天気は回復し、陽が差しているのに、風が強くてルーフバルコニーに出られない。バラの土の入れ替え作業を諦め、本を読むことにした。ケイタイを見ると、かつての部下で編集長を務める女性(とはいえ、部下はもうひとりしかいない)から、「原稿が集まらないから、賑やかしのつもりで気軽にお願いします」とメールが届いていた。私が地域新聞を始めて5年目の時、広告代理店を辞めて、ウチに入って来てくれた子だ。
丁度、パソコンが事務の主流になってきた時で、彼女のおかげでいろんな企画の文書がすぐに出来上がり、新聞作りを超えた幅広い活動が出来るようになった。感性が私に似ていたこともあり、仕事が終わってもよくふたりで話した。話の多くは彼女の母親に対する愚痴だった。彼女の母親は教育ママで、長女の彼女に求めるものが多かったのだ。
彼女にすれば、過干渉であり、鬱陶しい重圧であった。でも、彼女から「母がこう言った」という話を整理してみると、娘への期待以外の何物でもなかった。そう諭しても、なかなか彼女は納得できないから、私はただ、聞いてあげるしかなかった。子どもへの思いが強い人は、どうしても過剰になりやすい。子どもを一人前の人間と見ることが出来ないようで、大人になってもつい手を差し出してしまう。彼女の子育てを見た時、彼女も母親と同じことをしていた。
豊田市で小6の女子児童がふたり、マンションから飛び降りて亡くなった。「いじめ」が原因らしいが、ハッキリしたことは分からない。女の子は片方が「死のう」と言えば、もう片方の子は「やめよう」と言えない。子どもに過干渉なくらいの母親の方が、こうした自殺を食い止めることが出来たのかも知れないが、思い込んだ子の目を覚まさせることは難しい。
まだまだ、外は強風が吹き荒れている。私の気持ちはすっかり落ち込み、彼女からの依頼に答えられなくなっていた。どういう意図の企画なのだろう。何だか安直な特集のように見えて、期待される原稿が書けなかった。