前回に続き・・・一旦は矛を収めたかに見えた北朝鮮は、8月26日、短距離弾道ミサイルを3発、発射し、それでもトランプ政権は、アメリカ本土やグアムなどの領土を狙ったものではないと静観していたところ、29日には中距離弾道ミサイル「火星12」を発射し、飛行距離2700キロ(北朝鮮が発表した写真に映る金委員長のモニターによれば3300キロ前後に目標水域が設定されていたようだが)、最高高度は約550キロと推定され、約14分間飛行し、内、約2分にわたって日本の津軽海峡上空の領空を通過し、6時12分、襟裳岬東方約1180キロの太平洋上に落下するに至った。「つがる~かいきょお ふ~ゆげ~しき~」と歌っている場合ではない。「えり~もの はる~は~あぁあ」と歌っている場合でもない(しつこい)。日本による韓国併合から107年目、「邪悪な日本という島国の種族が慌てふためく大胆な作戦」なのだそうである。
因みに、産経電子版によると、大阪・生野のコリアンタウンの、長女が韓国の江原道にいるという在日韓国人3世の無職男性(67)は「はっきりいって日本はなめられている。しっかりした軍をもって対抗したほうがいい」と憤った一方(結構、まともなご意見だ)、慶応大学・金子勝教授はツイッターに「北朝鮮も怖いが、『戦時放送』を流す安倍政権も怖い」などと(北朝鮮より自国政府を信用出来ないと言わんばかりに)書き込んだらしいし、堀江貴文氏もツイッターでJアラートについて「マジでこんなんで起こすなクソ。こんなんで一々出すシステムを入れるクソ政府」と批判して、ネット上では反論が殺到して物議を醸したという。ホリエモンの名誉のために続けると、「北朝鮮は本格的な実験しようと思ったら東に撃つしかないんだから、そんなのこっちでどうにもならんやろ。いちいちそんなんでアラート出すべきじゃねーんだよボケ」と持論を展開したという。如何にもやんちゃなホリエモンらしいし、ちょっと前に話題になったお笑い芸人並みの“他人事”で、私のような小心者にはその気楽さが羨ましいくらいだが、しかし正直なところ、この程度のメッセージが多数、日本人から出て来ると、日本を脅しても詮無いことと、金委員長は考え直すかも知れない(笑)。
つまり、北朝鮮には核・ミサイル開発を諦めない、そして米国を交渉に引き摺り出して核保有国として対等にわたりあい、自らの生存を確保するという強い意志と、そうは言っても今、トランプ大統領と直接やり合うより、日本という弱い鎖を衝いて(というのが軍事作戦の要諦だ)日米(韓はもとより頼りにはならないから)にクサビを打ち、困った安倍首相がトランプ大統領に泣きつくのを期待した方がよい、くらいの計算が垣間見える。本当に日本は舐められたものだ(笑)。
日本の上空を通るミサイルの発射は実に5回目となる。その先駆けは、1998年8月31日、長距離弾道ミサイル「テポドン1号」の一部が、続いて2009年4月5日、「テポドン2号」またはその改良型と思われるミサイルが秋田県と岩手県の上空を通過したが、北朝鮮は両方とも人工衛星打ち上げと説明した。今回は、本州方向に発射した三回目となるが、何ら予告がなかった、ということは、ミサイル発射を認めたことを意味し、危機のレベルがこれまでとは違うことになる。なお、沖縄方面には、2012年12月12日と2016年2月7日に長距離弾道ミサイルが上空を通過した。
北朝鮮なりに微妙な計算が働いていたことについては、毎日新聞に掲載された道下徳成氏(政策研究大学院大学教授)、李鐘元氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)、渡部恒雄氏(東京財団上席研究員)の緊急座談会(一堂に会したかどうかは疑問だが)が面白い。
