文在寅大統領は、22日の国家安全保障会議で、GSOMIA破棄を決めた。2016年11月に朴クネ前政権時代に締結され、その後一年毎に更新されてきたが、朴クネ政権を全否定する文在寅政権によって、安全保障すら例外なく覆されたことには、日・米関係者の間に少なからぬ驚きが広がった。前回ブログに書いたように、中・朝への接近が、どのような時間軸で進展して行くのか憂慮している私は、ある程度は覚悟していたとは言え、それでも虚を衝かれた。
韓国政府によると、日本が輸出管理を厳格化したことへの事実上の報復措置で、「両国間の安保協力環境に重大な変化をもたらした」と指摘し、GSOMIA維持が「われわれの国益にそぐわないと判断した」と主張したという(産経Web)。しかし、そもそもGSOMIAと輸出管理厳格化は、河野外務大臣が指摘するまでもなく、全く次元の違う話である。韓国が、いつまでも輸出管理の何たるかを理解しようとしない、あるいは理解していないフリをするのは、飽くまで政治利用し、米国に対して日本のせいだと詰ることで米国の仲介を期待しているのかと思わせたが、G7で、安倍首相がトランプ大統領と会談した際、GSOMIAが話題にならなかったということは、日・米間では話が通じており、しかもトランプ大統領にとって、日・米・韓の安全保障協力より、日・米貿易協議での成果の方にこそ関心があったと言うほかない。それほどトランプ大統領にとって2020年の大統領選が絶対であり、もはや米・韓同盟など風前の灯火なのだろうか。
従って、GSOMIA破棄は、日・韓の対立にとどまらず、日・米・韓の安全保障協力に綻びをもたらし、産経Webは「北朝鮮に付け入る隙を与え」「北朝鮮をさらに利するだけでなく、文大統領の対北外交の基盤を崩す可能性も高い」と言うが、これは日本側が希望的観測を以て語る論理に過ぎなくて、文在寅政権は、日・韓の対立どころか、日・米・韓の安全保障協力を捨てても、南・北協力に夢を託し、どれだけ金正恩委員長に足蹴にされようと、北朝鮮に秋波を送っている(と支持層に見せている)と見做さざるを得ない。文在寅大統領も、来年の総選挙に向けて必死なのである。経済がうまく行かないばかりでなく、側近で法相候補の娘さんの大学不正入学疑惑まで持ち上がり、直近の不支持率は5割を超えたそうだ。
とまあ、米韓ともに政局に貶めてしまうのは理解しやすいが余りに安易でちょっと野暮なので、もう少し掘り下げて思うところを書いてみる。
米・韓ともに安全保障の「現場」と「政治」とで、乖離しているということだろう。これは由々しき事態だ。韓国では、国防部も外交部も日・韓GSOMIA継続を進言したらしいが、大統領府が立ちはだかったようだ。文在寅大統領自身は、親北のバリバリの左翼で、革命政権だと解説される専門家もいたが、まさかそこまでのことはないだろうと私の中では留保していたところ、確かに、取り巻きの市民活動家あがりで政権を固める連中も含めて、大統領府はイデオロギーに凝り固まっていると思わざるを得ない。歴史認識にしても、従軍慰安婦や徴用工(あるいは出稼ぎ労働者)の問題にしても、自らが考える正義に従い、イデオロギーが優位し、平気で歴史的事実を踏み躙り、現実的なプライオリティ付けが出来ず、外交が成立しなくなる。そして米側、トランプ政権も、言わずもがな。国防総省にしても国務省にしても、報道される通り、失望を禁じ得なかったと報道される一方、トランプ大統領の真意はよく分からない・・・。
もう一つ付け加えるなら、文在寅大統領が光復節の式典演説で、歴史問題での対日批判を抑制したにも関わらず、日本が無反応だったことが、韓国では問題だったらしい。ちょっと馬鹿馬鹿しいほどだが、続ける。大統領府国家安保室の金鉉宗第2次長によれば、「国家的自尊心まで毀損するほどの無視で一貫し、外交的欠礼を犯した」という。このあたりから見えてくるのは、国家間では往々にして「威信」がイタズラするということだ。これは、2400年前にトゥキディデスが戦争の原因として「利益」「恐怖」「名誉」の三つを挙げた中の「名誉」にあたる。
