99歳の詩人、柴田トヨさんの詩集が話題になっている。以前、書店に行った時は、入ってすぐの中央に山積みにされていたのに、先日はそこにはなかった。もう、書店から消えてしまったのだろうか、いやまだどこかに置いてあるはずだと探してみた。場所は違っていたけれど、話題の書籍のコーナーにしっかりと置かれてあった。これも縁だろうと思って買い求めた。
カミさんが値段を見て、「本当に買うの?」と聞く。わずか百ページの薄い本なのに千円近い。「ああ、1冊買ってあげれば、わずかでも印税が入る。それくらいしか協力できないんだから、情けないくらいだ」と言う。「そう考えもあるわね。台湾へ行った時も、ガイドが『写真を買ってやって。あの学生たちのアルバイト代になるから』と言ってたけど、買ってあげなかった。買ってあげた方がよかったかもしれないわね」とカミさんは言う。何に価値を認めるかだから、それは自分が決めればいい。
詩集『くじけないで』には42編の詩が詰まっている。1編は60文字から100文字くらい。あっと言う間に読めてしまうが、「朗読しながら何度も書き直して、完成させます。だから1作品に1週間以上の製作時間がかかります」とあった。毎週土曜日に訪ねてくる息子さんに見せることから始まって、最後にもう一度息子さんに完成したものを見せるのだろう。本当に詩人だなと思う。思いつきで書き始めたとしても、人に読み聞かせることで言葉や体裁を修正していくのだろう。
柴田トヨさんが一番好きという詩がどれか、すぐに思いついた。
「子どもと手をつないで あなたの帰りを 待った駅 大勢の人の中から あなたを見つけて 手を振った 三人で戻る小道に 金木犀の甘いかおり 何処かの家から流れる ラジオの歌 あの駅あの小道は 今でも元気で いるかしら」(思い出Ⅱ)
暖かな家庭の様子が見て取れる。晩御飯の支度を終えて、そろそろ帰る夫を子どもと共に迎えに行く。それだけでも仲のよい夫婦の姿が目に浮ぶし、3人で帰る道には金木犀が咲き、ラジオからは歌声が流れてきている。これほどの幸せがどこにあるだろう。柴田トヨさんはそれをはっきりと幸せだと言い切れる人だ。
私はどの詩もいいけれど、「九十歳を越えた今、一日一日が とてもいとおしい 頬をなでる風 友からの電話 訪れてくれる人たち それぞれが 私に 生きる力を 与えてくれる」(生きる力)とか、「九十を過ぎてから 詩を書くようになって 毎日が 生きがいなんです 体はやせ細って いるけれど 目は人の心を 見ぬけるし 耳は風の囁きが よく聞こえる 口はね とっても達者なの “しっかりしていますね” 皆さん ほめて下さいます それがうれしくて またがんばれるの私」(私Ⅰ)、あるいは「私ね死にたいって 思ったことが 何度もあったの でも詩を作り始めて 多くの人に励まされ 今はもう 泣き言は言わない 九十八歳でも 恋はするのよ 夢だったみるの 雲にだって乗りたいわ」(秘密)が好きだ。
3編とも90代であって活き活きとした様子が実にいいと思う。
カミさんが値段を見て、「本当に買うの?」と聞く。わずか百ページの薄い本なのに千円近い。「ああ、1冊買ってあげれば、わずかでも印税が入る。それくらいしか協力できないんだから、情けないくらいだ」と言う。「そう考えもあるわね。台湾へ行った時も、ガイドが『写真を買ってやって。あの学生たちのアルバイト代になるから』と言ってたけど、買ってあげなかった。買ってあげた方がよかったかもしれないわね」とカミさんは言う。何に価値を認めるかだから、それは自分が決めればいい。
詩集『くじけないで』には42編の詩が詰まっている。1編は60文字から100文字くらい。あっと言う間に読めてしまうが、「朗読しながら何度も書き直して、完成させます。だから1作品に1週間以上の製作時間がかかります」とあった。毎週土曜日に訪ねてくる息子さんに見せることから始まって、最後にもう一度息子さんに完成したものを見せるのだろう。本当に詩人だなと思う。思いつきで書き始めたとしても、人に読み聞かせることで言葉や体裁を修正していくのだろう。
柴田トヨさんが一番好きという詩がどれか、すぐに思いついた。
「子どもと手をつないで あなたの帰りを 待った駅 大勢の人の中から あなたを見つけて 手を振った 三人で戻る小道に 金木犀の甘いかおり 何処かの家から流れる ラジオの歌 あの駅あの小道は 今でも元気で いるかしら」(思い出Ⅱ)
暖かな家庭の様子が見て取れる。晩御飯の支度を終えて、そろそろ帰る夫を子どもと共に迎えに行く。それだけでも仲のよい夫婦の姿が目に浮ぶし、3人で帰る道には金木犀が咲き、ラジオからは歌声が流れてきている。これほどの幸せがどこにあるだろう。柴田トヨさんはそれをはっきりと幸せだと言い切れる人だ。
私はどの詩もいいけれど、「九十歳を越えた今、一日一日が とてもいとおしい 頬をなでる風 友からの電話 訪れてくれる人たち それぞれが 私に 生きる力を 与えてくれる」(生きる力)とか、「九十を過ぎてから 詩を書くようになって 毎日が 生きがいなんです 体はやせ細って いるけれど 目は人の心を 見ぬけるし 耳は風の囁きが よく聞こえる 口はね とっても達者なの “しっかりしていますね” 皆さん ほめて下さいます それがうれしくて またがんばれるの私」(私Ⅰ)、あるいは「私ね死にたいって 思ったことが 何度もあったの でも詩を作り始めて 多くの人に励まされ 今はもう 泣き言は言わない 九十八歳でも 恋はするのよ 夢だったみるの 雲にだって乗りたいわ」(秘密)が好きだ。
3編とも90代であって活き活きとした様子が実にいいと思う。