正暦二年諒闇の春、さくらの枝につけて、道信朝臣につかはしける 実方朝臣
墨染のころもうき世の花さかりおり忘てもおりてける哉
返し 道信朝臣
あかさりし花をや春も恋つらんありし昔を思ひ出つゝ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
ほりかはのおほきおほいまうちきみ身まかりにける時に、ふか草の山におさめてけるのちによみける かむつけのみねを
深草の野辺の桜し心あらはことしはかりはすみそめにさけ
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
嵯峨の院かくれさせ給ひての春、きさいの宮たちのおはしますところに、花をさし入れて かやが下折れの関白
かかりけることしの春の花なれば色をも香をも憂しとこそ見れ
その花に書き付けさせ給ひける 中宮
かかりけることしの春に長らへて憂しとも花を見るぞ悲しき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
子にまかりをくれて侍けるころ、東山にこもりて 中務
さけはちるさかねは恋し山さくらおもひたえせぬ花のうへかな
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
やよひのころ、人にをくれて歎ける人のもとへつかはしける 成尋法師
花さくらまたさかりにて散にけんなけ木の本を思ひこそやれ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
さくらをうへをきてぬしなくなり侍にけれはよめる よみ人しらす
うへをきし人なき宿の桜花にほひはかりそかはらさりける
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
三月になりぬれば例の月に参りたれば堀河院の花いとおもしろし。兼方、後三条院におくれ参らせて、
いにしへに色もかはらず咲きにけり花こそ物は思はざりけれ
と詠みけん、げにと覚えて、花はまことに色もかはらぬけしきなり。
(讃岐典侍日記~岩波文庫)
むすめにまかりをくれて、又のとしの春、さくらの花さかりに家の花を見て、いさゝかにおもひをのふといふ題をよみ侍ける 小野宮太政大臣
さくら花のとけかりけりなき人をこふる涙そまつはおちける
平兼盛
おも影に色のみのこるさくら花いく世の春をこひむとすらん
清原元輔
花の色もやともむかしのそれなからかはれる物は露にそ有ける
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
弘安元年三月、藤原景綱ともなひて西山の良峰といふ寺にまうてゝ、外祖父蓮生法師旧跡の花のちり侍けるをみて人々三首歌よみ侍けるに 前大納言為氏
尋きて昔をとへは山里の花のしつくも涙なりけり
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
道命法師なくなりて後、法輪寺のいほりの桜の咲たるをみて 赤染衛門
たれみよと猶にほふらん桜花ちるをおしみし人もなき世に
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
前大僧正行玄身まかりて後、何事も引かへてなけかしくおほえ侍けるに、又の年の春、ひえの山にのほりて、花のおもしろく咲たりけるを見てよみ侍ける 前大僧正全玄
けふみれは深山の花は咲にけりなけきそ春もかはらさりける
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
花のさかりに藤原為頼なとともにて、石蔵にまかれりけるを、中将宣方朝臣、なとかかくと侍らさりけむ、後のたひにはかならす侍らむときこえけるを、そのとし中将も為頼も身まかりにける、又の年、かの花を見て大納言公任につかはしける 中務卿具平のみこ
春くれは散にし花も咲にけりあはれ別のかゝらましかは
返し 前大納言公任
行かへる春や哀と思ふらむ契し人の又もあはねは
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
式部卿敦慶のみこなくなりて、右衛門督兼輔とふらひて侍ける返事に 三条右大臣
春ことに花はちるとも咲ぬへし又あひかたき人の世そうき
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)