風薫る5月、待っていた雨がようやく降ってきた。定植したばかりの野菜だけが雨を欲しがるのではない。新緑が雨のなかで、微妙な変化を見せる。黄色を帯びた山の樹木の葉に少しだけ緑が加わる。パレットから一筆加えるようにかすかに緑が濃くなっていく。この微妙な変化は、そこへ足を運んではじめて知ることができる。そんななかで、黄葉した葉が入り混じっている。よく見れば竹の葉だ。竹はこの季節、根の方から筍が伸びてくる。竹の栄養は葉に蓄えることを止めて、筍の成長にまわされる。そのために葉は黄葉して根元に散り積もる。積もった葉にも豊富な養分が含まれていて、筍の成長を促す。
竹秋の風騒ぎしてあたたかき 清水甚吉
ふと、竹林の地面に目をやると、あちこちから筍が頭を出している。もうひと月以上も前からスーパーに筍が並んでいるが、今年はなぜかまだ食べていない。コロナ騒ぎで、筍の旬を味わうという、心のゆとりを失ったかも知れない。どの野菜でも言えることだが、取り立ての新鮮さが春の味覚の肝だ。なかでも、朝どりの筍の味は忘れられない。作家の檀一雄も言っている。 「何によらず、新鮮なものはおいしいが、タケノコとトウモロコシだけは、掘ッタ、食ッタ、モイダ、食ッタでなくては、たちまちガタガタ落ちの味になる。」檀の勧めるタケノコの竹林焼きなるものを一度試したいと思っていたが、ついこの年になるまで実現することはできなかった。せめて、旬の時期の地物の採りたてを味わってみたい。
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