風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ノーベル賞受賞の山中教授

2012-10-16 23:30:37 | 時事放談
 週末のニュース解説番組では、先週月曜日(10月8日)に発表された山中伸弥「京都大学iPS細胞研究所所長・教授」兼「カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所上級研究員」兼「奈良先端科学技術大学院大学栄誉教授」(とWikipediaにあります)のノーベル医学・生理学賞受賞(と、読売と共同通信が勇み足で報じた森口某が臨床応用したとする虚言騒動)で持ち切りでした。久々の明るいニュースに国民は湧き、さらに報道を見る内に、山中教授の、衒いのない、ある意味で学者らしくないとも言える、気取らない誠実な人柄に、国民は二度感動したのではないでしょうか。いくつか印象に残ったエピソードで、検証したいと思います。
 先ず第一に、中学・高校時代は柔道に明け暮れ、神戸大学(医学部)ではラグビーに熱中するようなスポーツ少年でありながら、足の指や鼻などを10回以上骨折した経験から整形外科医を目指したエピソードや、研修医時代に、20分でやるべき手術が2時間かかることもあり、ついたあだ名は「ジャマ(邪魔)ナカ」で、結局、臨床医の夢を諦めて基礎研究の道に方向転換したエピソードなど、ノーベル賞受賞とは余りに落差がある、絵に描いたエリート物語ではないところが、なんとも好ましい。
 第二に、本命視された研究ではありましたが、医療分野のノーベル賞は広く実用化された段階で授与されるのが通例であるところからすると、iPS細胞という基礎医学的発見から僅か6年、まだ安全性評価の段階にあることは異例であり、それだけ臨床医療に直結する期待の大きさを反映するものなのでしょう。そのあたりをご本人も意識してか、こんなことを言われています。
 「今後、何日間かで、受賞の意味を国民の皆さんにできるだけ私の言葉で話したい。来週からは、研究の現場に戻り、論文も早く出さないといけない。それが、このノーベル賞の意味でもある。過去の業績というよりは、これからの発展に対する期待の意味も大きい。それに報いるよう、これからも現役の研究者として研究開発に取り組んでいきたい。」
 自分の言葉で話したい、というのがいいですね。一介の研究者の枠を越えるスケールの大きさを感じさせます。若い人にメッセージを、と問われて、こんなことも言われています。
 「研究は、アイデア一つ、努力で、どんどんいろんなことを生み出せる。日本は、天然資源は限られている。しかし、知的財産は無限に生み出せる。それが国の力になる。病気で苦しむ人の役にも立つ。様々な支援を受けて研究してきた私たちだからこそ、志のある人が安心して研究できる環境を日本につくりたい。」
 第三に、研究費を工面するのに苦労した話も有名になりました。今年3月の京都マラソンで完走を約束して寄付金集めをしたというのも学者の枠をはみ出ていますが、そうした苦労がありながら、インタビューで真っ先に「私が受賞できたのは、国の支援のお陰だ。これは日本という国が受賞した賞と思う。」と、大人のコメントをしたのはさすがでした。民主党の面々は、人気にあやかろうと、ここぞとばかりに褒めそやしますが、2008年の麻生政権で策定された、30人の研究者に配分する「最先端研究開発支援プログラム」の研究費総額2700億円が、2009年の政権交代後の事業仕分けでほぼ三分の一の1000億円に減額され、当時のインタビューで「iPS研究は国際競争を勝ち抜く重要な時期。せめて10年、資金繰りと雇用を心配せず、研究に没頭させてほしい。成果が出なければ10年後にクビにしてもらってもいい」とまで語ったそうです。このあたりの覚悟と捨て台詞の潔さもまた爽やかです。
 第四に、受賞後のインタビューで「感謝」と「責任感」を口にするバランス感覚の良さにも、好感が持てます。
 「感想を一言で表現すると、感謝という言葉しかない。国、京都大のほか、iPS細胞を一緒に作ってくれた高橋和利氏、若い研究者らが助けてくれた。」「家族にも心から感謝したい。」「喜びも大きいが、同時に非常に大きな責任感を感じている。」
 経済の低迷で、貧すれば鈍する日本の企業は、短期的な利益に結びつかない基礎研究・開発予算にもメスを入れていますが、今回のノーベル賞受賞で、基礎研究のもつ将来性や夢が注目され、科学技術立国・日本のスローガンがあらためて見直される機会になると良いですし、子供たちが科学技術の夢を追う機会になるとなお良いですね(かく言う私は文化系ですが、子供には理科系を勧めています・笑)。
コメント (3)
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