ノーベル平和賞は、文学賞と同様あるいはそれ以上に主観的評価が幅を利かせる分野であり、しばしば議論を呼びます。すなわち、高度に政治的な判断を働かせ、特定の個人や団体の活動を後押しするというような、政治的な狙いが込められているとの批判です。三年前の、核の超大国の大統領であるばかりに、「核なき世界」の演説をしただけで受賞したオバマ大統領然り、また二年前の、中国が「内政干渉」と反発した民主活動家の劉暁波氏然り。そして今回は、債務危機で苦悩するEUに授与されて、私たち日本人は少なからず驚きました。何故、今、授与するのか。今だからこそ、政治的な狙いがあるということに。
ノーベル平和賞と言えば、今から111年前の第一回に受賞した、赤十字を創設したアンリ・デュナンをはじめ、マザー・テレサやキング牧師など、国際平和だけでなく、人権擁護、非暴力運動、保健衛生、慈善事業、環境保全など、人類の普遍的価値の実現に取り組む人々や団体が典型例と理解されます。それは、創設者のアルフレッド・ノーベルが、自分が発明したダイナマイトが戦争に用いられたことを悔い、その遺言で、平和に最も貢献した人物に平和賞を授与するとしたことに始まります。
そんな中、ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネの社説は、平和賞には選挙での敗退から約20年後に受賞したカーター米元大統領のように「功績」を称える一方、就任1年目で選ばれたオバマ米大統領のように「激励」の意味を込める例もあると認めており、そうした顰に倣うと、今回のEUの受賞は、先ずは「功績」つまり「過去に業績を上げた偉人を称える勲章」として、「過去60年間のヨーロッパの融和に向けたEUの努力」が受賞理由として挙げられており、「戦火を交えてきた国々、とりわけフランスとドイツが、民主主義や人権保護という共通の価値観のもとに、一つのヨーロッパという壮大な夢の実現を目指して、戦争以外の方法、つまり話合いで地域共同体を作りあげてきた」ことが高く評価されたことには納得します。今や域内経済規模(GDP)17兆ドル、人口5億人の巨大マーケットが現出しました。しかし、英国のメディアを俟つまでもなく、戦後欧州に平和(的統合)をもたらしたのは英国と米国ではなかったか、という批判も可能です。その意味では「激励」つまり「これから現実を動かすための政治的な賞」として、EUに一層の奮起を期待しているとも言えます。というのも、現実のEUは深刻な分断の危機に直面しているからです。
先ずは、ドイツをはじめとする裕福な北部諸国と、ギリシャやスペインのような借金漬けの南部諸国との間の分断です。ドイツでは、ギリシャをユーロ圏から追い出すべきだ、あるいはドイツ自らEUを脱退すべきだとの主張もあります。またギリシャだけでなく、フィンランドやオランダといった国々でも、反EUで国家主義を掲げる極右政党が台頭しているそうです。イギリスでは、保守党内からも、EU離脱の是非について国民投票を行うべきとの声が上がっているそうです。他方で、一昨日の日経新聞によると、スコットランドや、スペインのカタルーニャ州やバスク州や、ベルギーのフランドル地域のように、国家からの独立を目指す動きが勢いづいており、その背景には、「欧州各国から主権を引き継ぎ、国家を超える存在となったEUが、新たな独立国家を迎え入れる国際的な枠組みになった」という現実があるようです。
ユーラシア大陸の西の端の、お世辞にも肥沃と言えない枯れた土地で国境を接して、対立と協調を繰り返してきた長い歴史を乗り越え、多様性を認めながらも一つにまとまるという、そのまとまりにはいろいろなレベルの議論がありますが、グローバル社会にあって、一国だけでは解決できない諸問題に対処する地域統合モデルとしてのEUの存在意義はとてつもなく大きい。それを評価したのが、EUに加盟せず、ノルウェー・クローネという独自通貨を保持する立憲君主国ノルウェーだというのですから、そのバランス感覚たるや、日本人の私たちにはうかがい知れない世界です。
ノーベル平和賞と言えば、今から111年前の第一回に受賞した、赤十字を創設したアンリ・デュナンをはじめ、マザー・テレサやキング牧師など、国際平和だけでなく、人権擁護、非暴力運動、保健衛生、慈善事業、環境保全など、人類の普遍的価値の実現に取り組む人々や団体が典型例と理解されます。それは、創設者のアルフレッド・ノーベルが、自分が発明したダイナマイトが戦争に用いられたことを悔い、その遺言で、平和に最も貢献した人物に平和賞を授与するとしたことに始まります。
そんな中、ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネの社説は、平和賞には選挙での敗退から約20年後に受賞したカーター米元大統領のように「功績」を称える一方、就任1年目で選ばれたオバマ米大統領のように「激励」の意味を込める例もあると認めており、そうした顰に倣うと、今回のEUの受賞は、先ずは「功績」つまり「過去に業績を上げた偉人を称える勲章」として、「過去60年間のヨーロッパの融和に向けたEUの努力」が受賞理由として挙げられており、「戦火を交えてきた国々、とりわけフランスとドイツが、民主主義や人権保護という共通の価値観のもとに、一つのヨーロッパという壮大な夢の実現を目指して、戦争以外の方法、つまり話合いで地域共同体を作りあげてきた」ことが高く評価されたことには納得します。今や域内経済規模(GDP)17兆ドル、人口5億人の巨大マーケットが現出しました。しかし、英国のメディアを俟つまでもなく、戦後欧州に平和(的統合)をもたらしたのは英国と米国ではなかったか、という批判も可能です。その意味では「激励」つまり「これから現実を動かすための政治的な賞」として、EUに一層の奮起を期待しているとも言えます。というのも、現実のEUは深刻な分断の危機に直面しているからです。
先ずは、ドイツをはじめとする裕福な北部諸国と、ギリシャやスペインのような借金漬けの南部諸国との間の分断です。ドイツでは、ギリシャをユーロ圏から追い出すべきだ、あるいはドイツ自らEUを脱退すべきだとの主張もあります。またギリシャだけでなく、フィンランドやオランダといった国々でも、反EUで国家主義を掲げる極右政党が台頭しているそうです。イギリスでは、保守党内からも、EU離脱の是非について国民投票を行うべきとの声が上がっているそうです。他方で、一昨日の日経新聞によると、スコットランドや、スペインのカタルーニャ州やバスク州や、ベルギーのフランドル地域のように、国家からの独立を目指す動きが勢いづいており、その背景には、「欧州各国から主権を引き継ぎ、国家を超える存在となったEUが、新たな独立国家を迎え入れる国際的な枠組みになった」という現実があるようです。
ユーラシア大陸の西の端の、お世辞にも肥沃と言えない枯れた土地で国境を接して、対立と協調を繰り返してきた長い歴史を乗り越え、多様性を認めながらも一つにまとまるという、そのまとまりにはいろいろなレベルの議論がありますが、グローバル社会にあって、一国だけでは解決できない諸問題に対処する地域統合モデルとしてのEUの存在意義はとてつもなく大きい。それを評価したのが、EUに加盟せず、ノルウェー・クローネという独自通貨を保持する立憲君主国ノルウェーだというのですから、そのバランス感覚たるや、日本人の私たちにはうかがい知れない世界です。