アメリカがイラン核合意(JCPOA)から離脱し制裁を復活するのは、言わずもがな、トランプ大統領が引鉄を引いたもので、大事件だったが、ある程度予想されていた。初の米朝首脳会談が6月12日にシンガポールで開催されることに決定したのも、それなりに予想されていた。それよりも今回はマレーシア連邦議会下院選挙の結果を取り上げたい。こちらも予想はされていたものの、まさか!?の度合いは、私にとってイランや北朝鮮の比ではなかった。
1957年の独立以来、与党連合の支配が続いたマレーシアで初めて政権交代が起きる見通し、と日経新聞は報じた。しかもその野党連合を率いて首相に就任する見込みなのが、あのマハティール氏(92歳)だというから、驚き倍増である。ロイター通信は、選挙で選ばれた指導者としては世界最高齢と報じた。世界の国家元首として最高齢を更新中とされる英国のエリザベス女王(92歳)は1926年4月21日生まれで、マハティール氏は女王陛下より4ヶ月早い1925年12月20日生まれだそうだ。
私は2005年夏から丸3年、マレーシアのペナン島に駐在し現地子会社に勤務した(ペナン島だからと言って遊んでいたわけではない…)。マハティール氏は既にその2年前に引退されていたが、当時の上司だったCFOは親しみを込めてDr. Mahathirと呼んで敬愛していた。当時、実施されたマレーシアの総選挙では、与党はそれなりに盤石だった(当時から問題は指摘されていたが)。今回は、現ナジブ政権が政府系ファンドからの巨額の資金流用疑惑を抱えて、汚職体質が嫌気されている上、2015年の消費税導入が物価上昇に繋がって甚だ評判が良くなかったようだ。中国への過度な依存に対しても、心ある人は懸念している。そのため、ナジブ氏は、「選挙法の改正から始まって、選挙区割り改正、賄賂攻勢、野党の登録差し止めなど極めて汚い選挙戦術を展開させた」(マハティール氏インタビュー)という。そもそもシンガポールがマレーシアから独立したのも、シンガポールが進んで出て行ったのではなく、華人の人口が多いシンガポールが、選挙で与党(マレー系)に不利にならないようにと、追い出されたのだった(そのときリー・クワンユーの、涙を流して口惜しがる演説は後に有名になった)。また、汚職と言えば、休暇前になると警察官は小遣い銭稼ぎのために、スピード違反の取り締まりなどに精を出すのが常だった。駐在員仲間のある奥様は、運悪くネズミ取りに引っ掛かり、呼び止められた警察官に向かって「How much?」と白昼堂々、財布から札を取り出して渡そうとして、その警察官を慌てさせたという、大胆極まりないエピソードをもつ。こうした(まだカワイイと言えるレベルの)汚職を防止しようと、警察官の給与水準を上げる議論がよく報道されていた。そして中国との関係については、マハティール氏本人がインタビューで次のように述べている。「マレーシアは、ナジブが完全に中国の支配下に成り下がった。私が首相に返り咲いたら、中国主導の東海岸鉄道計画などを凍結する。中国とは、フレンドリーで中立な立場で、属国になってはいけない。日本を含めアジアの指導者は、卓越した指導力と交渉力で、自国の統治を図るべきだ」と。
マハティール氏は、かつての長期政権(1981~2003年)で、日本の勤勉さに学ぶ「ルックイースト政策」を掲げ、東南アジアでいち早く経済発展を成し遂げる一方、米国と距離を置く政策を取った・・・とは産経電子版の寸評である。最近でこそ、一人あたりGDP1万ドル界隈で足踏みする中所得層の罠に嵌っていたが、所謂「開発独裁」のアジアにおける優等生だった。もっとも、全てが上手く行ったわけではない。産業政策として裾野が広い日本の自動車産業に倣って(という着眼点は悪くない)、三菱自動車やフォルクス・ワーゲンのエンジン技術を導入してアジアでは珍しい国産車Protonを立ち上げた上、輸入する外国車に多額の税金をかけて国産車の普及を図ったが、生産技術への見立てが甘かったのだろう、品質が悪く、長年の赤字から脱却できずに同国の負の遺産になっている(因みに、貧しい若者はバイクに乗り、ちょっと稼ぎが良くなるとマレーシア国産車に乗り、さらに出世するとKIAなどの韓国車に乗り、高給取りはドイツ車や日本車に乗る、と言われていた)。
