風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

マーチ・ショック

2010-07-30 01:13:33 | 時事放談
 3年前には120円を越えていた円の対ドル相場は、ここ一週間で90円を切るに至り、過去三年間、一貫して上げ基調にあります。昨今の欧米の需要低迷と相俟って、円高局面でたびたび指摘されて来た産業空洞化が、再び本格化しつつあるようで、中でも、今月半ばに販売開始され盛んにTVコマーシャルが流れる日産の新型マーチの生産がタイに全面移管されたことには、これまで国内販売されるものは国内生産されて来た自動車業界にちょっとしたショックが走りました。
 日産マーチは、横須賀・追浜工場を代表する生産品目でしたが、今回の新型モデルは、日本向けの全量をタイ子会社が生産しているそうです。とりわけ「Vプラットフォーム」と呼ばれる、海外市場を念頭に置いた低価格の小型車向け基盤技術を採用したモデルで、160以上の国や地域で、2013年には100万台以上販売される計画であり、国内生産にこだわる必然性はなかったわけです。実際にコスト削減は徹底しており、部品の9割は現地調達しているそうです。
 自動車産業と言えば、鋼板に始まり関連する産業の裾野が広く、かつて日本の経済成長に倣う「ルック・イースト」政策を採ったマハティール元首相のマレーシアでは、経済成長の原動力として、三菱自動車の技術協力を仰ぎながら自動車の国産化を進めたほど、日本の産業の屋台骨を支える業界です。また、部品の開発・生産に始まり完成車に至る生産プロセスの中で、「カンバン」「摺り合わせ」と呼ばれる完成車メーカと部品メーカーの間の密な相互連携により、世界に冠たる高品質を成し遂げ、高い競争力を維持して来たという意味で、日本的経営を象徴する業界だとも言えます。
 企業の行動原理は経済合理性にあります。それは企業経営の気紛れや我が儘ではなく、結局、お客様であり消費者である国民の意向を受けたものに過ぎませんし、また、従業員である国民を雇用し給与を支払う主体としての責任を全うせんがためのものでもあります。その意味で、政治にとって、経営側と労働者側とで、どちらかを利するというものではなく、企業は競争優位を作り込む努力を傾けつつ、そうした企業活動を支える経済的諸条件を整える責任を政治が分かちあっているわけですが、例えば労働組合を支持基盤にするからと最低賃金引上げや派遣労働規制などで労働者側を過剰に保護する法令改正や、他の先進諸国並みに法人税の実効税率を下げる動きを大企業優遇と非難する左翼的発想や、為替における無策など、企業行動に水を差しかねない政治のありようは、日本における企業活動の縮小とあらたな雇用流出を惹き起こしかねないほど微妙な緊張状態にある現実を、忘れてはならないと思います。
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