道下氏は、飛行距離や高度について、「日本列島の上を飛ばすことで脅威の度合いを高めるが、グアムには撃たないというバランスを取り、『やりすぎないが、威嚇の水準を上げる』狙いだったのではないか」「あえて(射程よりも)短い距離で撃ったというのは米国へのシグナルだ。今のうちに対話なり、もう少し肯定的な動きを米国がするならやめる気があるというメッセージだった可能性はあると思う」と言う。また、このタイミングについて、渡部氏は、「米国にはあまり深刻だと思われない微妙な時期だった。トランプ大統領は今回は『(北朝鮮に)裏切られた』といったツイッターはしていない。ハリケーン『ハービー』の対応で手いっぱいだからだ」「首脳レベルでは『大変だ』という認識があるが、メディアだけ見ると、日本だけが深刻に受け取っていて、韓国も米国もそうでもないのが際だっている。それが北朝鮮が意図したことなら、かなり成功している」と言う。そして交渉としてのミサイル発射について、李氏は、「長距離ミサイルを実戦配備に持っていくには1、2年は必要ではないかとの見方が多い。北朝鮮は米国と対話すると言いながら、ハードルを高めて進まないようにし、完成させるまでは押したり引いたりしながら、能力を高めて完成させる方に重点を置いている可能性がある」と言う。また、周辺国について、道下氏は、「中国は核、ミサイルを持つ北朝鮮が嫌だと言うが、実はそうでもないのではないか。米国と中国が軍事的に競争しているなかで、北朝鮮が軍事的に強くなってくると、(米国が)中国に対してさける安全保障上の資源が限られることになる。ロシアについても(北朝鮮の)ミサイル開発に支援を与えているのではないかという話がある。そういうことをちらつかせてカードとして使うというゲームをやっている。中国とロシアは消極的にかかわっているというより、むしろ積極的に北朝鮮を利用しようとしているところがあると思う」と言い、渡部氏は、「今、米国が弱い。米国が強い時にやっと国際社会が一緒に動く。国際社会を味方にして強い圧力を北朝鮮にかける、問題解決のためのそれなりの手段を出すためには米国が軍事力に頼らないソフトパワーを取り戻さなければならない。そのためには日本がやれることはいっぱいある。日本自体のソフトパワーも問われる。日韓があまりにも反目してしまうとソフトパワーがそがれる」と言う。結果、今後の日本の対応として、渡部氏は、「日本は米国と話ができる貴重な国だ。韓国や中国に対しても、北朝鮮にとって日本は力になる可能性がある。もうちょっと北朝鮮をうまく持っていくように考えようと米国に話しかけるべきだ」「今の日本の外相、防衛相はセンスのある人たちなので、日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)でそういう話をしていければ、可能性はあると思う」と言い、李氏は、「米国が強硬姿勢をとる時にはこれまでの例を見ると、北朝鮮は中国にもロシアにもアプローチするが、かなりコンスタントに日本に対するアプローチがある。北朝鮮から見ると、日本との関係の進展は得るものが多い」「実際に、02年もそうだったが、04年の小泉元首相訪朝の時に、金正日総書記は米国へのメッセージを小泉元首相に託したとされる。つまり米国につながる日本というのは意味がある。その構図は今でも重なるところがある」と言う。
ある軍事史研究家によると、国際関係の枠組みが大きく変わるような出来事が起きると、それが実際に顕在化して国際関係に影響を及ぼすのに20年くらいかかる、という。Brexitにせよ、トランプ現象にせよ、1991年にソ連が崩壊してから26年が経ち、ようやくここにきてソ連があったからこそ存在していた(NATOなどの)同盟のあり方が弱まる、もしくは見直すという現象が起きている、というわけだ。朝鮮半島もまた、エドワード・ルトワック氏が「戦争にチャンスを与えよ」で触れていたように、「(朝鮮)戦争が凍結されてしまえば、平和は決して訪れない」という状態が続き、冷戦が続いている間はよかったが、冷戦が終結してなお、六ヶ国の内、五ヶ国がstatus quoの美名のもとに手を拱いている内に、北朝鮮は着々と核やミサイル開発の時間を稼いで、いよいよ抜き差しならないところまで来てしまった感じだ。