更に「誤認」することがいつしかエスカレートして、終には戦争に至った悲劇として、第一次世界大戦のことが思い出される。誰も望まなかったし、予想だにしていなかったが、キッシンジャー博士に言わせれば、誰もが同盟に忠実であろうとしたということになるし、ドイツ参謀本部が帝国宰相に宛てた覚書(1914年7月29日)によれば以下の通りとなる。
(前略)ロシアは、オーストリアがセルビアに進攻すれば、軍隊を動員するつもりであると明言している。ロシアはオーストリアによるセルビアの滅亡を許容できないからである・・・オーストリアは、戦争に向かってあらゆる準備をしているロシアに無条件降伏をする気は恐らくないのだから、その軍隊の一端を対ロシアのために動員せざるを得ないであろう。その瞬間、オーストリアとロシアの間の衝突は不可避となる。ところが、このことはドイツにとって応援義務発生事由となる。もしドイツが、その約束に忠実であって、その同盟国がロシアの優越した手に掛かって絶滅することを許さないならば、ドイツもまた軍隊を動員しなければならない・・・ロシアはフランスの支持を確かめるであろう。同盟の盟約によれば、フランスはその盟友ロシアが攻撃されれば戦争に加わる義務がある・・・こうしてヨーロッパ文明諸国の相互虐殺が始まることになる(後略)
実はこのときドイツは、ロシアが参戦するなら自ら加勢するとオーストリアに伝えていた。また、ドイツもオーストリアも、まさかイギリスが参戦するとは予想だにしていなかった。学生時代の歴史教科書が懐かしい、「独・(伊)・墺」と「英・仏・露」の争いである。
ここまで大掛かりではないにしても、韓国の執拗な思い込みと日本の無関心(過去の日・韓関係を振り返れば分からなくはない、最近、政府筋が言って来た、韓国に対する“戦略的放置”に通ずる)との間のすれ違いは、気になるところだ。隣国同士、仲が良いためしはないのが世の常とは言え、ええ加減にせい、という私たち日本人の思いは、どうも韓国には全く通じていそうにない。GSOMIAそのものはともかく、韓国が北や中国の磁場に引き寄せられることになるとすれば、日本の安全保障に小さからぬ影響があるのが、やはり憂慮されるのである。
韓国政府によると、日本が輸出管理を厳格化したことへの事実上の報復措置で、「両国間の安保協力環境に重大な変化をもたらした」と指摘し、GSOMIA維持が「われわれの国益にそぐわないと判断した」と主張したという(産経Web)。しかし、そもそもGSOMIAと輸出管理厳格化は、河野外務大臣が指摘するまでもなく、全く次元の違う話である。韓国が、いつまでも輸出管理の何たるかを理解しようとしない、あるいは理解していないフリをするのは、飽くまで政治利用し、米国に対して日本のせいだと詰ることで米国の仲介を期待しているのかと思わせたが、G7で、安倍首相がトランプ大統領と会談した際、GSOMIAが話題にならなかったということは、日・米間では話が通じており、しかもトランプ大統領にとって、日・米・韓の安全保障協力より、日・米貿易協議での成果の方にこそ関心があったと言うほかない。それほどトランプ大統領にとって2020年の大統領選が絶対であり、もはや米・韓同盟など風前の灯火なのだろうか。
従って、GSOMIA破棄は、日・韓の対立にとどまらず、日・米・韓の安全保障協力に綻びをもたらし、産経Webは「北朝鮮に付け入る隙を与え」「北朝鮮をさらに利するだけでなく、文大統領の対北外交の基盤を崩す可能性も高い」と言うが、これは日本側が希望的観測を以て語る論理に過ぎなくて、文在寅政権は、日・韓の対立どころか、日・米・韓の安全保障協力を捨てても、南・北協力に夢を託し、どれだけ金正恩委員長に足蹴にされようと、北朝鮮に秋波を送っている(と支持層に見せている)と見做さざるを得ない。文在寅大統領も、来年の総選挙に向けて必死なのである。経済がうまく行かないばかりでなく、側近で法相候補の娘さんの大学不正入学疑惑まで持ち上がり、直近の不支持率は5割を超えたそうだ。
