風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

米朝チキン・ゲーム(後)

2017-09-02 20:40:40 | 時事放談
 前回に続き・・・一旦は矛を収めたかに見えた北朝鮮は、8月26日、短距離弾道ミサイルを3発、発射し、それでもトランプ政権は、アメリカ本土やグアムなどの領土を狙ったものではないと静観していたところ、29日には中距離弾道ミサイル「火星12」を発射し、飛行距離2700キロ(北朝鮮が発表した写真に映る金委員長のモニターによれば3300キロ前後に目標水域が設定されていたようだが)、最高高度は約550キロと推定され、約14分間飛行し、内、約2分にわたって日本の津軽海峡上空の領空を通過し、6時12分、襟裳岬東方約1180キロの太平洋上に落下するに至った。「つがる~かいきょお ふ~ゆげ~しき~」と歌っている場合ではない。「えり~もの はる~は~あぁあ」と歌っている場合でもない(しつこい)。日本による韓国併合から107年目、「邪悪な日本という島国の種族が慌てふためく大胆な作戦」なのだそうである。
 因みに、産経電子版によると、大阪・生野のコリアンタウンの、長女が韓国の江原道にいるという在日韓国人3世の無職男性(67)は「はっきりいって日本はなめられている。しっかりした軍をもって対抗したほうがいい」と憤った一方(結構、まともなご意見だ)、慶応大学・金子勝教授はツイッターに「北朝鮮も怖いが、『戦時放送』を流す安倍政権も怖い」などと(北朝鮮より自国政府を信用出来ないと言わんばかりに)書き込んだらしいし、堀江貴文氏もツイッターでJアラートについて「マジでこんなんで起こすなクソ。こんなんで一々出すシステムを入れるクソ政府」と批判して、ネット上では反論が殺到して物議を醸したという。ホリエモンの名誉のために続けると、「北朝鮮は本格的な実験しようと思ったら東に撃つしかないんだから、そんなのこっちでどうにもならんやろ。いちいちそんなんでアラート出すべきじゃねーんだよボケ」と持論を展開したという。如何にもやんちゃなホリエモンらしいし、ちょっと前に話題になったお笑い芸人並みの“他人事”で、私のような小心者にはその気楽さが羨ましいくらいだが、しかし正直なところ、この程度のメッセージが多数、日本人から出て来ると、日本を脅しても詮無いことと、金委員長は考え直すかも知れない(笑)。
 つまり、北朝鮮には核・ミサイル開発を諦めない、そして米国を交渉に引き摺り出して核保有国として対等にわたりあい、自らの生存を確保するという強い意志と、そうは言っても今、トランプ大統領と直接やり合うより、日本という弱い鎖を衝いて(というのが軍事作戦の要諦だ)日米(韓はもとより頼りにはならないから)にクサビを打ち、困った安倍首相がトランプ大統領に泣きつくのを期待した方がよい、くらいの計算が垣間見える。本当に日本は舐められたものだ(笑)。
 日本の上空を通るミサイルの発射は実に5回目となる。その先駆けは、1998年8月31日、長距離弾道ミサイル「テポドン1号」の一部が、続いて2009年4月5日、「テポドン2号」またはその改良型と思われるミサイルが秋田県と岩手県の上空を通過したが、北朝鮮は両方とも人工衛星打ち上げと説明した。今回は、本州方向に発射した三回目となるが、何ら予告がなかった、ということは、ミサイル発射を認めたことを意味し、危機のレベルがこれまでとは違うことになる。なお、沖縄方面には、2012年12月12日と2016年2月7日に長距離弾道ミサイルが上空を通過した。
 北朝鮮なりに微妙な計算が働いていたことについては、毎日新聞に掲載された道下徳成氏(政策研究大学院大学教授)、李鐘元氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)、渡部恒雄氏(東京財団上席研究員)の緊急座談会(一堂に会したかどうかは疑問だが)が面白い。
 道下氏は、飛行距離や高度について、「日本列島の上を飛ばすことで脅威の度合いを高めるが、グアムには撃たないというバランスを取り、『やりすぎないが、威嚇の水準を上げる』狙いだったのではないか」「あえて(射程よりも)短い距離で撃ったというのは米国へのシグナルだ。今のうちに対話なり、もう少し肯定的な動きを米国がするならやめる気があるというメッセージだった可能性はあると思う」と言う。また、このタイミングについて、渡部氏は、「米国にはあまり深刻だと思われない微妙な時期だった。トランプ大統領は今回は『(北朝鮮に)裏切られた』といったツイッターはしていない。ハリケーン『ハービー』の対応で手いっぱいだからだ」「首脳レベルでは『大変だ』という認識があるが、メディアだけ見ると、日本だけが深刻に受け取っていて、韓国も米国もそうでもないのが際だっている。それが北朝鮮が意図したことなら、かなり成功している」と言う。そして交渉としてのミサイル発射について、李氏は、「長距離ミサイルを実戦配備に持っていくには1、2年は必要ではないかとの見方が多い。