風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

祝・9秒98

2017-09-09 21:16:15 | スポーツ・芸能好き
 陸上男子100メートルで、桐生祥秀が、日本人として初めて10秒の壁を破る9秒98を記録した。これで世界歴代「99」位にランクインしたというのも、今日の日付が「9月9日」というのも、何かの因縁か(笑)。これまでの日本記録10秒00は伊東浩司が1998年12月のアジア大会で出したもので、実に19年ぶりの更新である。100分の1秒まで表示する現行の電気計時では、アメリカのジム・ハインズが世界で初めて10秒を切る9秒95で走ったのが1968年のメキシコ五輪だったから、日本人は49年の遅れでようやく追いついたことになる。まがりなりにも競技としての陸上を高校時代にやっていた者として感慨深い。
 実のところ桐生が!?と驚いた人が多かったのではないだろうか。洛南高校3年生のときに出した10秒01は鮮烈で、「9秒台に最も近い男」と言われながら4年が経ち、正直なところ足踏みして見えたのは伸び悩みかと思っていたし、最近は同じ大学生で多田修平という伏兵が登場し、更にケンブリッジ飛鳥やサニブラン・ハキームといったハーフ勢が幅を利かせて、この前の世界陸上では100メートル個人として代表を逃すと、気が早い(短い)私は桐生の時代は終わったかと一抹の寂しさを覚えたものだった。それを一番気にしていたのは彼だろうし、何度もケガに見舞われ、もどかしい思いをしていたことだろう。前・日本記録保持者の伊東浩司氏は「桐生くんの意地だと思う」と語っていたのはその通りだと思うし、この日のレースも象徴的だったようで、「多田くんに前に出られて、いつもなら硬くなる場面。桐生くんが壁を乗り越える瞬間を見させてもらった」と感慨深げである。
 時代の流れもあったのだろうと思う。カール・ルイスが9秒86の世界新記録を樹立した1991年の世界選手権東京大会を契機に、日本陸連は一流選手の走法の科学的な分析に着手したのだそうだ。外国選手は走行時に膝を曲げず、足を1本の棒のように振っていることが分かり、それまで主流だった「速く走るためには太ももを高く上げる」という考え方が改められ、以来、多くの走者がタイムを縮めたという。伊東浩司は、膝を高く上げずに重心を移動させる走りを身につけようと、腰回りの筋力を鍛えたというし、末続慎吾もすり足に近い感覚の走りを目指したらしい。桐生は2015年頃から、高速ピッチを保ちながら歩幅を広げるフォームを目指してきた。上半身を前に傾けて重心を乗せるような感覚で、追い風に乗りやすいのも、今日(追い風1.8m)は幸いしたようだ。400メートルの日本記録保持者・高野進氏は、伊東や末続の動きは小手先ではまねしにくい動きだったと評した上で、「(桐生は)すごくまとまっている。多くの人がお手本にできる」と解説するほど、桐生のフォームはバランスが取れ、目立った癖がないらしい。
 十種競技の王者だった「百獣の王」武井壮は、「日本人初の9秒台ってどんな気持ちなんだろうなあ。。最高だろうなあ。。未来永劫名前が残る偉業だな。。後半の走り鬼の高速だったな。。」と絶賛したというが、競技者故の感想なのだろう。端っから縁のないただの競技者だった私には縁遠い感想だ(笑)。今日だって、万全ではなく、足に不安があって、コーチとギリギリまで相談して、出るとなれば肉離れしてでもスタートからいかないと、と思っていたという。飽くまで世界大会のファイナリストになるのが目標で、ようやく世界へのスタートに立ち入れたと思う、と言う彼の今後の活躍を期待したい。
コメント
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