雨になった。気温が高いので、野や畑では植物が伸びはじめていることであろう。葬儀が終わって肩の荷をおろしたが、ふといなくなった人へ思いを寄せる。ちょっと寂しい気がしてくる。不思議なものだ。
春雨の夜すがら物を思はする 漱石
物を思うとは、人を恋うることである。漱石はいかにも、謹厳実直というイメージだが、こんな句も詠んでいて、つやっぽさにまんざら縁がなかったわけではない。本当かどうか定かではないが、漱石がイギリス留学から帰って、妻鏡子が体調を崩して入院した。病室の入り口に病名を記した札が貼ってあった。「房事過多」つまり、妻との夜の生活が激し過ぎた。漱石は英語は堪能であったが、ドイツ語は解さなかったらしい。鏡子夫人の回想によると、この時の入院は肋膜炎であったと書かれている。