問題は、経済制裁を加え、威嚇で対応する中で、ミサイルや核の軍事リスクにどう対応するか・・・ではなく、そもそも米・中・露の思惑が交錯する東アジア、とりわけ朝鮮半島の、冷戦時代から置き去りにされて来た「秩序」をどう構築するかにあって、これは日本の安全保障の根幹に関わることで、難題中の難題だ。ホリエモンのようにお気楽に「北朝鮮は本格的な実験しようと思ったら東に撃つしかないんだから・・・」と突き放してよいものではない。北朝鮮の挑発にいちいち過敏に反応することなく、冷静に着実に関係国の叡智を結集しなくてはならない。これが簡単に出来るのであれば、ここまで放置されることはなかったのだけれども(苦笑)。
因みに、産経電子版によると、大阪・生野のコリアンタウンの、長女が韓国の江原道にいるという在日韓国人3世の無職男性(67)は「はっきりいって日本はなめられている。しっかりした軍をもって対抗したほうがいい」と憤った一方(結構、まともなご意見だ)、慶応大学・金子勝教授はツイッターに「北朝鮮も怖いが、『戦時放送』を流す安倍政権も怖い」などと(北朝鮮より自国政府を信用出来ないと言わんばかりに)書き込んだらしいし、堀江貴文氏もツイッターでJアラートについて「マジでこんなんで起こすなクソ。こんなんで一々出すシステムを入れるクソ政府」と批判して、ネット上では反論が殺到して物議を醸したという。ホリエモンの名誉のために続けると、「北朝鮮は本格的な実験しようと思ったら東に撃つしかないんだから、そんなのこっちでどうにもならんやろ。いちいちそんなんでアラート出すべきじゃねーんだよボケ」と持論を展開したという。如何にもやんちゃなホリエモンらしいし、ちょっと前に話題になったお笑い芸人並みの“他人事”で、私のような小心者にはその気楽さが羨ましいくらいだが、しかし正直なところ、この程度のメッセージが多数、日本人から出て来ると、日本を脅しても詮無いことと、金委員長は考え直すかも知れない(笑)。
つまり、北朝鮮には核・ミサイル開発を諦めない、そして米国を交渉に引き摺り出して核保有国として対等にわたりあい、自らの生存を確保するという強い意志と、そうは言っても今、トランプ大統領と直接やり合うより、日本という弱い鎖を衝いて(というのが軍事作戦の要諦だ)日米(韓はもとより頼りにはならないから)にクサビを打ち、困った安倍首相がトランプ大統領に泣きつくのを期待した方がよい、くらいの計算が垣間見える。本当に日本は舐められたものだ(笑)。
日本の上空を通るミサイルの発射は実に5回目となる。その先駆けは、1998年8月31日、長距離弾道ミサイル「テポドン1号」の一部が、続いて2009年4月5日、「テポドン2号」またはその改良型と思われるミサイルが秋田県と岩手県の上空を通過したが、北朝鮮は両方とも人工衛星打ち上げと説明した。今回は、本州方向に発射した三回目となるが、何ら予告がなかった、ということは、ミサイル発射を認めたことを意味し、危機のレベルがこれまでとは違うことになる。なお、沖縄方面には、2012年12月12日と2016年2月7日に長距離弾道ミサイルが上空を通過した。
北朝鮮なりに微妙な計算が働いていたことについては、毎日新聞に掲載された道下徳成氏(政策研究大学院大学教授)、李鐘元氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)、渡部恒雄氏(東京財団上席研究員)の緊急座談会(一堂に会したかどうかは疑問だが)が面白い。
道下氏は、飛行距離や高度について、「日本列島の上を飛ばすことで脅威の度合いを高めるが、グアムには撃たないというバランスを取り、『やりすぎないが、威嚇の水準を上げる』狙いだったのではないか」「あえて(射程よりも)短い距離で撃ったというのは米国へのシグナルだ。今のうちに対話なり、もう少し肯定的な動きを米国がするならやめる気があるというメッセージだった可能性はあると思う」と言う。また、このタイミングについて、渡部氏は、「米国にはあまり深刻だと思われない微妙な時期だった。トランプ大統領は今回は『(北朝鮮に)裏切られた』といったツイッターはしていない。ハリケーン『ハービー』の対応で手いっぱいだからだ」「首脳レベルでは『大変だ』という認識があるが、メディアだけ見ると、日本だけが深刻に受け取っていて、韓国も米国もそうでもないのが際だっている。