北朝鮮は米国と対話すると言いながら、ハードルを高めて進まないようにし、完成させるまでは押したり引いたりしながら、能力を高めて完成させる方に重点を置いている可能性がある」と言う。また、周辺国について、道下氏は、「中国は核、ミサイルを持つ北朝鮮が嫌だと言うが、実はそうでもないのではないか。米国と中国が軍事的に競争しているなかで、北朝鮮が軍事的に強くなってくると、(米国が)中国に対してさける安全保障上の資源が限られることになる。ロシアについても(北朝鮮の)ミサイル開発に支援を与えているのではないかという話がある。そういうことをちらつかせてカードとして使うというゲームをやっている。中国とロシアは消極的にかかわっているというより、むしろ積極的に北朝鮮を利用しようとしているところがあると思う」と言い、渡部氏は、「今、米国が弱い。米国が強い時にやっと国際社会が一緒に動く。国際社会を味方にして強い圧力を北朝鮮にかける、問題解決のためのそれなりの手段を出すためには米国が軍事力に頼らないソフトパワーを取り戻さなければならない。そのためには日本がやれることはいっぱいある。日本自体のソフトパワーも問われる。日韓があまりにも反目してしまうとソフトパワーがそがれる」と言う。結果、今後の日本の対応として、渡部氏は、「日本は米国と話ができる貴重な国だ。韓国や中国に対しても、北朝鮮にとって日本は力になる可能性がある。もうちょっと北朝鮮をうまく持っていくように考えようと米国に話しかけるべきだ」「今の日本の外相、防衛相はセンスのある人たちなので、日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)でそういう話をしていければ、可能性はあると思う」と言い、李氏は、「米国が強硬姿勢をとる時にはこれまでの例を見ると、北朝鮮は中国にもロシアにもアプローチするが、かなりコンスタントに日本に対するアプローチがある。北朝鮮から見ると、日本との関係の進展は得るものが多い」「実際に、02年もそうだったが、04年の小泉元首相訪朝の時に、金正日総書記は米国へのメッセージを小泉元首相に託したとされる。つまり米国につながる日本というのは意味がある。その構図は今でも重なるところがある」と言う。
 ある軍事史研究家によると、国際関係の枠組みが大きく変わるような出来事が起きると、それが実際に顕在化して国際関係に影響を及ぼすのに20年くらいかかる、という。Brexitにせよ、トランプ現象にせよ、1991年にソ連が崩壊してから26年が経ち、ようやくここにきてソ連があったからこそ存在していた(NATOなどの)同盟のあり方が弱まる、もしくは見直すという現象が起きている、というわけだ。朝鮮半島もまた、エドワード・ルトワック氏が「戦争にチャンスを与えよ」で触れていたように、「(朝鮮)戦争が凍結されてしまえば、平和は決して訪れない」という状態が続き、冷戦が続いている間はよかったが、冷戦が終結してなお、六ヶ国の内、五ヶ国がstatus quoの美名のもとに手を拱いている内に、北朝鮮は着々と核やミサイル開発の時間を稼いで、いよいよ抜き差しならないところまで来てしまった感じだ。
 問題は、経済制裁を加え、威嚇で対応する中で、ミサイルや核の軍事リスクにどう対応するか・・・ではなく、そもそも米・中・露の思惑が交錯する東アジア、とりわけ朝鮮半島の、冷戦時代から置き去りにされて来た「秩序」をどう構築するかにあって、これは日本の安全保障の根幹に関わることで、難題中の難題だ。ホリエモンのようにお気楽に「北朝鮮は本格的な実験しようと思ったら東に撃つしかないんだから・・・」と突き放してよいものではない。北朝鮮の挑発にいちいち過敏に反応することなく、冷静に着実に関係国の叡智を結集しなくてはならない。これが簡単に出来るのであれば、ここまで放置されることはなかったのだけれども(苦笑)。
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米朝チキン・ゲーム(前)

2017-09-02 10:28:14 | 時事放談
 米朝と言っても、2年ほど前に亡くなられた桂米朝師匠のこと(!)ではなく、アメリカと北朝鮮のことだ。チキン・ゲームと言えば、私のような年代にとって、「理由なき反抗」(と言っても生まれる前の1955年の作品だが)で、転校したばかりのジェームズ・ディーン扮する少年ジムが、不良少年バズと喧嘩になり、それぞれボロ自動車で崖の端に向かってフル・スピードで走らせて、どちらが最後まで車内に踏みとどまれるか度胸を試す(つまり先に逃げ出すチキン=臆病者を蔑む)シーンを想い出す。大人になりきれない若者たちの哀しくも無謀な虚勢であり強がりだ。
 8月に入ってからの、トランプ大統領と金正恩労働党委員長との間の威嚇の応酬は、そんなチキン・ゲームを思わせるほど、見苦しかった。金委員長の挑発もどうかと思うが、トランプ氏の発言は、どう見ても超大国・アメリカ大統領としての余裕も威厳も感じられず、負けん気が強いばかりの子供の喧嘩腰で、国家間の外交であれば通常わきまえるであろう相手のメンツを立てるといった良識や逃げ道を用意するといった配慮はまるで見られない。
