風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

6・12@シンガポール

2018-05-13 11:32:35 | 時事放談
 注目の米朝首脳会談は、一ヶ月後にシンガポールで開催されることになった。選定理由として、安全が確保でき、中立性も備えているからと、ホワイトハウスの報道官は説明している。シンガポールは大陸・中国と台湾の双方ともに密接な関係を持つこともあって、分断後“初”となる2015年11月の中台首脳会談の際には仲介国として会場となった。そして今回は“初”の米朝首脳会談の会場となる。
 日本の公安筋によれば、金正恩委員長の異母兄・正男氏暗殺事件について、シンガポールであったら未然に防がれていただろうと言う(このあたりは産経電子版による)。当時、金正男氏はシンガポールにも出入りしていたとされるが、国内に張り巡らされた監視カメラも駆使し、シンガポール治安当局が入国時点から24時間体制で行動を監視し、泳がせていたらしい。他国の工作員も監視下にあるので、不穏な動きがあれば事前に察知され、そのため「米国も安心してシンガポールに北朝鮮対策を任せ、情報提供も受けている」(同筋)という。
 かつて、ある日系・現地法人社長は、電話は全て当局に盗聴されているよと、ケロッと何事もないように語ったように、数年前までWikipediaはシンガポールのことを「明るい北朝鮮」の異名があると書いていた(が、今はどうやら消えている)。前回ブログでマレーシアが独立以来“初”の政権交代を経験したことを書いたが、シンガポールでは独立以来このかた人民行動党の一党独裁が続いているからこそ、そして東京23区並みの国土の狭さ故に、高度の監視社会が可能なのだろう。
 日本にいると気付かないが、マレーシアに住んでいると、シンガポールとマレーシアは元は一つの国だったという生い立ちもあって、いまなお陰に陽に比較の対象になり、お互いに牽制し合うところがあるのを面白く思ったものだった(エスニック・ジョーク的に)。ともにリー・クアンユー首相(1959~90年、2004年まで上級相)とマハティール首相(1981~2003年)というカリスマをトップに戴き、ASEANの開発独裁として成功したが、今となってはちょっと差がついてしまったし、ある意味で双方が対照的な性格のせいでもあろう。シンガポールには、私も何度か訪問したが、どちらも多民族ながら華人が74%で活気があり(片やマレーシアではマレー系が65%でおっとりしている)、公職の給与体系を高くしているお陰で汚職の少なさでは世界トップクラスでクリーンなのはよいが(マレーシアは前回ブログに書いた通りややダーク)、世界文化遺産(シンガポール植物園)がひとつあるだけで、街は人工的な近代都市で面白みに欠け(マレーシアには2つの文化遺産に加え、ジャングルが多く、ボルネオ島のキナバル自然公園とグヌン・ムル国立公園の2つの自然遺産がある)、屋台のバクテー(肉骨茶と書く、骨付きばら肉等をニンニクや漢方系ハーブで煮込んだスープ)もどちらも美味いが塩・胡椒のクリアスープは万人受けして特色に乏しい(マレーシアでは醤油などのダークスープで独特の味)。シンガポールは水道水の大部分をマレーシアからの輸入に頼っているので、何か衝突すると「水の供給を停止する」だの「価格を100倍に引き上げる」だの脅しを受け、水問題がシンガポールのアキレス腱となっているのは余談だ。
 あの中国も、経済的には自由で高度に発達しつつ政治は一党独裁を維持している(外に開かれてクリーンだが内にはどこか窮屈な、という意味で「明るい北朝鮮」とは言い得て妙な)シンガポールのバランスのとり方に関心があるようだが、いかんせん規模が違い過ぎる。僅か560万人の都市国家であれば産業のある部分で突出すれば何とかなるかも知れないが(それでも中での格差は議論になる)、14億の民を食わせて行くのは並大抵ではない(中国製造2025では、先端分野のほぼ全てを極めようと野心的であり、あちらこちらで摩擦を呼んでいるのは周知の通り)。
 本題の米朝首脳会談に向けて、事前の調整が進んでいる。9日の金正恩委員長とポンぺオ国務長官との会談の結果を、翌10日、北朝鮮国営メディアは「満足のいく合意を見た」と報じた。ポンペオ氏がトランプ大統領のメッセージを伝えたのに対し、金正恩委員長は「大統領が対話を通じた問題解決に深い関心を持っている」と高く評価して謝意を表し、「首脳会談は、朝鮮半島の肯定的な情勢発展を後押しし、素晴らしい未来を建設するための第一歩を踏み出す歴史的な出会いとなるだろう」と述べたという(産経電子版)。北朝鮮メディアが米朝首脳会談に関する金正恩氏の発言を伝えたのは初めてのことだそうで、型破りなトランプ政権とは言えそれなりに地ならしを進めていることが窺える。
 それでもまだ疑念は消えない。北朝鮮は過去にも「非核化」にコミットしていたので、時間を限った具体的なロードマップに合意できるかどうか、それを検証しながら確実に実行できるかどうか・・・ビジネスの世界でもゴールや戦略を語るのはある意味で簡単なことで、実行(execution)こそが問われるのと同じことだ。昨日の「ウェークアップ!ぷらす」では、北朝鮮が既に核実験施設の解体を始めていると報道されたが、証拠隠滅するようでは困る。検証を担当するIAEAの事務局長・天野之弥さんの講演を聴いたのは半年以上前のことで、既に北朝鮮チームを編成していると言われていたのは、これからの活躍を見通していたかのようだ。さて、金正恩委員長は、金王朝存続のために、結局、中国の後ろ盾を得て、東アジアの、と言わず世界のパワーバランスを映す形で、極めてsensitiveな朝鮮半島の秩序再構築に向けた取り組みが始まる・・・のかどうか。
コメント (2)
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