とまあ、米韓ともに政局に貶めてしまうのは理解しやすいが余りに安易でちょっと野暮なので、もう少し掘り下げて思うところを書いてみる。
米・韓ともに安全保障の「現場」と「政治」とで、乖離しているということだろう。これは由々しき事態だ。韓国では、国防部も外交部も日・韓GSOMIA継続を進言したらしいが、大統領府が立ちはだかったようだ。文在寅大統領自身は、親北のバリバリの左翼で、革命政権だと解説される専門家もいたが、まさかそこまでのことはないだろうと私の中では留保していたところ、確かに、取り巻きの市民活動家あがりで政権を固める連中も含めて、大統領府はイデオロギーに凝り固まっていると思わざるを得ない。歴史認識にしても、従軍慰安婦や徴用工(あるいは出稼ぎ労働者)の問題にしても、自らが考える正義に従い、イデオロギーが優位し、平気で歴史的事実を踏み躙り、現実的なプライオリティ付けが出来ず、外交が成立しなくなる。そして米側、トランプ政権も、言わずもがな。国防総省にしても国務省にしても、報道される通り、失望を禁じ得なかったと報道される一方、トランプ大統領の真意はよく分からない・・・。
もう一つ付け加えるなら、文在寅大統領が光復節の式典演説で、歴史問題での対日批判を抑制したにも関わらず、日本が無反応だったことが、韓国では問題だったらしい。ちょっと馬鹿馬鹿しいほどだが、続ける。大統領府国家安保室の金鉉宗第2次長によれば、「国家的自尊心まで毀損するほどの無視で一貫し、外交的欠礼を犯した」という。このあたりから見えてくるのは、国家間では往々にして「威信」がイタズラするということだ。これは、2400年前にトゥキディデスが戦争の原因として「利益」「恐怖」「名誉」の三つを挙げた中の「名誉」にあたる。
更に「誤認」することがいつしかエスカレートして、終には戦争に至った悲劇として、第一次世界大戦のことが思い出される。誰も望まなかったし、予想だにしていなかったが、キッシンジャー博士に言わせれば、誰もが同盟に忠実であろうとしたということになるし、ドイツ参謀本部が帝国宰相に宛てた覚書(1914年7月29日)によれば以下の通りとなる。
(前略)ロシアは、オーストリアがセルビアに進攻すれば、軍隊を動員するつもりであると明言している。ロシアはオーストリアによるセルビアの滅亡を許容できないからである・・・オーストリアは、戦争に向かってあらゆる準備をしているロシアに無条件降伏をする気は恐らくないのだから、その軍隊の一端を対ロシアのために動員せざるを得ないであろう。その瞬間、オーストリアとロシアの間の衝突は不可避となる。ところが、このことはドイツにとって応援義務発生事由となる。もしドイツが、その約束に忠実であって、その同盟国がロシアの優越した手に掛かって絶滅することを許さないならば、ドイツもまた軍隊を動員しなければならない・・・ロシアはフランスの支持を確かめるであろう。同盟の盟約によれば、フランスはその盟友ロシアが攻撃されれば戦争に加わる義務がある・・・こうしてヨーロッパ文明諸国の相互虐殺が始まることになる(後略)
実はこのときドイツは、ロシアが参戦するなら自ら加勢するとオーストリアに伝えていた。また、ドイツもオーストリアも、まさかイギリスが参戦するとは予想だにしていなかった。学生時代の歴史教科書が懐かしい、「独・(伊)・墺」と「英・仏・露」の争いである。
ここまで大掛かりではないにしても、韓国の執拗な思い込みと日本の無関心(過去の日・韓関係を振り返れば分からなくはない、最近、政府筋が言って来た、韓国に対する“戦略的放置”に通ずる)との間のすれ違いは、気になるところだ。隣国同士、仲が良いためしはないのが世の常とは言え、ええ加減にせい、という私たち日本人の思いは、どうも韓国には全く通じていそうにない。GSOMIAそのものはともかく、韓国が北や中国の磁場に引き寄せられることになるとすれば、日本の安全保障に小さからぬ影響があるのが、やはり憂慮されるのである。
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