中国の、尖閣諸島問題を契機とする反日キャンペーンはとどまるところを知りませんが、諸外国はどちらかに加担するようなことはしないというのが外交の基本でしょう。象徴的だったのは、オーストラリアの環境・水・人口相が中国を訪問した際、日本政府による国有化を「支持しない」との姿勢を示した、などと中国新聞社が伝えたのに対して、オーストラリア政府は「事実と違う」と反論したという報道(産経新聞10月5日付、実際の発言は「特定の立場を取らない」)です。我田引水どころか、白を黒と言いくるめるかのような、なんでもありの中国の身勝手さには、呆れると言うより空恐ろしいくらいです。
在パキスタン中国大使館は、パキスタン英字紙デーリー・タイムズ(10月2日付)に見開きで、中国大使の写真とともに「釣魚島は中国固有の領土」「日本が釣魚島を奪った」「釣魚島の施政権を日本に渡した米国と日本の密室での取引は違法で無効」などと広告を掲載したそうですし、アメリカでも、中国英字紙チャイナ・デーリーは、ワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズ(いずれも9月28日付)に見開きで、尖閣諸島の写真とともに「古来、中国固有の領土で、中国は争いのない主権を持っている」、日本政府による国有化が「中国の主権を著しく侵害した」などと広告を掲載したそうです。これらがそれぞれの国民にどのような印象を与え、また受け止められているものか。中国の反日デモの排他的な攻撃性が報道されていれば、中国の独善的な異様さを際立たせるばかりで逆効果のようにも思いますが、どうだったでしょうか。
例えばニューヨーク・タイムズのメールマガジン(日刊)では、9月18日の前後一週間で、中国の反日デモに関するニュースは一本もなく、同紙の国際ニュースは、米大使が暗殺されたリビア情勢や、アフガニスタンで連日繰り返されるテロ事件や、シリア内戦や、イスラエルとイランの確執など、専ら中近東を巡る情勢で埋め尽くされていました。こうして見ると、野田首相がTPPの協議に参加すると発表した当時もそうでしたが(その日の前後一週間で、記事は一本だけ)、極東は、アメリカからは余りに遠い。勿論、実際の紙面に掲載されたこととは別の話で、ワシントンの小森義久氏(産経新聞)が伝える9月26日付の外電は、アメリカ・メディアが、日・中で高まるナショナリズムに関して、見出しこそ挑発的ですが比較的公平な見方をしていることを紹介しています。
(引用)
ワシントン・ポスト(21日付)の「日本が右寄りのシフト」という見出しの東京発の長文記事が目立った。「(日本が)中国のために外交、軍事のスタンスが強硬にも」という副見出しをつけ、野田首相をタカ派と呼び中国への強い態度を「右寄り」と評しつつも、「日本はこれまで世界一の消極平和主義の国だったのがやっと(他国並みの)中道地点へと向かうようになったのだ」と強調した。さらに、日本の憲法や集団的自衛権の禁止が世界でも異端であることを説明し「これまでは中国との対決や摩擦を避ける一方だったが、日本国民はその方法ではうまくいかないことがわかったのだ」とも論じた。
同紙は22日付でも「アジアの好戦的愛国主義者たち=中国と日本の政治家はナショナリズムに迎合する」という見出しの一見、日本の動きにも批判的にみえる論文を載せた。だが内容はほとんどが中国政治指導層への非難で、「日本の政治家も中国の暴徒扇動には温和な対応をみせたが、なお政治的な計算は忘れなかった」とする程度だった。
AP通信(24日付)は、東京発の「日本の次期政権ではナショナリズムが高まり、中国との緊迫が強まる」という見出しで、自民党総裁候補の安倍晋三氏や石破茂氏が対中姿勢を強くしていることをやや批判的に伝え、日中関係がさらに悪化する見通しを強調。しかし、同時に「日本国民全体が特に民族主義的になっているわけではない」と付記した。