早速、私のマレーシア時代の同僚たちがfacebookに歓迎のメッセージを続々と投稿していた。私の同僚(すなわちビジネス界)と言えば華人(中国からの移民で土着した人たちのことであり、現地国籍がない華僑とは異なる)がほとんどだから、歓迎するのは当然なのだろう。「I Love(実際にはハート・マーク) PM(=Prime Ministerの意か)」、「Good Morning Malaysia!」、「Well Done Malaysia」、「Congratulations Malaysia, we DID it!!!!!」、「Done .. new world」、「Woke up to a new dawn…Unbelievable!!! Thank you Lord.」、「Finally can sleep」、「明天会更好!」、「好听,一流,我相信!!」・・・皆の熱狂ぶりが目に浮かぶようだ。
マハティール氏は、今後1~2年で、あとは王様に特赦を仰ぎ、獄中のアンワル元副首相が就任できるよう準備すると言われており、一応、老害をわきまえておられるように見受けられる。大の親日家でも知られ、私も当時の上司のCFOから、「お前の世代に太平洋戦争の責任はない、気にせず自信を持って、グローバルにリーダーシップを発揮しろ」と言われたものだったが、マハティール氏はもっと直截に日本の外交政策について次のように述べているのは示唆的である。「日本は、いつまでアメリカの言いなりになり続けるのか。なぜ欧米の価値観に振り回され、古きよき心と習慣を捨ててしまうのか。一体、いつまで謝罪外交を続けるのか。そして、若者は何を目指せばいいのか。日本人には、先人の勤勉な血が流れている。自信を取り戻し、アジアのため世界のためにリーダーシップを発揮してほしい」(Wikipedia)などと痛いところを衝いている。背後にアメリカがいて、安全保障上、自主・独立の気構えがないのを、露・プーチン大統領から呆れられた現実を、思い起こすべきだろう。
なにはともあれ、政治の変化を待望された政権交代で、新たな展望が開けるよう、私にとっては第三の故郷と言えるマレーシアにエールを送りたい。ゆめゆめ日本の政権交代の轍を踏むことがないように・・・(笑)
1957年の独立以来、与党連合の支配が続いたマレーシアで初めて政権交代が起きる見通し、と日経新聞は報じた。しかもその野党連合を率いて首相に就任する見込みなのが、あのマハティール氏(92歳)だというから、驚き倍増である。ロイター通信は、選挙で選ばれた指導者としては世界最高齢と報じた。世界の国家元首として最高齢を更新中とされる英国のエリザベス女王(92歳)は1926年4月21日生まれで、マハティール氏は女王陛下より4ヶ月早い1925年12月20日生まれだそうだ。
私は2005年夏から丸3年、マレーシアのペナン島に駐在し現地子会社に勤務した(ペナン島だからと言って遊んでいたわけではない…)。マハティール氏は既にその2年前に引退されていたが、当時の上司だったCFOは親しみを込めてDr. Mahathirと呼んで敬愛していた。当時、実施されたマレーシアの総選挙では、与党はそれなりに盤石だった(当時から問題は指摘されていたが)。今回は、現ナジブ政権が政府系ファンドからの巨額の資金流用疑惑を抱えて、汚職体質が嫌気されている上、2015年の消費税導入が物価上昇に繋がって甚だ評判が良くなかったようだ。中国への過度な依存に対しても、心ある人は懸念している。そのため、ナジブ氏は、「選挙法の改正から始まって、選挙区割り改正、賄賂攻勢、野党の登録差し止めなど極めて汚い選挙戦術を展開させた」(マハティール氏インタビュー)という。そもそもシンガポールがマレーシアから独立したのも、シンガポールが進んで出て行ったのではなく、華人の人口が多いシンガポールが、選挙で与党(マレー系)に不利にならないようにと、追い出されたのだった(そのときリー・クワンユーの、涙を流して口惜しがる演説は後に有名になった)。また、汚職と言えば、休暇前になると警察官は小遣い銭稼ぎのために、スピード違反の取り締まりなどに精を出すのが常だった。