風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

安倍政権のレガシー

2020-08-31 23:52:44 | 時事放談
 戦後最長の安倍政権終焉の感傷に浸る間もなく、政局は動き出している。正直なところ今回ばかりは政局には余り興味が湧かず、政策が気になってしまう。次の政権でも是非とも引き継いで欲しい政策とは何か。
 安倍政権の最大の成果は、集団的自衛権行使の一部容認と安保法制だと言う人がいて、まあ、その通りだろうと思う。祖父・岸信介氏の日米安保改 定を彷彿とさせる国会前デモを招き、国論を二分する騒然とした事態に立ち至って、8年近い安倍政権のクライマックスとも言えるものだった。これは、しかし、内政よりも外政にこそ意味がある政策であり、これを含めて今の日本の対外的地位こそが安倍政権の最大のレガシーだと思う。それはトランプ大統領やメルケル首相に「SHINZOがそう言うならいいや」と言わしめたエピソードに集約される。
 先ず、あの気紛れで予測不能で我が儘なトランプ大統領とゴルフをするほどの個人的な信頼関係を築きあげたことは、最大の偉業と言っても過言ではない(笑)。案外、ご本人にとってそれほど造作ないことだったのではないかと思っていたら、甘利さんによれば、以前、安倍さんに、トランプ大統領と相性が合うのか質問したところ、「いやオレも疲れるんだよ」と明かしたらしい(30日の「日曜報道THE PRIME」において・・・こんなことを今、明かしていいのか疑問だが 笑)。貢いでご機嫌をとるばかりだと揶揄する向きもあるが、国益を背負った、国際社会のお守り役であったのは、恐らく衆目の一致するところだろう。このあたりは、同じようにゴルフをする仲となって日米安保条約改定を進めた祖父・岸信介氏とアイゼンハワー大統領の関係を彷彿とさせる。NATOやヨーロッパ諸国に対するビジネスライクな(つまりは損得勘定中心の)割り切りを見せつけられると、またアメリカがいくらアジア重視に舵を切っていたとは言え、韓国への冷遇を見せつけられると、盤石の日米関係が日本にとって如何に幸運なことだったかがよく分かる。昨日の電話会談で、2人の関係は「特別だった」との見方で一致し、この先何年も「すてきな友情」を維持していくことを楽しみにしているとしたという(産経Web)。首脳間で友情について語り合えるとは、素晴らしい。
 地元・山口に招待したロシアのプーチン大統領は、KGB(ソ連国家保安委員会)の有能な元・工作員だけに、なかなか本音が見え辛いが、在任期間に実に27回も会談を重ねたのは、信頼関係なくしてはあり得ない。独裁政治を敷きながら、なかなかの慎重居士で、この二人を以てしても平和条約と北方領土問題解決に至らなったのは残念だが、今日の電話会談でプーチン大統領は、「これからも友情を大切にしたい。またお会いするのを楽しみにしている」と述べ、日本語で「シンゾー、アリガトウ」とも述べたというのも、最大限の賛辞であり、本物の関係に見える。また、外国の要人として唯一、別荘にお招きしたインドのモディ首相ともウマが合ったようだし、台湾に寄せる思いも強く、東南アジア諸国、オーストラリア、ヨーロッパ諸国等々、友好的な関係を築いた首脳は数知れない。国家間の関係とは言え、首脳同士の信頼関係が重要であることは、韓国の文在寅大統領と会うことが少なく、日韓関係までもが冷え切っているのを見るまでもない。
 こうして在任中81回の外遊をこなした外交は「地球儀を俯瞰する外交」と言われ、各国・首脳と信頼関係を築き、中国とも関係修復しながら、何より欧米・自由主義陣営へのコミットメントを明確にしていることが重要だろう。中でも「自由で開かれたインド太平洋」構想は、アメリカを引き込むことに成功し、中国が強面で台頭するにつれ、インドやオーストラリアと接近し、「サプライチェーン・レジリエンス・イニシアチブ(SCRI)」として独自のサプライチェーンの枠組み構築を検討するなど具体的な成果が出ているのが重要である。BREXITの英国と、英語圏(英米加ANZ)の諜報に関する協力関係であるFive Eyesへの参加まで話題になったのは、そんなタイミングであるとしても画期的なことであり、欧米諸国と重層的に関係が構築されるのは望ましい。最近、イスラエルとUAEが国交回復して話題の中東では、イスラエルやアラブ諸国と対立するイランやトルコなどの地域大国とも、日本は友好的な関係を築いており、もとより安倍政権での功績と言うより伝統的なものだが、極めて貴重でユニークな貢献をなし得るものとして大事にして行きたいものだ。
 唯一の問題と見られるのは日韓関係で、韓国では安倍さんが国民の嫌韓感情を政治利用していることが日韓関係悪化の原因とされているらしく、次の政権に淡い期待を寄せているようだ。そもそも国民の嫌韓感情は、親日とされるはずの李明博大統領が政権末期の劣勢を挽回しようと竹島に上陸するなど反日感情を政治利用したことに始まり、次の朴クネさんは親日とされる父親からの連想を避けるために反日を装い続け、その次の文在寅さんは、韓国の有識者に言わせれば韓国は内戦状態だと揶揄するほどに反日感情を政治利用したからだ。結果、安倍さんをして、中国の言っていることには反対だが話が通じるのに対し、韓国とは話が通じない、とまで言わしめて、史上最悪の状況が続いている。次の政権は下手な妥協をすることなく、日韓請求権協定は戦後の日韓関係の基本として、韓国こそ理不尽であることを粘り強く理解させるしかない。
 微妙なのは中国で、中国側の評価も愛憎半ばする。
 私は冗談半分で、安倍さんは米中首脳にトリックを仕掛けていると話すと、元・自衛隊のおっちゃんはそりゃ考え過ぎだと苦笑される。一笑に付されるわけではないところが微妙で(笑)、まあ、まともに受け取ってもらうつもりはない、私お得意のただの思い付きだが、なかなかよく出来た話だと自画自賛している(笑)。何かというと、先ず、トランプ大統領にはノーベル平和賞をちらつかせて、中途半端なディールではなく朝鮮半島非核化という大義を追求するようピン止めした(これについては以前ブログに書いた)。次いで習近平国家主席には国賓来日という餌をぶら下げたら、見事に食らいついた。米中対立のさなかであり、日米離間を狙う中国の思惑もあってのことだろうが、天皇陛下は我が国が持つ「奥の手」「最終兵器」として中国に対しては依然、威力があるということだ。もとより天皇陛下は政治利用してはならない神聖な存在だが、思い起こせば、民主党政権が一ヶ月ルールに抵触して天皇特例会見を実現したのも、副主席時代の習近平氏だった。
 こうして各国首脳との個人的関係をもとに日本の対外的地位を引き上げることが出来たのは、ひとえに安倍さんのケレン味のない誠実さの賜物だろうと思う。これは、大声では言わないが、育ち、なのだろう。そんな彼の誠実さを示すエピソードを最後に紹介したい。ジャーナリストの有本香さんが辞任会見の翌朝、facebookに披露したもので、巷間、何かとお騒がせと見られる昭恵夫人の人の好さも伝わるので、名誉回復のためにも・・・(笑)