ニューヨーク・タイムズ(23日付)は「中日両国のナショナリストたちがこの領土紛争を利用している」という見出しをつけた。しかし内容は、中国側が官民で民族主義を高め日本糾弾を強めているのに対し、日本側は「第二次大戦以来の平和主義傾向のため対決を避ける様子だったが、中国側の激しい野望がそれを変えてしまった」とし、日本の対中姿勢も自衛上、やむをえずとの見方を示した。
(引用おわり)
このあたりは、日本人の今の気分をよく代弁しているように思います。しかし、一か月前には、アメリカのメディアは日本の対応について極めて批判的でした。反日デモを境に、中国に対する見方、従って日本に対する見方が大きく変化したのは、以下の、ワシントン・犬塚陽介氏(産経新聞)の8月16日付の外電と比較してみると明らかです。
(引用)
米紙ウォールストリート・ジャーナル(8月15日付)は、東京発の特派員電で、日本では「ナショナリスト(民族主義者・国家主義者)の政治家や活動家が新たな影響力を振るっており、中国や韓国との関係をこじらせ、東京の政策担当者の頭痛のタネになっている」との記事を掲載した。
記事は15日に2閣僚が民主党政権下で初めて靖国神社に参拝したことや尖閣諸島の国有化計画、米ニュージャージー州パリセイズパーク市に設置された慰安婦碑の撤去を自民党の有志議員団が求めていることなどを中韓の主張に沿うような表現で列挙している。日本が中韓を“挑発”しているとの印象を与えかねない内容だ。
2閣僚の靖国参拝については、靖国神社を「過去の帝国主義と強く結びついた施設」と説明。参拝が「韓国との紛争をさらに燃え上がらせた」とした。
また日本の政治家は中国が「テロリスト」と位置づけるウイグル独立派の国際会議を5月に東京で開いたほか、尖閣国有化計画に「野田佳彦首相を駆り立て」、中国から3カ月で2回の抗議を「招いた」と指摘した。
さらに慰安婦については「軍の売春宿で働くことを強制された韓国人女性」と表現し、「強制連行を示す資料はない」とする日本政府の見解に反する内容を一方的に記載。そのうえで日本側がパリセイズパーク市に慰安婦の碑の撤去を要求したことが「韓国の苦情を引き起こした」としている。
記事は最近の「ナショナリストの日本の政治家」はインターネットで若者にメッセージを発信していると指摘。こうした政治家らの多くが「自衛隊の任務を厳しく制限する平和主義の憲法の改正」を究極の目標にしており、領土問題への関心の高まりが目標達成の弾みとなることに期待を寄せているとしている。
(引用おわり)
もっとも、変化したというより、こちらの記事には、明らかに中・韓の息がかかった記者の悪意か、進歩派・日本人の影を感じさせる、と言うべきでしょうか。
今日のブログ・タイトルを「日本の右傾化」としましたが、正確には、先ほどの記事にあったように、グローバル・スタンダードで言うところの中道に近づいただけのことです。中国が華夷思想や日本人の贖罪意識を盾に日本を抑えつけようとすればするほど、日本人は中国への反発を強め健全な愛国心を取り戻し、歴史観や戦後秩序への疑問を芽生えさせる・・・というのは皮肉なことです。そのような空気が充満しつつある中で、アメリカをはじめとする欧米諸国は、日本の防衛力増強や、集団的自衛権や武器禁輸三原則の見直しといった動きは歓迎するものの、東京裁判に呪縛された日本人の歴史観の修正や戦後秩序の見直しにまで踏み込むことには警戒心を露わにするという声もあります(元・外交官の田中均氏による)。このあたりが、日本が置かれている状況の難しさでしょう。これから露骨に覇権を目指す隣人・中国と対峙していくためには、正当な歴史観によって日本人が誇りを取り戻すことが不可欠でしょう。しかし、70年近く経ってなお、ドイツや日本などの旧・同盟国に対して、旧・連合国が全面的に気を許しているわけではないことは、国連憲章に敵国条項が今も残ることからも明らかです。今さら冷戦も熱戦もないご時世ですが、中国が孫子にならって「戦わずして勝つ」戦略(謀略戦・心理戦)を着々と進める以上、我が国としても、中国だけでなく欧米諸国に対しても「戦わずして勝つ」戦略で対抗すべく、今こそ粘り強い外交力を発揮しなければ、後世に禍根を残すことになりかねません。