駐在員仲間のある奥様は、運悪くネズミ取りに引っ掛かり、呼び止められた警察官に向かって「How much?」と白昼堂々、財布から札を取り出して渡そうとして、その警察官を慌てさせたという、大胆極まりないエピソードをもつ。こうした(まだカワイイと言えるレベルの)汚職を防止しようと、警察官の給与水準を上げる議論がよく報道されていた。そして中国との関係については、マハティール氏本人がインタビューで次のように述べている。「マレーシアは、ナジブが完全に中国の支配下に成り下がった。私が首相に返り咲いたら、中国主導の東海岸鉄道計画などを凍結する。中国とは、フレンドリーで中立な立場で、属国になってはいけない。日本を含めアジアの指導者は、卓越した指導力と交渉力で、自国の統治を図るべきだ」と。
マハティール氏は、かつての長期政権(1981~2003年)で、日本の勤勉さに学ぶ「ルックイースト政策」を掲げ、東南アジアでいち早く経済発展を成し遂げる一方、米国と距離を置く政策を取った・・・とは産経電子版の寸評である。最近でこそ、一人あたりGDP1万ドル界隈で足踏みする中所得層の罠に嵌っていたが、所謂「開発独裁」のアジアにおける優等生だった。もっとも、全てが上手く行ったわけではない。産業政策として裾野が広い日本の自動車産業に倣って(という着眼点は悪くない)、三菱自動車やフォルクス・ワーゲンのエンジン技術を導入してアジアでは珍しい国産車Protonを立ち上げた上、輸入する外国車に多額の税金をかけて国産車の普及を図ったが、生産技術への見立てが甘かったのだろう、品質が悪く、長年の赤字から脱却できずに同国の負の遺産になっている(因みに、貧しい若者はバイクに乗り、ちょっと稼ぎが良くなるとマレーシア国産車に乗り、さらに出世するとKIAなどの韓国車に乗り、高給取りはドイツ車や日本車に乗る、と言われていた)。
早速、私のマレーシア時代の同僚たちがfacebookに歓迎のメッセージを続々と投稿していた。私の同僚(すなわちビジネス界)と言えば華人(中国からの移民で土着した人たちのことであり、現地国籍がない華僑とは異なる)がほとんどだから、歓迎するのは当然なのだろう。「I Love(実際にはハート・マーク) PM(=Prime Ministerの意か)」、「Good Morning Malaysia!」、「Well Done Malaysia」、「Congratulations Malaysia, we DID it!!!!!」、「Done .. new world」、「Woke up to a new dawn…Unbelievable!!! Thank you Lord.」、「Finally can sleep」、「明天会更好!」、「好听,一流,我相信!!」・・・皆の熱狂ぶりが目に浮かぶようだ。
マハティール氏は、今後1~2年で、あとは王様に特赦を仰ぎ、獄中のアンワル元副首相が就任できるよう準備すると言われており、一応、老害をわきまえておられるように見受けられる。大の親日家でも知られ、私も当時の上司のCFOから、「お前の世代に太平洋戦争の責任はない、気にせず自信を持って、グローバルにリーダーシップを発揮しろ」と言われたものだったが、マハティール氏はもっと直截に日本の外交政策について次のように述べているのは示唆的である。「日本は、いつまでアメリカの言いなりになり続けるのか。なぜ欧米の価値観に振り回され、古きよき心と習慣を捨ててしまうのか。一体、いつまで謝罪外交を続けるのか。そして、若者は何を目指せばいいのか。日本人には、先人の勤勉な血が流れている。自信を取り戻し、アジアのため世界のためにリーダーシップを発揮してほしい」(Wikipedia)などと痛いところを衝いている。背後にアメリカがいて、安全保障上、自主・独立の気構えがないのを、露・プーチン大統領から呆れられた現実を、思い起こすべきだろう。
なにはともあれ、政治の変化を待望された政権交代で、新たな展望が開けるよう、私にとっては第三の故郷と言えるマレーシアにエールを送りたい。ゆめゆめ日本の政権交代の轍を踏むことがないように・・・(笑)