残り3試合にしてようやくリーグ制覇へのマジックを1とした巨人が、昨日、4年ぶり39度目の優勝を決めた。二軍監督時代は鬼軍曹と言われた阿部慎之助が監督になって、若手へのシフトが必要となる中、のびのびと野球をやらせるために仏の顔に切り替えたなどと言われるが、なかなか波に乗り切れず、さぞ内心の葛藤があったことだろう。広島や阪神と首位攻防を繰り返す中、どうやら優勝が見えて来たのは、9月10日からの二位・広島とのマツダスタジアムでの3連戦に3連勝した時で、分水嶺となった。二年連続Bクラスから見事に復活したことを祝したい。
今年の巨人は、捕手出身の阿部監督らしく、守りが堅かった。菅野、戸郷、グリフィンの先発投手陣と、船迫、高梨、バルドナード、そして守護神・大勢らの救援陣が、大崩れすることなくシーズンを乗り切った。何より失策の数がリーグで断トツに少なく、結果としてチーム総失点は両リーグを通じて最少である。
他方、打撃はパッとしなかった。ベテラン坂本にいつものらしさがなく、開幕から固定されなかった3番に、新外国人ヘルナンデスが交流戦から合流した時には光明を見る思いだったが、8月中旬に骨折で離脱してしまった。結果として、主砲・岡本の前後の打力が弱く、岡本一人がマークされ、本塁打、打点ともにヤクルト・村上に次ぐリーグ2位の記録をマークしながら、得点圏打率は長らく低迷し、期待通りの活躍にならなかった印象がある。これは巨人の4番の宿命でもあり、逆に彼が打った時の盛り上がりようは格別で、実際にその試合の勝率は高い。
そもそも今季は、個別のチーム事情を超えて、セ・パともに投高打低が顕著だった。高校野球では今春から低反発バットが導入され、夏の甲子園でホームランが減少したことが話題になった。プロ野球でも、ホームラン数は昨年より2割程度少なく、今日時点で30本を超えているのはパの山川とセの村上だけ、3割打者はパに一人、セに二人だけである。他方、防御率1点台はパに一人だが、セには5人もいる。
これに対し広澤克実氏は、投手の球速が年々、上がっており(直近10シーズンで、ストレートの平均球速は141.4kmから146.6kmまで上昇)、打者は速球に対応するため、アオダモよりメイプルやバーチのような軽量バットを使い、飛距離が犠牲になっているのではないかと分析される。選手の声を拾うと、バットの芯に当たると普通に飛ぶのだそうで、軽いバットを選ぶことでスイングスピードは維持できても、遠心力が減少するため数メートル手前に落ちてしまう、という見立てだ。大谷翔平が今季は34.5インチという、昨季より1インチ長いバットに変えてホームランを量産しているのと対照的だ。バットに当たった瞬間に生じる打球の初速を見ても、大谷が180〜190キロを叩き出しているのに対し、日本では村上や岡本でも170キロ台、その他の選手は平均して160キロ台に留まっているらしい。メジャーでも実力が傑出している大谷と比べても仕方ないが、日本の打者がボールの反発係数を充分に活かしきれていないのは明らかだと、広澤氏は言う。
かつて日本シリーズで、DH制で進化したソフトバンクの投手にセの打者が太刀打ち出来ないことが話題になった。巨人は2019、20年とソフトバンクに2年連続で4タテを食らう屈辱を味わった。その後、セでも投手育成法が進化し、投高打低を招いているのかもしれない。かつて江川卓が一人で9回を投げ切るために緩急をつけ、一発病だとか手抜きだと白い目で見られたような、ある意味で悠長な時代ではもはやなく、投手の分業が進み、中6日で5回を全力投球されれば、大谷翔平のフィジカルを真似るのは難しくても、バッターにも相応の覚悟が問われるのだろう。そのような環境の変化は明らかだ。
メジャーでは、野球が遅い、退屈といった理由で若者の支持を失ったことから、投球間隔に制限を設けるピッチクロックが導入された。息詰まる投手戦もいいが、良いところで一発が出ないイライラったらありゃしない。投げて、打って、走っての躍動こそがプロ野球の醍醐味である。打者もこのままで留まるはずはなく、何らかの対策を打つことに関しては楽観している。投手と打者がそれぞれに切磋琢磨し、何よりも面白いゲームを魅せてくれることを期待している。
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