低山を歩いている。天気予報は連日雪マークがついているが、こんな青空と新雪を見ることもある。その場所まで足をはこばなければ、こんな光景を目にすることはできない。昨夜の雪が30㌢ほど、陽があたると、キラキラと光って見える。歩きながら、故郷の冬を頭に描く。北海道の冬は、朱鞠内の積雪のたよりから始まる。写真で見る雪景色は同じように見えても、雪を踏むと雪質が分かる。今日の高戸屋山は朝方、ややパウダー。昼頃か足を踏み入れるとギシギシと音が出て水分が多くなる。厳寒の朱鞠内の雪は、少しの風でも飛んでいく軽さだ。
弟子屈生まれの詩人、更科源蔵の『北海道の旅』に朱鞠内の冬の積雪について記載がある。
「この地帯は寒さだけでなく積雪も、羊蹄山麓に次ぐ豪雪地帯で、函館本線深川駅から、雨竜川沿いに名寄に通ずる深名線は、毎年北海道国鉄除雪費の半分以上も食ってしまうという貪欲な線だある。」
既に廃線となったこの線路は、鉄道マニアの間で、かっての遺構を訪ねる旅がブームを起こしていることでも知られる。
山を歩きながら、仲間との話で生い立ちが話題になることがある。多少の雪に臆せず登っているのは、この雪国に生れたせいなのかも知れない。座右に置いて表紙もぼろぼろになった文庫本『北海道の旅』のページに一枚の切り抜きが出てきた。更科源蔵の訃報記事である。日付を見ると、昭和60・9・25とある。享年81歳、詩人にしてアイヌ文化研究家の更科源蔵がその日札幌の厚生病院で永眠した。その詩の一片
北奥羽の山はまだ雪に蔽れて
うねってこの奥地に進む汽車の中には
美しい昔乍らの素朴な言葉が
あのまだ奥のへ私を連れ込まふといふのだ(更科源蔵)