北朝鮮に対する11日の国連・安保理による追加制裁決議では、原油や石油精製品の規制に初めて踏み込んだという意味では進歩と言えなくはないが、米国の国連大使が「最強の措置」と豪語した原案からは(予想通りではあるが)大幅に譲歩する内容となり、トランプ大統領は「非常に小さな一歩だ」と不満を示したらしいし、北朝鮮はホッとしているのではないだろうか。落ち着くべきところに落ち着いたというのが正直な印象だ。
もっとも、北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会(なんじゃこれ?)は、軍民が「米国の地を焦土化しよう」と要求していると指摘し、米国と同調する日本に対して「取るに足らない日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈めるべきだ。日本はもはや、我々の近くに置いておく存在ではない」との声が出ていると威嚇し、韓国に対して「集中射撃で親米逆賊集団を掃討しよう」と皆が叫んでいる、との(随分、勇ましい)声明を発表した(いずれも産経電子版から)というから、これまで抜け穴だらけで足並みが揃わなかった国際社会が団結して北朝鮮を包囲しつつあるのを警戒しているのは確かだ。
とりわけ年間約800億円を稼ぐと言われる繊維製品の禁輸措置の効果はありそうだ。8月の制裁決議で決めた石炭や海産物などの全面禁輸と併せると、(飽くまで公式統計上の数字ではあるが)輸出総額の9割以上が制裁対象になるというのは、決して小さなことではない。しかし核・ミサイル開発に必要な物資は各国の秘密口座を通して取引しているとされるし、伝統的な偽札・麻薬ビジネスや武器輸出・軍事顧問団派遣などの非正規ビジネスは把握されているわけではないし、今回、部分的に網がかかった海外派遣労働者からの収入は、米国当局によると現在10万人弱、中国とロシアが最大の受け入れ先で、年間500億円以上の外貨収入があるというが、これに直ちに影響があるわけでもない。
それにしても、米国は、何故、あっさり妥協したのだろうか。短期間にまとめあげたことを評価する声があるが、端的に、トランプ政権の政治任用が遅れて人的リソースがなく、緻密に対応できないというのが実態ではなかろうか。ニューズウィーク日本版の先週号によると、上院の承認が必要な主要ポスト591の内、トランプ大統領が指名したのは225人(同時期のオバマ前政権では425人)、指名済みは国務次官6人中1人、国務次官補22人中3人、国防次官3人中2人、国防副次官補12人中4人だけだという。とりわけ深刻なのが、東アジア・太平洋地域担当の国務次官補も、アジア・太平洋安全保障問題担当の国防次官補も指名先送り、というところだ。3日の北朝鮮による「水爆」実験を受けてトランプ大統領が招集した3時間にわたる緊急会議の後、マティス国防長官がホワイトハウスで記者団に、北朝鮮が米国本土やグアムなどの米国領、同盟諸国を攻撃するなど「直接の脅威」に晒した場合は「有効かつ圧倒的な大規模軍事反撃に見舞われるだろう」と言明したのは、ケネディ政権がソ連(当時)との核戦争の瀬戸際に立たされた1962年のキューバ危機以来の「異例の発言」として、米国内でも衝撃をもって受け止められたという(産経電子版)緊急事態である。
もとより軍事解決のオプションはテーブルにあっても、巷間言われるように、おいそれと手が出るものではない。北朝鮮が自らの生き残りを賭け核兵器の能力強化で対米抑止力を確保するという目標に向けて邁進し、あと少しで(1年とも2年とも)弾道ミサイルの再突入技術を獲得できるところまで来ている以上、もはや対話に乗って来るとは思えない。そうすると、米国にとってはTime is of essence.のはずで、それまでに、制裁を強化しつつ北朝鮮を窮状に追い込んで交渉に引き摺り出さなければならないところだ。
かつて韓国の研究機関にいた人によると、金正恩委員長はちょっと切れやすいものの「IQ(知能指数)は人並み以上だった」らしいし、コーツ米国家情報長官は「とても普通ではないタイプだが、狂ってはいない」との評価を述べている。今回の制裁の結果、中国は北朝鮮向け石油輸出というある意味で生殺与奪のカードを手放さなかったし、米国も金正恩体制の資金源を絶つためのセカンダリー・サンクション、すなわち中国の金融機関やエネルギー関連企業に対する二次的制裁のカードを温存しており、さらに時間をかけて、計算高いが狂ってはいない金委員長を、決して自暴自棄に走らせることなく、追い詰めて行くことになる。米中央情報局(CIA)のポンペオ長官は7月にさるフォーラムで「重要なのは核の能力と核を使う人物を切り離すことだ」と述べ、金委員長の追放を示唆した(叔父の金正男暗殺で、潰えたかに見えたが)。まさに様々なオプションがテーブルに載っているわけで、まだまだ緊張の駆け引きが続く。