それが北朝鮮が意図したことなら、かなり成功している」と言う。そして交渉としてのミサイル発射について、李氏は、「長距離ミサイルを実戦配備に持っていくには1、2年は必要ではないかとの見方が多い。北朝鮮は米国と対話すると言いながら、ハードルを高めて進まないようにし、完成させるまでは押したり引いたりしながら、能力を高めて完成させる方に重点を置いている可能性がある」と言う。また、周辺国について、道下氏は、「中国は核、ミサイルを持つ北朝鮮が嫌だと言うが、実はそうでもないのではないか。米国と中国が軍事的に競争しているなかで、北朝鮮が軍事的に強くなってくると、(米国が)中国に対してさける安全保障上の資源が限られることになる。ロシアについても(北朝鮮の)ミサイル開発に支援を与えているのではないかという話がある。そういうことをちらつかせてカードとして使うというゲームをやっている。中国とロシアは消極的にかかわっているというより、むしろ積極的に北朝鮮を利用しようとしているところがあると思う」と言い、渡部氏は、「今、米国が弱い。米国が強い時にやっと国際社会が一緒に動く。国際社会を味方にして強い圧力を北朝鮮にかける、問題解決のためのそれなりの手段を出すためには米国が軍事力に頼らないソフトパワーを取り戻さなければならない。そのためには日本がやれることはいっぱいある。日本自体のソフトパワーも問われる。日韓があまりにも反目してしまうとソフトパワーがそがれる」と言う。結果、今後の日本の対応として、渡部氏は、「日本は米国と話ができる貴重な国だ。韓国や中国に対しても、北朝鮮にとって日本は力になる可能性がある。もうちょっと北朝鮮をうまく持っていくように考えようと米国に話しかけるべきだ」「今の日本の外相、防衛相はセンスのある人たちなので、日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)でそういう話をしていければ、可能性はあると思う」と言い、李氏は、「米国が強硬姿勢をとる時にはこれまでの例を見ると、北朝鮮は中国にもロシアにもアプローチするが、かなりコンスタントに日本に対するアプローチがある。北朝鮮から見ると、日本との関係の進展は得るものが多い」「実際に、02年もそうだったが、04年の小泉元首相訪朝の時に、金正日総書記は米国へのメッセージを小泉元首相に託したとされる。つまり米国につながる日本というのは意味がある。その構図は今でも重なるところがある」と言う。
ある軍事史研究家によると、国際関係の枠組みが大きく変わるような出来事が起きると、それが実際に顕在化して国際関係に影響を及ぼすのに20年くらいかかる、という。Brexitにせよ、トランプ現象にせよ、1991年にソ連が崩壊してから26年が経ち、ようやくここにきてソ連があったからこそ存在していた(NATOなどの)同盟のあり方が弱まる、もしくは見直すという現象が起きている、というわけだ。朝鮮半島もまた、エドワード・ルトワック氏が「戦争にチャンスを与えよ」で触れていたように、「(朝鮮)戦争が凍結されてしまえば、平和は決して訪れない」という状態が続き、冷戦が続いている間はよかったが、冷戦が終結してなお、六ヶ国の内、五ヶ国がstatus quoの美名のもとに手を拱いている内に、北朝鮮は着々と核やミサイル開発の時間を稼いで、いよいよ抜き差しならないところまで来てしまった感じだ。
問題は、経済制裁を加え、威嚇で対応する中で、ミサイルや核の軍事リスクにどう対応するか・・・ではなく、そもそも米・中・露の思惑が交錯する東アジア、とりわけ朝鮮半島の、冷戦時代から置き去りにされて来た「秩序」をどう構築するかにあって、これは日本の安全保障の根幹に関わることで、難題中の難題だ。ホリエモンのようにお気楽に「北朝鮮は本格的な実験しようと思ったら東に撃つしかないんだから・・・」と突き放してよいものではない。北朝鮮の挑発にいちいち過敏に反応することなく、冷静に着実に関係国の叡智を結集しなくてはならない。これが簡単に出来るのであれば、ここまで放置されることはなかったのだけれども(苦笑)。