(引用)
 丑三つ時だから一つ明かす。ご本人方の了解は得ていないが、お許しいただけるだろう。
 今年の1月末、昭恵さんの強い希望で、在日ウイグル人の方々との会食をセットした。昭恵さんは以前からウイグル問題に関心を寄せていて、「話がしたい」と言っていたからだ。雪の予報が出ていた夜、会食もたけなわ、9時を回った頃に昭恵さんの電話が鳴った。少し話すと、彼女は黙って私にスマホを渡した。
 総理からだった。在日ウイグル人の皆さんを気遣う言葉の後、私に「有本さんもご苦労様」と仰った。私が「先週、武漢肺炎での水際対策で政府を批判する記事を書きました。言いたいこと言わせてもらってます」と言うと「それは構わない。今夜は雪になるみたいだから皆さん、ほどほどにね」とさらに気遣いの言葉をかけられ、電話は一旦切れた。
 その後、もう一度、昭恵さんの電話が鳴り、今度は、その場に居たウイグル人お一人お一人に電話をかわって、直接言葉をかけていた。皆さん、「総理に励ましていただいた。最近落ち込むことが多かったが、これでまた頑張れる」ととても喜ばれた。
 私も、この夜のことは生涯忘れないと思った。しかし、こういう話は、現職でおられる間、メディアでは明かせない。おかしなことだと思うが、それが今の日本だ。もちろん、ご夫妻もこういう出来事を見せびらかすようなことを一切望んでいない。それほど真面目で暖かいお二人だ。
 長い間、本当にお疲れ様でした。そして、日本のために、ありがとうございました。しばらくゆっくりとご静養ください。
(引用おわり)
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