もっとも、北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会(なんじゃこれ?)は、軍民が「米国の地を焦土化しよう」と要求していると指摘し、米国と同調する日本に対して「取るに足らない日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈めるべきだ。日本はもはや、我々の近くに置いておく存在ではない」との声が出ていると威嚇し、韓国に対して「集中射撃で親米逆賊集団を掃討しよう」と皆が叫んでいる、との(随分、勇ましい)声明を発表した(いずれも産経電子版から)というから、これまで抜け穴だらけで足並みが揃わなかった国際社会が団結して北朝鮮を包囲しつつあるのを警戒しているのは確かだ。
とりわけ年間約800億円を稼ぐと言われる繊維製品の禁輸措置の効果はありそうだ。8月の制裁決議で決めた石炭や海産物などの全面禁輸と併せると、(飽くまで公式統計上の数字ではあるが)輸出総額の9割以上が制裁対象になるというのは、決して小さなことではない。しかし核・ミサイル開発に必要な物資は各国の秘密口座を通して取引しているとされるし、伝統的な偽札・麻薬ビジネスや武器輸出・軍事顧問団派遣などの非正規ビジネスは把握されているわけではないし、今回、部分的に網がかかった海外派遣労働者からの収入は、米国当局によると現在10万人弱、中国とロシアが最大の受け入れ先で、年間500億円以上の外貨収入があるというが、これに直ちに影響があるわけでもない。
それにしても、米国は、何故、あっさり妥協したのだろうか。短期間にまとめあげたことを評価する声があるが、端的に、トランプ政権の政治任用が遅れて人的リソースがなく、緻密に対応できないというのが実態ではなかろうか。ニューズウィーク日本版の先週号によると、上院の承認が必要な主要ポスト591の内、トランプ大統領が指名したのは225人(同時期のオバマ前政権では425人)、指名済みは国務次官6人中1人、国務次官補22人中3人、国防次官3人中2人、国防副次官補12人中4人だけだという。とりわけ深刻なのが、東アジア・太平洋地域担当の国務次官補も、アジア・太平洋安全保障問題担当の国防次官補も指名先送り、というところだ。3日の北朝鮮による「水爆」実験を受けてトランプ大統領が招集した3時間にわたる緊急会議の後、マティス国防長官がホワイトハウスで記者団に、北朝鮮が米国本土やグアムなどの米国領、同盟諸国を攻撃するなど「直接の脅威」に晒した場合は「有効かつ圧倒的な大規模軍事反撃に見舞われるだろう」と言明したのは、ケネディ政権がソ連(当時)との核戦争の瀬戸際に立たされた1962年のキューバ危機以来の「異例の発言」として、米国内でも衝撃をもって受け止められたという(産経電子版)緊急事態である。
もとより軍事解決のオプションはテーブルにあっても、巷間言われるように、おいそれと手が出るものではない。北朝鮮が自らの生き残りを賭け核兵器の能力強化で対米抑止力を確保するという目標に向けて邁進し、あと少しで(1年とも2年とも)弾道ミサイルの再突入技術を獲得できるところまで来ている以上、もはや対話に乗って来るとは思えない。そうすると、米国にとってはTime is of essence.のはずで、それまでに、制裁を強化しつつ北朝鮮を窮状に追い込んで交渉に引き摺り出さなければならないところだ。
かつて韓国の研究機関にいた人によると、金正恩委員長はちょっと切れやすいものの「IQ(知能指数)は人並み以上だった」らしいし、コーツ米国家情報長官は「とても普通ではないタイプだが、狂ってはいない」との評価を述べている。今回の制裁の結果、中国は北朝鮮向け石油輸出というある意味で生殺与奪のカードを手放さなかったし、米国も金正恩体制の資金源を絶つためのセカンダリー・サンクション、すなわち中国の金融機関やエネルギー関連企業に対する二次的制裁のカードを温存しており、さらに時間をかけて、計算高いが狂ってはいない金委員長を、決して自暴自棄に走らせることなく、追い詰めて行くことになる。米中央情報局(CIA)のポンペオ長官は7月にさるフォーラムで「重要なのは核の能力と核を使う人物を切り離すことだ」と述べ、金委員長の追放を示唆した(叔父の金正男暗殺で、潰えたかに見えたが)。まさに様々なオプションがテーブルに載っているわけで、まだまだ緊張の駆け引きが続く。