今日、仲秋の名月。山の端に、月の出を待った。あたりが暗くなった7時過ぎ、見事な月が出た。妻を呼んで、しばし名月に見入った。夜風がすでに冷たく秋の風だ。カメラをだして写真に収めたが、ここに紹介するような写真は撮ることができなかった。月を愛でるのは、古くから日本人の好むところであった。『和漢朗詠集』の名月に、いくつかの詩文が見える。
十二廻の中に 此夕の好きに勝りたるは無し
千万里の外に 皆わが家の光を争う 紀長谷雄
現代語訳は、「一年、十二ヶ月のうち、この8月15夜のすばらしさにまさるよい夕はありません。千万里の遠くまでも、どこででもわが家でみる月のひかりがいちばん美しいのだと誇るのです。」紀長谷雄のこんな記述が、納得できる今宵のすばらしい月であった。月をみながら、故郷の父母、友人に思いを馳せるのは李白の詩が人口に膾炙したことによるもであった。
頭を挙げて山月を望み
頭を低て故郷を思う
ここでは、井伏鱒二の訳詩をかかげて置く。
ネヤノウチカラフト気ガツケバ
霜カトオモフイイ月アカリ
ノキバノ月ヲミルニツケ
ザイショノコトガ気ニカカル