 実際、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍報道官が8日付で「米帝の核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告信号を送るため、中長距離弾道ミサイル『火星12』でグアム周辺への包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」と威嚇すると、トランプ大統領は同日、「これ以上、米国にいかなる脅しもかけるべきでない。北朝鮮は炎と怒りに見舞われる」などと軍事的対応を辞さない構えを見せた。すると、北朝鮮の朝鮮人民軍戦略軍司令官は翌9日、グアム周辺への中距離弾道ミサイル「火星12」の包囲射撃計画について、4発を同時にグアム沖30~40キロの海上に撃ち込む計画案を検討しており、「島根、広島、高知の各県上空を通過し、3356.7キロメートルを1065秒(=17分45秒)飛行する」など具体的な数字を示す一方で、「8月中旬までに最終完成させる」「総司令官である金委員長に報告する」など、わざわざ金委員長の決裁前であることに触れ、トランプ政権の出方を探る思惑がうかがえた。マティス国防長官も同日、「体制の終焉や自国民の破滅につながるような行動を検討するのをやめるべきだ」「自らを孤立させる道を選ぶことをやめ、核兵器を追い求めるのを断念しなくてはならない」と警告し、トランプ発言の真意を“解説”して見せたのに続き、ティラーソン国務長官も、トランプ発言は「外交的な表現を理解しているとは思えない金委員長が理解できる言葉を使って、北朝鮮に強いメッセージを送ったのだと思う」と釈明するなど、火消しに走る異様な事態となった。トランプ氏の不用意な発言で動揺が広がり、誤解と誤算によって米朝が現実に軍事衝突しかねないと思わせるような瞬間だった。
 ところが懲りないトランプ大統領は10日、「グアムで何かやれば、世界が今まで見たこともないようなことが北朝鮮で起きるだろう」などと脅し、軍事攻撃による報復を再び示唆した。更に「(これは単なる)挑発ではない。声明であり事実だ」「金委員長はわが国を著しく貶め、恐るべき発言を繰り返してきたが、今や状況は変わった」と語り、北朝鮮の行動に厳然と対処する姿勢を強調した。さすがに北朝鮮の朝鮮中央通信は翌11日、トランプ大統領の牽制を「虚勢にすぎず、危険な戦争火遊びだ」と非難しつつも、予測不可能性を警戒する“迷い”をも感じさせるコメントを出したが、飽くまで強気なトランプ大統領は同日、「北朝鮮が愚かな行動を取るなら、軍事的解決策を取る準備は整っている」「米領グアムや米国の領土、同盟国に対して何かすれば、本当に後悔することになる。すぐに後悔するだろう」などと追い討ちをかけた。そのためマティス国防長官とティラーソン国務長官は14日付WSJ紙に連名で寄稿する事態となり、飽くまで「一連の平和的な圧力政策の目的は朝鮮半島の非核化だ。米国は体制転換や性急な南北統一に関心はない」と弁明に追われた。発射計画を報告された金委員長も、「悲惨な運命を待つ、つらい時間を過ごす愚かで哀れな米国のやつらの行動をもう少し見守る」とトーンダウンして、一旦は矛を収めたかに見えた。
 ニューズウィーク日本版9‐5号にビル・パウエル氏が「アメリカを守る最後のとりで」と題するコラムを寄せている。世界をハラハラさせ続ける危ういトランプと米政権がなんとか機能しているのは、「この数十年における最高の軍司令官」と呼ばれるマティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョン・ケリー主席補佐官(当初、国土安全保障長官)の三人の退役軍人のおかげだという趣旨だ。いずれも軍人としてだけでなく、学者としての輝かしい名声ももつ。マティス氏の蔵書が7000冊に達していたというのは有名な話だし、マクマスター氏は1997年に発表した著書で、ジョンソン政権下のベトナム戦争における米軍の意思決定の欠陥を論じたというし、ケリー氏もジョージタウン大学で安全保障を研究して修士号を取得、後に中佐時代に国防大学で2年過ごしたという。「彼らは大人の任務を果たしてきた立派な大人」であり、「その安堵感はアメリカの主要な同盟国だけでなく、基本的に敵である諸国にまで広がっている」というわけだ。マクマスター氏の側近によれば、「知っての通りトランプ氏は切れやすい」「しかしマティスとマクマスターとケリーの意見には、たいてい耳を貸す。つまり口ではとんでもないことを言うが、とんでもない行動には出られないというわけだ」という。トランプ大統領に辛口のメディアとは言え、なんとなく想像通りで、私もこれを読んで安堵した次第だ(苦笑)。
 長くなったので、続きは後ほど。
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