男友だちと酒を飲んでいると、時々とんでもない話になってしまうことがある。人工衛星は地球からおよそ400キロ上空を飛んでいるが、その衛星から見ると、雷は花火のようだと言う。しかも仕掛け花火が連続して爆発するように次々と連鎖していくそうだ。さらに「宇宙は膨張している」と言い、「何億光年という遠いところの光が届いているなんて考えられない」が、「膨張し続けているというその端はどうなっているのだろう」と果てしなく続く。
テレビや新聞、雑誌からの受け売りかも知れないが、そんなことを口に出来るのも関心があるからだ。科学よりも政治の話が盛り上がるのは、情報が多いからで、悪口だけでなくその根幹に迫るような話になることもある。こうなると一致する部分と不一致な部分が顕著になるので、ギリギリのところで話題を転換することが多い。もう長い付き合いになるから、それぞれの思想・信条がわかっているからだ。
女の話や男女の恋沙汰が話題に上がらないのは、知り合ったのが50代の中年で、それぞれにカミさんがいて子どもがいたから、避けたというところかも知れない。中学・高校からの友だちなら、好きだった女の子も知っているから、話も弾むけれど、そういうことが話題になることはない。イヤ、ひとりだけ例外がいることに気が付いた。彼とは今度の夏祭りの反省会で一緒に飲むが、彼と飲む時は必ず女の話である。それもいつも同じ結論になる。
「この前、いい女に出会ったんですよ。それで一緒に飲まないかって誘ったら、OKと言うので雰囲気のいい店に行ったんです。いい滑り出しでしょう。3回くらい飲んだんですが、それっきりになっちゃたんですが、どうしてだと思います」と言う。先輩たちは手厳しい。「アンタの話がつまらなかったんだ」とか、「美味しいものが食べられてお酒が飲めればよかったのさ」とか、「そもそもどうしたかったの、一緒に酒が飲めればよかったの?」といつも肴にされてしまう。
日頃は硬い話が多いけれど、彼が来た時だけはとてもにぎやかになる。経験豊富な先輩たちが女の口説き方を伝授するが、彼からは「うまくいった」と聞かないから何の役にも立っていないのだろう。それでもただひとつ、彼が話し出すと大いに座が盛り上がることだけは確かだ。