雪景色のなかに春の表情。暦の上では立春である。陽ざしはすでに強く、暖かい。しかし、風向きが変わると、北風が冬の冷たさを運んでくる。「春は名のみの風の寒さや。」あの唱歌、早春譜が思い出される。節分、立春と聞いただけで、人は春を待ち遠しく思う。雪にはあやしいまでの美しさがある。南の雪のない国の人々は、日本の雪の景色をもとめて訪れる。彼らの目には、この雪景色はどんな風に映るのだろうか。
九州に生れ、愛知県豊橋で育った詩人、丸山薫は戦中に雪深い山形県岩根沢に疎開し、3年近くここの代用教員として生活した。そこで創った詩は、『北を夢む』という詩集になった。雪国育ったものの目と、暖かい土地で暮らしている人の目に映る雪はおのずと違いがある。
途上 丸山薫
日が暮れかかる
雪からはまたも光が浮き上ってくる
薄明に似たあの妖しい光りが
光は瞳に沁みる
私には雪が見えなくなる
あたりの風景も見えなくなる
茫としてただ真珠色の輝きのなかを歩いていく
私はどこを歩いているのだろう
私はもう雪の上にいない
一路 北へ指す私の人生を歩いてゆくのだ
人生の途上で
私は二つ三つ寒い咳をする