在パキスタン中国大使館は、パキスタン英字紙デーリー・タイムズ(10月2日付)に見開きで、中国大使の写真とともに「釣魚島は中国固有の領土」「日本が釣魚島を奪った」「釣魚島の施政権を日本に渡した米国と日本の密室での取引は違法で無効」などと広告を掲載したそうですし、アメリカでも、中国英字紙チャイナ・デーリーは、ワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズ(いずれも9月28日付)に見開きで、尖閣諸島の写真とともに「古来、中国固有の領土で、中国は争いのない主権を持っている」、日本政府による国有化が「中国の主権を著しく侵害した」などと広告を掲載したそうです。これらがそれぞれの国民にどのような印象を与え、また受け止められているものか。中国の反日デモの排他的な攻撃性が報道されていれば、中国の独善的な異様さを際立たせるばかりで逆効果のようにも思いますが、どうだったでしょうか。
例えばニューヨーク・タイムズのメールマガジン(日刊)では、9月18日の前後一週間で、中国の反日デモに関するニュースは一本もなく、同紙の国際ニュースは、米大使が暗殺されたリビア情勢や、アフガニスタンで連日繰り返されるテロ事件や、シリア内戦や、イスラエルとイランの確執など、専ら中近東を巡る情勢で埋め尽くされていました。こうして見ると、野田首相がTPPの協議に参加すると発表した当時もそうでしたが(その日の前後一週間で、記事は一本だけ)、極東は、アメリカからは余りに遠い。勿論、実際の紙面に掲載されたこととは別の話で、ワシントンの小森義久氏(産経新聞)が伝える9月26日付の外電は、アメリカ・メディアが、日・中で高まるナショナリズムに関して、見出しこそ挑発的ですが比較的公平な見方をしていることを紹介しています。
(引用)
ワシントン・ポスト(21日付)の「日本が右寄りのシフト」という見出しの東京発の長文記事が目立った。「(日本が)中国のために外交、軍事のスタンスが強硬にも」という副見出しをつけ、野田首相をタカ派と呼び中国への強い態度を「右寄り」と評しつつも、「日本はこれまで世界一の消極平和主義の国だったのがやっと(他国並みの)中道地点へと向かうようになったのだ」と強調した。さらに、日本の憲法や集団的自衛権の禁止が世界でも異端であることを説明し「これまでは中国との対決や摩擦を避ける一方だったが、日本国民はその方法ではうまくいかないことがわかったのだ」とも論じた。
同紙は22日付でも「アジアの好戦的愛国主義者たち=中国と日本の政治家はナショナリズムに迎合する」という見出しの一見、日本の動きにも批判的にみえる論文を載せた。だが内容はほとんどが中国政治指導層への非難で、「日本の政治家も中国の暴徒扇動には温和な対応をみせたが、なお政治的な計算は忘れなかった」とする程度だった。
AP通信(24日付)は、東京発の「日本の次期政権ではナショナリズムが高まり、中国との緊迫が強まる」という見出しで、自民党総裁候補の安倍晋三氏や石破茂氏が対中姿勢を強くしていることをやや批判的に伝え、日中関係がさらに悪化する見通しを強調。しかし、同時に「日本国民全体が特に民族主義的になっているわけではない」と付記した。
ニューヨーク・タイムズ(23日付)は「中日両国のナショナリストたちがこの領土紛争を利用している」という見出しをつけた。しかし内容は、中国側が官民で民族主義を高め日本糾弾を強めているのに対し、日本側は「第二次大戦以来の平和主義傾向のため対決を避ける様子だったが、中国側の激しい野望がそれを変えてしまった」とし、日本の対中姿勢も自衛上、やむをえずとの見方を示した。
