トム・ジョーンズ『拳闘士の休息』

　朝日新聞で紹介されていた、トム・ジョーンズの'93年の短編集「拳闘士の休息」を読みました。
　「拳闘士の休息」は、ボクサーである俺が海兵隊に入り、ベトナムで激しい戦闘を体験した後、酔って強豪の相手とボクシングの試合をして脳に障害を受け、症状のひどさから危険な脳外科手術を受けるまでの話。
　「ブレーク・オン・スルー」は、人を殺すことを何とも思わない男が俺たちの海兵隊の部隊に所属して、一瞬正気に戻るが、地元に戻って結局殺人を犯して自殺してしまうという話。
　「黒い光」は、ボクシングの試合でダメージを受け幻覚と癲癇の発作に悩まされるようになった俺が入れられた悪夢のような軍の精神病院の話。
　「ワイプアウト」は、１人の女性と長続きしない俺が、初めて心から好きになった女性に妊娠していると告げられて、意思に反して「出て行け」と言ってしまう話。
　「蚊」は、心の冷えきった妻と暮らしている俺の小心な兄に見切りをつけ、俺が彼らの家を出て行く話。
　「アンチェイン・マイ・ハート」は、北海油田で潜水夫として働く恋人を持つあたしのニューヨークでの出版社における仕事の話。
　「“七月六日現在、当方自らの債務以外、一切責任を負いません。”」は、精神病院で首を吊った父と、最低の男だったが結局和解した義父と、俺を愛してくれた祖母とボクシングについての話。
　「シルエット」は、最低の女性と結婚してしまい、同僚の用務員たちから励まされる青年の話。
　「わたしは生きたい！」は、抗ガン剤と末期ガンの壮絶な苦しみを味わい死んでいった女性の話。
　「白い馬」は、インドで大金を払って弱っている馬を助け、ホテルの部屋に帰って自分が誰だか思い出したアメリカ人の話。
　「ロケット・マン」は、前夜に死闘を演じ世界チャンピオンになったボクサーが、元世界チャンピオンで酒で体を壊しているコーチをアル中病院に運び、そこで次の試合の指南を受ける話です。
　ベトナム戦争、精神病院、ガン患者の末期の悲惨さの描写は、これ以上ないほどの迫真力あふれるもので圧倒されました。これらの題材に興味のある方には文句無しにオススメです。