って、彼らの伝統知識や現地の状況を調べ、今後フィールドワークに適した場所を決めてほしいと頼まれます。逡巡する著者に二村さんは、国立生物多様性センターの主任が「ブータンには雪男がいるんですよ」と言っていたと伝えると、これまで雪男の調査など行われてこなかったであろうブータンに、「未知」をひらすら追及する著者は行くことを決意します。
ブータンは今でも半鎖国体制にあり、開発より伝統を重視し、国民は国王と仏教を篤く尊んでいます。国民は日本の和服に似た民族衣装の着用を義務づけられ、外国からの旅行者や外国企業の投資を厳しく制限しています。著者は肝心の生物資源調査について具体的に何をするか全く考えずに、ブータンに着いてしまいますが、雪男白書作成に必要な事柄である「伝説や信仰について特に訊ねたい」「いろいろな職業の人に会いたい」「なるべく現地の人の家に民泊して現地の人と同じものを食べたい」といったことは、今回のプロジェクトの現地の責任者のシンゲイさんに用意してもらっていました。現地で雪男のことを言う「ミゲ」についての証言は、シンゲイさんのお父さんから得られますが、それを検証するために現地を訪れることはできません。旅の途中では、食料調達のために山菜採りが行われます。その後も、断片的なミゲに関する情報は得られますが、それらも伝説の域を出ません。やがて著者はチュレイという未確認生物の証言を得ますが、これも決定的証拠は皆無です。そしてブータン伝統医学研究所にブータン伝統薬用植物の本があることを知り、著者は無力感に捕らわれます。
ブータンでの生物多様性に関する教育は、国連が地球生き物会議(COP10)を開く前から徹底されていて、その先進性には瞠目すべきものがありました。人口が70万人ほどしかいないため、雑誌をめくっていると知り合いが必ず見つけられます。'04年からは全土が禁煙となり、たばこの売買自体も非合法化されていますが、実際にはインドから密輸されたタバコが公然と喫われています。ブータンで有名な国民総幸福量(GNH)は、四つの柱「持続可能かつ公正な社会経済的発展」「環境の保全と持続的な利用」「文化の保護と促進(再生)」「良い統治」からなっていて、これはそうせざるをえない状況があって生まれた考え方でした。しかし実際には屠畜関係の非差別民は存在し、毒人間と呼ばれる非差別民も存在します。ブータンの役人は奢ったところがなく、外国人にも対等に接し、純真な目をしている人ばかりです。実際には多民族国家ですが、実際に自分の足で全国を歩いて公正さを徹底させ質素な生活を送る国王の人徳は広く行き渡り、自国への帰属意識はとても厚い国です。そして英語教育、経済と分離した環境政策、行政の丁寧なインフォームド・コンセント的指導、伝統と近代化の統一、こうしたことがことごとく日本より進んでいると著者は感じ、近代化がすべての国に及ぼす典型的な堕落から逃れているブータンの姿に著者は魅了されていきます。
高野さんのいつもの本と同じく、民泊することによる庶民との触れ合いが豊富に行われ、それがブータンという国の魅力をより一層具体的なものとして伝えてくれていたように思います。ブータン国王の来日より数年前に行われた、高野さんによるブータンの辺境調査のノンフィクションです。ブータンに興味のある方は必読の書でしょう。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
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