(引用おわり)
このあたりは、日本人の今の気分をよく代弁しているように思います。しかし、一か月前には、アメリカのメディアは日本の対応について極めて批判的でした。反日デモを境に、中国に対する見方、従って日本に対する見方が大きく変化したのは、以下の、ワシントン・犬塚陽介氏(産経新聞)の8月16日付の外電と比較してみると明らかです。
(引用)
米紙ウォールストリート・ジャーナル(8月15日付)は、東京発の特派員電で、日本では「ナショナリスト(民族主義者・国家主義者)の政治家や活動家が新たな影響力を振るっており、中国や韓国との関係をこじらせ、東京の政策担当者の頭痛のタネになっている」との記事を掲載した。
記事は15日に2閣僚が民主党政権下で初めて靖国神社に参拝したことや尖閣諸島の国有化計画、米ニュージャージー州パリセイズパーク市に設置された慰安婦碑の撤去を自民党の有志議員団が求めていることなどを中韓の主張に沿うような表現で列挙している。日本が中韓を“挑発”しているとの印象を与えかねない内容だ。
2閣僚の靖国参拝については、靖国神社を「過去の帝国主義と強く結びついた施設」と説明。参拝が「韓国との紛争をさらに燃え上がらせた」とした。
また日本の政治家は中国が「テロリスト」と位置づけるウイグル独立派の国際会議を5月に東京で開いたほか、尖閣国有化計画に「野田佳彦首相を駆り立て」、中国から3カ月で2回の抗議を「招いた」と指摘した。
さらに慰安婦については「軍の売春宿で働くことを強制された韓国人女性」と表現し、「強制連行を示す資料はない」とする日本政府の見解に反する内容を一方的に記載。そのうえで日本側がパリセイズパーク市に慰安婦の碑の撤去を要求したことが「韓国の苦情を引き起こした」としている。
記事は最近の「ナショナリストの日本の政治家」はインターネットで若者にメッセージを発信していると指摘。こうした政治家らの多くが「自衛隊の任務を厳しく制限する平和主義の憲法の改正」を究極の目標にしており、領土問題への関心の高まりが目標達成の弾みとなることに期待を寄せているとしている。
(引用おわり)
もっとも、変化したというより、こちらの記事には、明らかに中・韓の息がかかった記者の悪意か、進歩派・日本人の影を感じさせる、と言うべきでしょうか。
今日のブログ・タイトルを「日本の右傾化」としましたが、正確には、先ほどの記事にあったように、グローバル・スタンダードで言うところの中道に近づいただけのことです。中国が華夷思想や日本人の贖罪意識を盾に日本を抑えつけようとすればするほど、日本人は中国への反発を強め健全な愛国心を取り戻し、歴史観や戦後秩序への疑問を芽生えさせる・・・というのは皮肉なことです。そのような空気が充満しつつある中で、アメリカをはじめとする欧米諸国は、日本の防衛力増強や、集団的自衛権や武器禁輸三原則の見直しといった動きは歓迎するものの、東京裁判に呪縛された日本人の歴史観の修正や戦後秩序の見直しにまで踏み込むことには警戒心を露わにするという声もあります(元・外交官の田中均氏による)。このあたりが、日本が置かれている状況の難しさでしょう。これから露骨に覇権を目指す隣人・中国と対峙していくためには、正当な歴史観によって日本人が誇りを取り戻すことが不可欠でしょう。しかし、70年近く経ってなお、ドイツや日本などの旧・同盟国に対して、旧・連合国が全面的に気を許しているわけではないことは、国連憲章に敵国条項が今も残ることからも明らかです。今さら冷戦も熱戦もないご時世ですが、中国が孫子にならって「戦わずして勝つ」戦略(謀略戦・心理戦)を着々と進める以上、我が国としても、中国だけでなく欧米諸国に対しても「戦わずして勝つ」戦略で対抗すべく、今こそ粘り強い外交力を発揮しなければ、後世に禍根を残すことになりかねません。